そりゃトランプも怒るでしょ…アポなし訪米「成功率100%」を自慢し交渉失敗した自民政権の末期…赤沢大臣の重大責任

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 米国のトランプ大統領が7月7日、日本からの輸入品に25%の関税を課す方針を表明した。過去5年連続で対米投資残高がトップの同盟国に対する「七夕」の贈り物としては、あまりに悪い冗談だろう。石破茂首相は「誠に遺憾だ」とは言うものの、無為無策ばかりが目立つ。トランプ氏は相互関税の上乗せ分を発動させる日を8月1日まで約3週間延期したが、実現すれば日本企業には大打撃だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「一体、首相や担当閣僚は何をしてきたのか。同盟国としてのコミュニケーションを微塵も感じない」と厳しい。はたして、日本経済は沈んでいくことになるのか―。

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交渉ちゃんとしてたのでは…とうとうトランプがブチギレた

 予想されていたとはいえ、実際にその日が訪れるとショックは大きいものだ。トランプ大統領は相互関税の上乗せ分の停止期限と設定した7月9日の2日前、7月7日に自身のSNSで石破首相宛の書簡を公開した。そこには「片思い」の日本に対して、「やっぱり、無理だわ」と振り切るトランプ大統領の強い不満を感じさせる文言が並ぶ。

「日本と米国の関係は、互恵的とは遠い」

「この赤字は我々の経済と安全保障にとっての脅威だ」

 それぞれの国・地域に課すとしている相互関税は、これまで日本は24%だった。8月1日から発動される新たな関税率は25%になるが、それでもトランプ氏は「日本との間にある貿易赤字を是正するためには不十分なものだ」と主張している。何ともやるせない気になるのは、次のようにも書き連ねていることだ。

「日本が対米関税を引き上げることがあれば日本への関税は上乗せされる」

「米国に市場を開放し、非関税措置や貿易障壁を撤廃するならば再調整を検討する」

「関税は日米関係によって上下の修正される」

 誤解を恐れずに言えば、完全に「上」からの言い方なのである。今さらながら、一体いつまで日本を「51番目の州」扱いするつもりなのかと言いたくなる。トランプ氏は7月7日に日本以外の13カ国に対する新たな関税率を公表しているが、4月の発表時と比較すると日本とマレーシアの2カ国だけが上昇。それ以外は「据え置き」「引き下げ」となっている。あまり自国のことを悪く言いたくないが、日本政府は何をこれまでやってきたんだと憤りを禁じ得ない。

「同盟国である日本は特別」という錯覚

 にもかかわらず、石破首相にいたっては「誠に遺憾だ」としながらも、「書簡に税率は、トランプ大統領が最近発信した30%や35%ではなく、事実上据え置きするものであり、かつ協議の期限を延長するものだ」と安堵したような心情を漏らしている。たしかに今後の日米交渉次第では関税率が修正される余地は残されているものの、「米国との協議を経て議論には進展も見られる」とまで言うのならば結果を出すことが求められるのは当然だ。なにより、関税率のアップは企業活動や経済に大きな影響を与える。

 首相は「安易な妥協を避け、求めるべきものは求め、守るべきものは守るべく厳しい協議を続けてきた」とも語っているが、それって本当かと疑問視する向きは少なくないのではないか。公開された書簡は国名や首脳の名前を除き、文面が同様だったことも「同盟国である日本は特別」という感覚が錯覚であることを感じさせるには十分だ。

「交渉力も、人脈も乏しかった」

 ズバリ結論を先に言えば、今回は「日本外交の大失敗」と言って良いだろう。それは交渉担当の「窓口」を見ても明らかだ。石破首相は最側近とされる赤沢亮正経済再生担当相を「トランプ関税担当」とした。信頼できる人物とすることで米政府との意思疎通がスムーズにいくと考えたのだろう。もちろん、ここまでは良い。

 だが、問題は昨年秋に発足した石破政権で初入閣となった赤沢氏の「経験値」が劣っていたとみられることだ。交渉力も、人脈も乏しかったと見る政府関係者は少なくない。「赤沢?WHO?」のスタートから関税交渉をまとめ切るのが難しいことは容易に想像がつくところである。

 時事通信は7月1日、「おいおい」と思わせる記事を配信した。「アポなし訪米『成功率100%』 赤沢氏、関税交渉巡り」と題した記事で、関税交渉担当の赤沢氏は過去7回の米国訪問の多くは米政府要人との「アポ」がないまま現地入りしていたというのだ。赤沢氏は7月1日の記者会見で羽田空港を離陸した時点で日程は確定していないことがほとんどだったとした上で「押しかけてカウンターパートの閣僚と会えなかったことはない」と強調している。まさに“結果オーライ”ということなのかもしれないが、6月末の訪米時にはベッセント米財務長官との会談は実現できなかった。

赤沢氏のやり方には問題があった

 赤沢氏は7月3日と5日にラトニック米商務長官と電話し、「突っ込んだやり取りをした」とのことだが、それらの結果が「25%」への引き上げなのである。それも同盟国でありながら、なぜかマレーシアと2カ国だけ税率がアップされるというのでは「交渉」のプロセスや戦略に何らかの問題があったと言わざるを得ないだろう。

 日本は1987年から日米地位協定第24条に基づき、米側に負担義務がある在日米軍駐留経費の一部について特別協定を締結した上で負担してきた。同盟国としての「絆」があるはずなのに、担当閣僚が「アポ」を入れにくいという関係性は理解に苦しむものだ。もちろん、その責めを赤沢氏にだけ求めることはできない。トランプ政権はこれまでの「常識」が通用しないとされ、米国内でも様々な摩擦を招いているからだ。

仮にも日本政府の代表でしょ…

 ただ、日本を離陸する前に現地で誰と会えるのか確定できないというのは異常だろう。単なる与党議員レベルであれば中国の要人と会う日時が確定するのは現地入りしてからという話は聞いたことがあるが、仮にも赤沢氏は日本政府の代表であり、石破首相の最側近とされる人物だ。にもかかわらず、米国側が「おもてなし」する心がないというのはトランプ流交渉術もあるのかもしれないが、別の意図さえ感じてしまう。

 つまり、「赤沢氏と交渉するつもりはない」という意志だ。日本の政府関係者によれば、赤沢氏は「真正面から『交渉』しすぎている」との評がある。東大法学部を卒業後、旧運輸省に入った秀才なのだが、「元官僚らしく、トランプ大統領側に対しても『それはNO』と言うのが感情を逆撫でしているのではないか」と心配する声があがるほどだ。

 過去にトランプ大統領サイドと交渉したことがある政治家や官僚たちは「トランプ氏は否定されることが大嫌い」と口をそろえる。この点を踏まえれば、変化球を投げることなくストレート勝負を挑む赤沢氏のスタンスは「いら立ちの対象となり得る」(政府関係者)というわけだ。何も「国益」を害してまで変化球を投げる必要はないことは当然だが、交渉というからにはストレート1本だけで勝負するのは難しいだろう。

 米政府関係者は「何度会ったかという回数ではない」としており、赤沢氏が訪米する回数よりも「中身」が重要であるとメッセージを発している。

このままでは日本経済に大打撃

 この点、石破首相は何らかの「交渉材料」を赤沢氏に与えなければ協議は再び時間切れとなるのではないか。次なる期限である8月1日までの間に明確なロードマップを示せなければ日本経済には大打撃となる。

 コメ価格の高騰がようやく落ち着いてきたかと思ったら、今度は米国による相互関税で先行き不安が続く日本。政府内には「参院選中の日本政府が動きにくいタイミングで仕掛けてきたトランプ大統領のディール(取引)はやはり上手い」と驚く声もあがっているが、そんなことは国民にはどうでもいい。大事なことは「結果を出す政治」であり、「国家・国民を守る」ことである。失われた30年は、もう見たくない。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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