杉田水脈氏が川口で「選挙妨害」被害届!外国人・物価高の政策訴え…経済誌元編集長「保守・女性ばかりが狙われる」

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  自民党の杉田水脈氏が今月4日、埼玉県川口市での街頭演説を妨害されたとして、県警川口署へ被害届を提出したと産経新聞が報じた。杉田氏は20日投開票の参院選の比例代表に自民党から立候補している。国民生活に密接する外国人問題や物価高について政策を語っていたというが、政治家がどんな主張をしたとしても「言論の自由に対する威圧」は許されることではない。なぜこんなことが起きているのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が分析するーー。

目次

複数の男性が杉田氏を取り囲み怒声

 民主主義社会の根幹を成す選挙運動の自由が、物理的な暴力と脅迫というテロリズムによって深刻な危機に瀕している。特定の政治的信条を掲げる候補者、とりわけ保守的な主張を行う女性政治家が標的とされる事案が相次いでいる。言論は言論によって応酬されるべきという民主主義の絶対原則が、今まさに破壊されようとしている。

 参議院選挙期間中、自民党の比例代表候補である杉田水脈氏が、埼玉県川口市での街頭演説において許しがたい言論封殺テロに遭遇した。7月4日、JR川口駅東口で、杉田氏が国民生活に密接する外国人問題や物価高について政策を訴えていた。その最中、複数の男性が杉田氏を取り囲み、大声で怒声を浴びせ、至近距離から威圧を加え始めた。妨害は演説を遮るだけに留まらず、1人の男性が杉田氏の体を押すという直接的な暴行にまで発展した。この暴挙により、選挙演説は一時中断を余儀なくされた。暴行を加えた男性は現場で逮捕された。

 杉田氏側は7月8日付で、この一連の行為が公職選挙法違反の選挙の自由妨害と暴行罪に当たるとし、埼玉県警川口署へ被害届を提出した。現場では「選挙を差別に利用するな」と書かれたプラカードが掲げられていたという。

 この種の妨害は杉田氏に限ったことではない。今回の参院選では、候補者が身の危険を感じる事案が複数発生した。東京選挙区から立候補した参政党のさや氏の後援会事務局には、同氏の殺害と事務所の爆破を予告する電子メールが届いた。

 国民民主党の牛田茉友氏は、選挙カーが長時間追尾されるストーカー行為を受け、安全確保のために活動日程の事前公表を中止する決断を下した。無所属で立候補した山尾志桜里氏も出馬表明以来、殺害予告を受け警察に被害届を出している。また、参政党の鹿児島県連は、演説中に至近距離で批判的な動画撮影を続ける男性による妨害行為で、警察が介入し活動が2時間中断する事態となった。

女性や特定の背景を持つ政治家が、複合的な憎悪の対象に

 公職選挙法は、演説の妨害や交通の妨害などによって選挙の自由を妨げる行為を明確に禁じているが、その適用と抑止力には限界が見え始めている。

 このような政治家個人への攻撃や選挙活動への妨害は、決して日本だけの特殊な問題ではない。欧米の先進民主主義国家においても、政治家への脅迫や暴力は党派を問わず深刻化している。政治的対立の先鋭化が、異なる意見を持つ相手への憎悪を煽り、一部の人々を過激な行動へと駆り立てている。特に、女性や特定の背景を持つ政治家が、複合的な憎悪の対象となり、より悪質で執拗な攻撃の標的となりやすいことは、国際的な共通課題として認識されている。政治家が身の安全を確保するために、有権者との直接的な対話の機会である街頭活動を縮小せざるを得ない状況は、民主主義の機能不全を意味する。

 暴力や脅迫によって特定の言論を封じ込めようとする試みは、加害者の意図とは全く逆の結果をもたらすことが少なくない。このような攻撃的な行動は、被害を受けた候補者への同情を呼び起こし、かえってその候補者や主張への注目度を高めるという逆説的な効果を生む。

政策への賛否とは無関係に、多くの人々が人間的な共感を覚える

 この現象はいくつかの心理的メカニズムで説明できる。

 第一に「個別被害者効果」が働く。人間は「100万人の統計」のような抽象的な情報よりも、「暴行を受ける一人の候補者」という具体的で顔の見える個人の物語に、はるかに強く感情を動かされる。杉田氏のケースでは、外国人問題という政策論争が、演説を妨害され脅威に晒される個人の姿に転化する。これにより、政策への賛否とは無関係に、多くの人々が人間的な共感を覚えたり、卑劣な妨害行為への義憤を感じたりする。

 第二に「団結現象」が生じる。社会心理学でいう集団バイアスが働き、支持者たちは自らが支持する候補者への攻撃を、自分たちの価値観やアイデンティティへの直接的な攻撃と見なす。共通の脅威に直面した集団の結束が強まるように、支持者コミュニティ内での連帯感が高まる。この心理は「我々の代表を守らねばならない」という強い動機付けとなり、それまで静観していた支持者や無関心層を、より積極的な支援行動へと駆り立てるエネルギー源となり得る。

マスコミの一方的な情報発信が国民の意見形成していた時代は終わり

 第三に、インターネット時代特有の「ストライサンド効果」が作用する。妨害者の意図は、候補者の主張が有権者に届くのを防ぐことにあったはずである。しかし、妨害行為の映像やニュースがSNSで共有されると、その情報は瞬く間に拡散される。結果として、妨害者の意図とは裏腹に、候補者の名前や主張、そして理不尽な妨害を受けたという事実そのものが、当初の聴衆をはるかに超える広範なオーディエンスへと伝播する。これは意図せざる広告効果を生み出し、暴力は対象の主張を抹殺するどころか、世間の注目というスポットライトを当てる皮肉な結果を招いている。

 杉田水脈氏の事件もまた、同氏の主張に賛同する人々の危機感を煽り、支援の輪を広げる可能性がある。

 現代社会における言論空間は、SNSの登場によって革命的な変化を遂げた。旧来のマスメディアが一方的に情報を発信し、国民の意見を形成していた時代は終わりを告げた。SNSは、あらゆる個人が自身の意見を発信し、既存メディアの偏向した報道や意図的な情報操作を乗り越えて、直接情報をやり取りできる開かれた広場である。

暴力は、議論で相手を説得できない者の敗北宣言

 この自由な言論空間こそが、多様な意見の可視化を促し、民主主義を活性化させる原動力となる。しかし、一部の人間は、この自由な空間を悪用し、異なる意見を持つ他者への暴力的な攻撃を煽り、実行する。問題はSNSという技術やプラットフォームにあるのではない。いかなる道具も使う人間次第で善にも悪にもなる。ナイフが料理にも凶器にもなるように、自由な言論空間も、建設的な議論の場にも、憎悪をまき散らす場にもなり得る。

 暴力という非合法な手段に訴えるのは、議論で相手を説得できない者の敗北宣言であり、その責任は100%行為者個人にある。いかなる社会状況や情報環境があろうとも、最終的に暴力という手段を選択するのは、個人の倫理観の欠如であり、個人の責任に他ならない。社会構造や環境に責任を転嫁することは、加害者の行為を矮小化し、免罪符を与えることに等しい。

 杉田水脈氏が受けた妨害は、単なる一個人の受難ではない。それは日本の民主主義が、対話の精神を失い、暴力が横行する危険な段階に足を踏み入れたことを示す象徴的な出来事である。

言論そのものに対する規制は、民主主義の自殺行為

 この危機に際して、安易に「ヘイトスピーチ対策」や「表現の規制強化」を叫ぶ声が上がることは、火に油を注ぐ行為である。一度、権力に表現を規制する権限を与えれば、その権限は必ず濫用され、時の権力にとって都合の悪い言論を封殺する道具へと変貌する。表現の自由は、たとえそれが不快で、多くの人が間違っていると感じる意見であっても、等しく守られなければならない。暴力や脅迫という非合法な手段に対しては、法執行機関が厳格に対処すべきである。

 しかし、言論そのものに対する規制は、民主主義の自殺行為である。私たち市民一人ひとりが、異なる意見に耳を傾け、対話を通じて理解を試みるという、民主主義社会の構成員としての基本的な責務を再認識することが不可欠である。いかなる政治的信条であれ、暴力によって言論を封殺しようとする行為は断じて許されない。言論には言論で。この原則こそが、私たちが断固として守り抜かなければならない最後の砦である。

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