竹中平蔵「山尾志桜里さんの公認取り消し、不適切だ」国民民主、政党としての正当性に疑問…日本の未来を左右するのは8月・9月の内閣改造

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 昨年の衆議院選で注目を集めた国民民主党が失速した。支持率は軒並み下がっている。「年収の壁」引き上げ政策における財源の不透明さや、金融所得課税強化への言及などこれまでも首を傾げるような政策はあったが、結果的に山尾志桜里氏の公認取り消し問題に見られるガバナンスの欠如が決定打となった。一方、石破政権はコメ価格対策で支持率を回復するも、構造改革への真摯な取り組みが問われている。短期的な給付金政策も「ばらまき」と批判される。そんな中、経済学者・竹中平蔵氏は、真の改革には「給付付き税額控除」のような抜本的な税制改革と、既得権益に屈しない政治的意志が不可欠であることを主張するーー。

目次

なぜ国民民主党にはがっかりなのか

 昨年の衆議院選で大注目を集めた国民民主党ですが、ここにきて失速しています。国民民主党は年収の壁を103万円から178万円に引き上げる政策を掲げていましたが、私はその財源が示されていないことを残念に思っていました。MMT(現代貨幣理論)のもと、いくらでも国は借金をできると主張する政党もありますが、実際問題、バランスが崩れれば国はデフォルトを起こしますし、とてもリスクの高いことです。だからこそ、国民民主党には政策の財源を明らかにしてほしかったのですが、残念ながら最後まで明確なものはありませんでした。

 財政問題の本質は「入るを量りて出ずるを制す」という基本原則にあると考えています。減税するためには歳出削減をしなくてはいけません。しかし、歳出を削減するというのはとても大きなポリティカルパワーが必要です。それは玉木氏にも、今の石破政権にもありません。

 そんな中で国民民主党の税制調査会が昨年12月に発表した「令和7年(2025年)度税制改革と財源についての考え方」にて、金融所得課税の強化について言及していたことが世間に明らかになり、批判を受けました。

 国民民主党はUAゼンセン、自動車総連、電機連合、電力総連といった労働組合が支援しています。つまり、国民民主党とは労働組合の党だということです。最近の郵政民営化の改悪法案への対応を見ても、自民党が出している法案に国民民主党が賛成するという構図が見えてきました。労働組合の利益を代表する政党としては極めて合理的な判断なのでしょう。

 しかし、ここに問題があります。労働組合の利益と国民全体の利益が必ずしも一致しないということです。特に構造改革が必要な分野において、既得権益を守ろうとする労働組合の立場は、しばしば改革の阻害要因となってしまいます。

山尾志桜里さんの公認問題、「不適切」です

 山尾志桜里さんの公認問題を見ても、国民民主党のガバナンスの問題が浮き彫りになりました。公認を決定するプロセス、そしてそれを取り消すプロセスが全く不透明で、政党としての正当性に疑問符がつく状況です。個人が頼んで公認し、総会で取り消すという、まったく一貫性のない対応は、はっきり言って「不適切」です。

 一度決めた公認であれば、どんな批判があっても最後まで守り抜くのが党首としての責任ではないでしょうか。SNSの反応を見て右往左往するような政党に、国政を任せることができるでしょうか。これでは国民民主党はますます支持を失い、しぼんでいくことになるでしょう。

 その政党のガバナンスを巡っては先日、私は維新の会のガバナンス委員会のメンバーとして、党代表の吉村洋文大阪府知事に政党法の制定などについて提言しました。私たちの提案は二つの柱から成り立っています。

私たち維新に提案した2つのこと

 第一に、全政党に適用される政党法の制定です。維新にはそのリーダーシップを取ってもらいたいと考えています。政党法の根本的な考え方は、政党は党員のためのものであるということです。党員が中心となってガバナンスを行い、党員がトップを決めるような仕組みが必要です。政党法の制定により、透明性の高いガバナンスシステムを構築しなければなりません。会社には会社法があり、宗教法人には宗教法人法があるのに、政党には政党法がないというのは異常な状況です。その異常事態の顛末が自民党の裏金問題であり、また先の国民民主党の公認取り消し問題でしょう。

 第二に、外部の目を入れるシステムの構築です。どこの会社でも今は第三者の社外取締役が入っているわけですから、政党にも同様の仕組みが必要でしょう。

 維新については、大阪と東京の関係がどうなっているのか、意思決定のプロセスがどうなっているのか、もっと明確にしてもらいたいことも伝えました。いわゆる永田町政治からの脱却を目指すのであれば、透明性の高いガバナンスコードを策定し、それを実践していく必要があります。

 さて、いよいよ参院選に向けた準備が本格化していっていますが、自民党の内閣支持率が回復しています。石破政権の支持率が上がったのは、主に小泉進次郎農水大臣の米価格対策の効果によるものです。

参院選で自民は大敗しない、注目は8月、9月の内閣改造

 私たちは世論がいかに移りやすいものか考えさせられます。コメ以外に石破総理がそれまでに抱えていた問題が解決されたわけではありません。世論は飽きやすく、新しい話題に注目が移ると、以前の問題は忘れ去られがちです。

 今世論がそういう状態なので、石破政権が参議院選挙では議席数を減らすでしょうが、それほど大きく負けることはないでしょう。つまり石破政権が続くことになります。そしておそらく、8月か9月には内閣改造が行われることになります。その時の人事こそが、日本の構造改革の行方を左右する重要な分岐点になるのです。

 小泉氏の米価格対策は確かに効果的でした。備蓄米の放出を競争入札ではなく、スーパーなどとの随意契約で行うという判断は正しいものでした。しかし、これはあくまでも短期的な対策です。根本的な問題は、減反政策という構造的な問題にあります。

 米を作らせないで、作らない人に補助金を出すという政策は、世界的な食料不足の中では全くありえない政策です。農業について供給量を制限している産業は米以外にはありません。これが米価格高騰の根本的な原因なのです。そして今後も改革を進めていくのであれば、農協法や農地法の改革は絶対に必要です。つまり農業を大規模にできるようにするために株式会社の参入を認め、生産性を向上させるのです。農協についても、競争原理を導入し、一つの地域に一つの農協しか作らせないという独占体制を改める必要があります。

小泉進次郎、農水大臣留任か、官房長官に出世か

 政府は米価格対策という短期的な政策が功を奏したわけですが、本当の問題はここからです。私は個人的に、小泉氏には農水大臣として残ってもらいたいと強く願っています。

 なぜなら、そうすることで初めて本格的な農業改革に着手できるからです。しかし、自民党内部からは「やめさせてくれ」という声が非常に大きくなっています。既得権益を守りたい勢力にとって、小泉氏の存在は脅威なのです。

 もし石破総理が小泉氏を農水大臣から外すようなことがあれば、それは本当の意味での改革を諦めることを意味します。逆に、どんな圧力があっても農水大臣として残すのであれば、石破政権は真の改革政権として歴史に名を残すことができるでしょう。石破総理が本当に改革を進める気があるのか、それとも既得権益に屈服するのか。小泉進次郎さんの処遇がその答えを示すことになるでしょう。ただ、仮に小泉氏が農水大臣から外されても、無役にはできないので、官房長官などに”出世”させる可能性も十分あるでしょう。

減税か?給付か?いや「給付を含む税制改革を」でしょ

 そんな石破政権は全国民に対して一律2万円の現金給付する政策を参院選に盛り込みました。それに対しては、野党からは「その財源があるなら減税すべき」という批判が噴出し、自治体からも「わずか2万円のために地方自治体の事務負担が膨大になる」という声も上がってきています。

 今、世間では、「減税か給付か」という二者択一の議論になっています。しかし、私は給付を含む税制改革を行えばいいと思っています。それが「給付付き税額控除」という仕組みです。マイナンバーシステムがある今、技術的には十分可能です。給付はした上で、人によって控除額を年末に調整するものです。

 しかし、今回の給付金政策は思いつきのようなばらまきに過ぎません。高額所得者に2万円を渡したところで何の意味もありません。必要のない人に給付するから貯蓄に回ってしまうのです。

 本当に必要なのは、低所得者を対象とした的確な支援です。消費税減税よりも、社会保険料の軽減の方が効果的でしょう。あるいは、ベーシックインカムのような恒常的な給付制度を検討すべきです。

 明確な方向性を示し、それを実行に移す政治的意志――。既得権益に配慮した曖昧な政策ではなく、国民全体の利益を考えた大胆な構造改革が求められているのです。

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