「70年の時とは全く異なる」NYタイムズが大阪万博に辛辣意見…経済アナリストは「一体何を発信し、誰にみてもらいたいのか分かりづらい」

大阪・関西万博が4月13日開幕し、様々な話題を振りまいている。開幕から7日目までの総入場者数は60万人を超えたが、混雑に伴う通信障害や暑さ対策など課題が次々と浮き彫りになり、運営や建設費にも疑問の視線が送られている。メディアやSNS上で取り上げられるのはパビリオンよりも、「メタンガスが検出」「警備員が土下座した」「まだパビリオンの開館が間に合わない」といったネガティブ情報で、デマや不正確な情報も飛び交う。経済アナリストの佐藤健太氏は「コンセプトはあるものの、一体なにを発信したいのか、誰に見てもらいたいのかが分かりづらい」と指摘する。1970年以来55年ぶりとなる大阪での万博は「成功」なのか―。
目次
NYタイムズの辛辣な意見
今回の大阪・関西万博は、人工島・夢洲(大阪市此花区)を会場に4月13~10月13日の184日間開催される。テーマは「いのち輝く 未来社会のデザイン」で、コンセプトは①展示をみるだけでなく、世界80億人がアイデアを交換し、未来社会を「共創」②万博開催前から、世界中の課題やソリューションを共有できるオンラインプラットフォームを立ち上げ③人類共通の課題解決に向け、先端技術など世界の英知を集め、新たなアイデアを創造・発信する場―の3つだ。
公式サイトをのぞくと、万博には「人・モノを呼び寄せる求心力と発信力がある」とし、「2020年東京オリンピック・パラリンピック後の大阪・関西、そして日本の成長を持続させる起爆剤にします」と開催目的をうたっている。持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献や日本の国家戦略「Society5.0」の実現を目指すのだという。
もちろん、理念や目標を高く設定するのは構わない。ただ、そもそも万博の開催意義がどれほどあるのか疑問を持つ人も少なくないだろう。時事通信は4月21日、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が大阪・関西万博に関し、1970年の大阪万博の記憶を呼び起こすものであり、かつての熱気を取り戻そうとするイベントだが、日本の現在の経済環境は「70年の時とは全く異なる」と報じたことを紹介している。それによれば、日本が高度経済成長期にあった70年代は「経済的な奇跡として歓迎された」と指摘した上で、「日本は90年代初めの不動産・株式バブル崩壊以来、経済が停滞。人口は減少し、急速に高齢化した。債務は膨れ上がっており、経済成長見通しは現在、米国との貿易を巡る緊張の高まりで一段と危機に直面している」という。まさに、その通りだろう。
大阪・関西万博が一体なにを発信し、誰に見てもらいたいのか分かりづらい
ニューヨーク・タイムズは1月に「2025年に行くべき52カ所」を発表し、30番目に富山、38番目に大阪を選出。大阪・関西万博が開催されることやJR大阪駅の再開発区域を取り上げた。筆者は頻繁に関西を訪問しているが、近年の大阪は外国人観光客が目立つ。ランクが高いホテルだけでなく、ビジネスホテルも人気で特に大阪駅周辺は予約が取りにくい状況が見られるほどだ。大阪観光局の発表によれば、2024年に大阪府を訪れた訪日外国人は1463万9000人となり、コロナ禍前を超えて過去最高を更新している。
2024年の訪日客は3686万9900人、消費額が約8兆1000億円(いずれも過去最高)であることを考えれば、すでに大阪の魅力や勢いはそれだけ高いということだ。実際に訪れてみると、大阪駅周辺はグルメやファッションを楽しむ人々でにぎわい、有名ラーメン店やタコ焼き店などは長蛇の列ができている。アジアから訪れる外国人は大阪のインバウンド全体(2024年)の6割超に上り、中国からは約382万6000人と前年比3倍の訪問があった。米国や欧州などの訪問客も急増していることがわかる。
主な目的としては「公衆の教育」
それだけに残念なのは、今回の大阪・関西万博が一体なにを発信し、誰に見てもらいたいのか分かりづらい点だ。先に触れたようにテーマや開催目的などはあるにせよ、今イチ胸にストンと落ちてこない。それはニューヨーク・タイムズが指摘した「70年当時」とは異なる状況でありながら、万博の適合性や打ち出すべきポイントが見つからなかったように映る。
外務省の公式ページによれば、そもそも万博とは国際博覧会条約に基づき登録・認定されたもので、「2以上の国が参加した、公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段または人類の活動の1もしくは2以上の部門において達成された進歩もしくは、それらの部門における将来の展望を示すものをいう」とある。すなわち、主な目的としては「公衆の教育」であり、「達成された進歩」「将来の展望」を提示するのが万博の開催意義ということだ。
たしかに万博は1851年に英ロンドンで第1回が開催され、新しい発明や製品などが人々を驚かせてきた。
大阪・関西万博はどのようなインパクトを与えてくれるのか
歴史を紐解けば、技術や物産、芸術の展示を目的とした博覧会や定期市を源にしていると言える。米ニューヨーク万博(1853年)の「エレベーター」、米フィラデルフィア万博(1876年)の「電話」、そして日本で初めて開催された大阪万博(1970年)の「ファミリーレストラン」「ワイヤレステレフォン」「動く歩道」、2005年の愛知万博の「ICチップ入り入場券」「AED」「ドライミスト」といった新しい技術や製品は多くの人々に衝撃を与えた。
では、今回の大阪・関西万博はどのようなインパクトを与えてくれるのか。万博協会は「最先端技術など世界の英知が結集し新たなアイデアを創造発信」とうたうものの、それ以外に実現することとしては「国内外から投資拡大」「交流活性化によるイノベーション創出」「地域経済の活性化や中小企業の活性化」「豊かな日本文化の発信のチャンス」を掲げているに過ぎない。もちろん、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムで経済発展と社会的課題の解決を両立させるイノベーションやアイデアが生まれることを期待したいが、かつての万博のように誰もが衝撃を受けるようなものは見当たらないのである。
55年前、高度経済成長期を象徴した大イベントになった大阪万博は「人類の進歩と調和」がテーマで、会場は「夢」と「希望」が充満した。1970年3月15日から9月13日(183日間)までの入場者数は6421万8770人。1日の最高入場者は約84万人、1日平均は約35万人というのだから驚くしかない。
70年の大阪万博よりも全体として見劣りする
芸術家・岡本太郎氏の「太陽の塔」をシンボルとして、今や当たり前の「ワイヤレステレホン」(携帯電話の原型)や「電気自動車」「動く歩道」が関心を集めた。アメリカ館には月面から宇宙飛行士が持ち帰った「月の石」が展示され、5時間待ちでも見たいという人でごった返した。旧ソ連のロケットや人工衛星も連日長蛇の列ができ、巨大エアドームの「日の丸」技術などは後の市場につながっている。
もちろん、今回の大阪・関西万博でもARデバイスを装着した体験型コンテンツやロボット、最新の触覚技術、先端デジタル技術など「未来の暮らし」を表現する展示は魅力的だろう。55年前の「月の石」も再び見ることができる。世界最大の木造建築「大屋根リング」にも関心が集まるかもしれない。ただ、誤解を恐れずに言えば、やはり1970年の大阪万博よりも全体として見劣りする点は否めないのではないか。
厳しい前評判に比べれば「盛況」と言えるのかもしれない
もう1つ触れておきたいのは、万博の主たる目的である「公衆の教育」という点だ。大阪・関西万博の入場者が50万人を突破したのは開幕6日目で、2005年の「愛・地球博」(愛知県)は9日間かかった。今回の万博の総入場者数は2820万人を想定しており、「愛・地球博」の約2200万人を超える来場者設定にしている。
ただ、これは1日平均15万人、1週間で105万人の来場者が必要となる計算だ。「愛・地球博」の1日入場者数は最高で28万人を超えたが、今回の万博は開幕日の4月13日が14万6000人(うち関係者は2万2000人)、14日は7万人(同1万7000人)、15日は6万4000人(同1万6000人)、16日は7万4000人(同1万5000人)、17日は8万3000人(同1万5000人)、18日は9万4000人(同1万5000人)、19日は11万人(同1万5000人)、20日は9万2000人(同1万6000人)となっている。
厳しい前評判に比べれば「盛況」と言えるのかもしれないが、このままでは目標達成は容易ではないだろう。朝日新聞が4月19、20日に実施した世論調査によれば、大阪・関西万博に「行きたい」は32%で、「そうは思わない」は65%だった。
東北から行きたいという人は2割弱
開催地近辺の「近畿」で行きたいという人は51%に上ったが、「東北」(2割弱)などは低いのが気がかりだ。吉村洋文・大阪府知事は「万博には意義があると思っているが、損益分岐点の1800万枚は目標にして進めたい」とした上で、「改善点を改善していき、来ていただいた人に楽しんでもらえることが重要。それが販売枚数につながる」としているが、PR戦略の失敗も含めて改善点は少なくない。
一般財団法人「地球産業文化研究所」のデータによれば、「愛・地球博」の来場者は初回来場者が6割以上を占め、リピーターは4割弱だった。近隣の「愛知県」からが43.8%、「岐阜県」5.5%、「静岡県」5.1%で、「関東」は15.2%、「関西」からは12.4%の来場がみられたという。外国人入場者の国・地域別では「台湾」が18.8%、「韓国」15.7%、「米国」13.0%、「中国」11.0%などとなっている。
2004年の愛知県への外国人訪問者数は1日1627人で、「愛・地球博」(2005年)の時は1日5668人だった。経済産業省は大阪・関西万博の経済波及効果が2兆9000億円に上ると試算し、想定する総来場者2820万人のうち訪日外国人は350万人と見込む。国の負担は1600億円超に膨らむという。
日本国内の人気が高まっているとは世論調査結果を見ても思えない
3月の訪日外国人数が約350万人となり、過去最速で年間1000万人を突破したことを考えれば、外国人来場者数の増加は当然あり得る。消費額が約2兆3000億円と前年に比べ高い伸びを示していることも経済にはプラスだ。ただ、「愛・地球博」の来場者は約95%が日本人である一方で、今回の大阪・関西万博は日本国内の人気が高まっているとは世論調査結果を見ても思えない。それは前売り券が約970万枚の販売にとどまり、目標の1400万枚に達しなかったことからもわかる。「公衆の教育」とは何かを考えさせるには十分だろう。
たしかに、万博に向かった人々からは「意外に楽しかった」という声を聞くことも多いのは事実だ。もちろん、実際に行けば面白いイベントであるのは間違いないだろう。ただ、そもそもの万博の趣旨や目的を考えれば、血税を投入する万博が時代に適合したものなのか、誰になにを見てもらいたいものなのかといった点は一度、冷静に見極めていく必要があるのではないか。
今回の万博開催は、ニューヨーク・タイムズが指摘しているように人口減・超高齢社会に突入している日本において、残念ながら「経済的な奇跡」から転落した我が国の現状を感じさせると言える。