日本はこれから大増税時代に突入する…地獄が待っている!「消費税減税」でも「給付金」でも参院選後、新税誕生に国民は絶望する

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 石破茂首相が率いる自民党が大惨敗を喫し、国民民主党や参政党といった新興勢力が躍進した参院選。衆院に続いて参院でも与党が過半数割れとなったことにより、これまでは「言いっぱなし」で済んだ野党の責任は重大となるフェーズに移る。参院選で野党が掲げた数々の公約は、本気でやる気があるならば国会で多数派を形成し「実現」させることが可能だからだ。では、具体的にどのような「公約」が実現し得るのか。政界事情に通じる経済アナリストの佐藤健太氏は「与党過半数割れという結果は、『大増税時代』につながる可能性がある」と指摘する。その意外とも言えるワケとは。われわれの生活は変わっていくのか。佐藤氏が解説するーー。

目次

「公約」には財源の裏打ちがいまだ不明瞭なものが多い

「増税メガネ」。岸田文雄前首相が政権発足後につけられた嬉しくないニックネームは、今度は野党サイドに向けられるかもしれない。その理由は、野党が今回の参院選で有権者に約束した「公約」には財源の裏打ちがいまだ不明瞭なものが多いからだ。今回の参院選で、自民党は1人あたり2万円(子供や住民税非課税世帯の大人は1人4万円)の現金給付などを物価高対策として打ち出した。この財源は3兆円台半ばとされ、税収の上振れを活用する構想を描いている。与党は消費税に関しても「現状維持」という立場だ。

 これに対して、野党は「給付」ではなく、「減税」が必要であると訴えた。消費税減税を掲げたのは野党で、立憲民主党と日本維新の会は「食料品0%」(2年)とすると掲げた。仮に実現した場合、想定される減収額は年間5兆円になると見込まれる。立憲は1人2万円の現金給付(財源は2兆5000億円)も掲げており、消費減税に必要となる財源としては「政府基金の取り崩し・外国為替資金特別会計」で対応するという。社民党、日本保守党も「食料品0%」の立場だ。

 消費税を「5%」にすると訴えたのは、国民民主党と共産党。国民民主は実質賃金が持続的にプラスになるまで一律5%に下げ、共産党はまず5%に引き下げてから「廃止」とした。これには年間15兆円の財源が必要となる。れいわ新選組は「消費税廃止」と現金10万円給付を訴え、参政党は消費税の「段階的廃止」を掲げた。廃止に必要となる財源は年間で約30兆円になる見込みという。

 これらの裏打ちとなる財源はバラバラと言える。

「民意」ということならば、「減税」は国民の声

 れいわ新選組は10万円給付と消費減税の財源として「大企業増税・赤字国債の発行」をあげている。立憲は現金2万円給付を「予備費・政府基金の取り崩し」で賄うとした。維新や国民民主党は「税収の上振れ」、共産党と社民党は「大企業・富裕層増税」で実現可能と訴えた。議席を大幅に増やした参政党は、30兆円の財源は「赤字国債の発行」で対応するとし、食料品の消費税率を恒久的にゼロにすると掲げた日本保守党は経済成長による税収増を充てるとした。

 直近の「民意」ということならば、「減税」は国民の声ということになる。衆院でも参院でも少数与党になった石破政権は、野党が一丸となって「減税」するよう突きつけていけば最終的に飲まざるを得ない。ただ、石破首相は投開票日(7月20日)の夜、フジテレビの番組で「(消費減税の)社会保障の財源は一体どこから持ってくるのか。恒久的な財源として確保できなければいけない。社会保障をないがしろにしてはいけない」と否定的な考えを示した。

無理矢理の減税は別の「新税」が必要に

 その理由は、消費税収がすべて社会保障財源に充てることとされているものの、社会保障4経費(年金・医療・介護・子ども子育て支援)の合計額には足りないことがあげられる。財務省の公式サイトによれば、2024年度の4経費合計額は33兆4000億円となっているが、消費税収(国分)は19兆2000億円にすぎず、14兆2000億円が不足していると説明されている。もちろん、これは「大本営発表」であり、実際には国債の償還費などに充てられているとの指摘はあるだろう。ただ、間違いなく言えるのは一時的に減税するのではなく、消費税を減税する場合には巨額の代替財源が必要になるということだ。

 つまり、それらは「将来の増税」とイコールのように感じてしまう。先に触れたように、今回の参院選では「赤字国債の発行」を財源として説明した政党もあるが、一時的には減税の恩恵を受けられるとしても未来永劫、減税策を続けていくだけの財源は捻出できないだろう。無理矢理、消費減税を続けていく場合には別の「新税」が必要になるはずだ。それは、すなわち何らかの「増税」をすることが欠かせなくなるということだ。

減税派の野党も足並みがそろっているとは言い難い

 投開票から一夜明けた7月21日の関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」で、参政党の神谷宗幣代表は「まずやらなければならないのは減税と積極財政のところ」とした上で、「財源論で言い出すと何もできなくなってしまうので、やるとすれば色んな給付しているものを一括でまとめて現金給付でやるという方法と、教育国債を出すという方法と、政府発行のデジタル通貨。こういったものを新たに作って、新しいお金を生み出す」と説明した。

 子育てに関しては「16兆円ぐらい」の規模を考えていると明かし、消費税減税については「大体30兆円ぐらいということで考えています。消費税の減税をするのであれば、まず5年間限定で150兆の国債を出してやってみようという5年間限定のプランを我々は考えています」と述べている。

 一方、れいわ新選組の山本太郎代表は消費税廃止に関して「たとえば、法人税を累進税化していく。金融所得課税を強化していく。こういったことで対応できる」と説明する。要は、消費減税に関しては方向性が重なる政党が多いものの、代替財源は野党間で足並みがそろっているとは言い難いのだ。「税収の上振れ」を活用する、「経済成長による税収増」を充てるといった政党と一致点を見いだすのは容易ではないだろう。

「ガソリン税の暫定税率廃止」

 その結果、何が起きるかと言えば「その場しのぎの減税」が実現することだ。筆者が入手した驚愕の情報によれば、霞が関官僚は極めてしたたかである。その代表例は「ガソリン税の暫定税率廃止」だ。参院選前、立民、日本維新の会、国民民主、共産、参政、日本保守、社民の野党7党はガソリン税の暫定税率廃止法案を共同で提出し、野党の議席が多い衆院では賛成多数となって可決された。まだ、この時は与党が参院で多数派だったため廃案となったが、これからは参院でも野党が多数を占めるため法案を成立させることが可能になる。

 立憲民主党の野田佳彦代表は7月21日未明の記者会見で「10月1日からでも実施みたいな成功体験をもちたい」と意気込む。野党が共同提出した経緯を踏まえれば、「ガソリン税の暫定税率廃止」は実現する可能性が高いだろう。だが、問題はここから先だ。

「新税」導入によって財源を補うというプラン

 ガソリン税は揮発油に課されている「揮発油税」と「地方揮発油税」の総称で、本来の課税額(1リットルあたり28.7円)に暫定税率(1リットルあたり25.1円)が上乗せされている。ガソリン価格が高いのは、合わせて1リットルあたり53.8円の税が乗っているためである。この暫定税率部分がなくなれば、1世帯(2人以上)あたりの年間ガソリン購入費負担は1万円程度低くなると試算されている。一方、暫定税率廃止に伴う税収減は年間約1兆5000億円程度だ。

 実は、すでに財務省を中心とする霞が関官僚は「暫定税率廃止」を視野に入れた動きを見せている。野党が協調すれば廃止法案が可決するためなのだが、先に触れたように税収減を気にする官僚たちのストーリーは狡猾そのものである。種明かしをすると、ガソリン税の暫定税率は廃止するものの、その代わりに「新税」導入をセットにした中身にしようとしている。つまり、たしかに「暫定税率」は廃止される。

 だが、一方で「新税」導入によって財源を補うというプランなのだ。

 政府としては、昨年末に自民党・公明党・国民民主党の3党幹事長が合意した暫定税率廃止を実現する「約束」は果たしたと言いたいのだろうが、これではあまりにも国民をバカにした話ではないか。名前を付け替えただけに過ぎない「減税」に付き合っているほど、国民の生活は余裕がない。これから野党が暫定税率廃止法案を出すならば、その「新税」導入をセットにさせない約束も責任を持って取り付ける必要がある。それは消費減税もしかりだ。国民生活が困窮しているから減税が必要と訴えたにもかかわらず、代わりに別の新税が導入されるのであれば意味がない。

2026年以降には「大増税時代」が待っている

 そもそも、2026年以降には「大増税時代」が待っている。「子ども・子育て支援金」の財源として最大で月1000円が段階的に社会保険料に上乗せする形で徴収される。2025年度の税制改正では、防衛力強化に向けた財源額保のため「タバコ税」の増税も含まれている。2026年4月から実施される見通しで、1箱30円程度が上げられる。

 この他にも車の走行距離に応じて課税する「走行距離税」や「通勤手当への課税」(現在は一定の非課税枠あり)などが検討されている。年金保険料の65歳までの納付延長や「第3号被保険者制度の見直し」などもあり得る。保険料の自己負担がない第3号被保険者は、会社員(第2号被保険者)らに扶養されている専業主婦・主夫が多く、仮に保険料負担が生じることになれば、その家計負担は一気に重くなる。

躍進した国民民主党や参政党の責任も重い

 ここまで読んで頂ければわかるだろう。2024年度の森林環境税を例に出すまでもなく、国は何らかの理由をつけて「新税」導入なり、「増税」なりの検討をひそかに進めてきたのだ。冒頭にも記したが、衆参両院で少数与党になった石破政権は、自分たちだけでは法案も予算も成立させることはできなくなった。

 だが、野党が多数になったからといって選挙で掲げてきた「減税」が思い通りに実現するとは限らない。「減税」法案が成立したからといって、代わりに「新税」が導入されたり、他の税目が「増税」になったり、社会保険料がアップされたりすれば意味がない。それは今回の参院選で有権者が向けた期待とは大きく違うはずだ。

 これからは何もできない与党に代わり、野党の責任が一気に重くなる。野党第1党の立憲民主党はもちろんだが、躍進した国民民主党や参政党の責任も重い。今まで通りに「できもしない」と揶揄される政策を並べることは許されず、国民のために政策を実現しなければならない。だが、その時には「減税」を掲げた政党は代替財源を具体的に示すとともに、「増税」や「新税」導入を許さない徹底ぶりが求められる。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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