「出現。羽生結弦。急急如律令」『notte stellata 2025』…それが「SEIMEI」であることは歴史の必然だった『羽生結弦notte stellata2025』紀行(5)

目次
「出現。羽生結弦。急急如律令」
ああ、やっと戻ったか――『ボレロ』の闇から。
羽生結弦の幽玄な袖がまだ脳裏を翻る、それでも――『notte stellata』は止まることをやめない。
「霊力の支配する時空」が続く。
そうか、やはり『SEIMEI』だ。
野村萬斎と羽生結弦。
私はこの二人に、どこへ連れ去られてしまうのだろう――。
そうだ、連れ去られるのだ。
悪霊跋扈なる末法の世に
天変地異なる末法の世に
安倍晴明と式神が立ち向かった、末法の世に。
「出現。羽生結弦。急急如律令」
晴明の形代が放たれ、式神が顕現する。
「青龍避万兵」
「白虎避不祥」
「朱雀避口舌」
「玄武避万鬼」
「黄龍伏魔」
五芒星と神獣、そして結界――。
護り続けたこの国の遠き世に、末法の世に
歴史を紐解けば、陰陽師は少年の従者を使役していた。それはいつしか「式神」とされた。氷上、いまだ青年どころか少年の面影すら残す羽生結弦はまさに「式神」であった。華奢なる美と強靭なる美というパラドキシカルな存在としての羽生結弦が晴明=萬斎の呪術によって、より神秘めく。
そう、まさに式神。
式神は少年の姿――清少納言『枕草子』における「陰陽師の元なる小童べこそ」の「小童」を式神のことだと解釈する学者もいれば、いやそうした陰陽師と共にあった有能な少年たちがのちに式神と目されたとする学者もある。
また後の『宇治拾遺物語』にも「晴明、蔵人少将を封ずる事」とある。『古今和歌集』「人を伏せて守らすれば」の「伏せて」は形代であるとされる。こっそり見えないように置いたり、忍ばせたりすることを「伏す」と言った(※)。
私はそうした時代に、晴明らが闘い、護り続けたこの国の遠き世に、末法の世に連れ去られてしまった。
東日本大震災をはじめコロナ禍という奇病、戦乱や天変地異は絶えることがない
末法――晴明が活躍した紀元1000年前後の平安中期は末法の世にあるとされた。