タワマンは短期で転売せよ!投資マネーが流れ込んでいるタワマンの落とし穴

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 駅近、豪華な共用部、見晴らしのよさなど、憧れる人も多いタワマン。ただし不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は、「タワマンに長期間住む、あるいは保有することには疑念がある」と話す。タワマン投資をどう捉えるべきなのか、牧野氏が解説する。全3回中の3回目。

※本稿は牧野知弘著「不動産の教室 富裕層の視点が身につく25問」(大和書房)から抜粋、再構成したものです。

第1回:金利の上昇=タワマン投資の終わりの始まり?!ローン返済シミュレーションを考える

第2回:お金持ちは“2種類”にわけられる……伝統的なお金持ちの「財産を守る」不動産の持ち方とは

目次

タワマンの将来は不透明すぎる

 ここでは「投資商品としてのタワマン」について掘り下げるとともに、投資性能だけではない、タワマンの機能性について掘り下げていきましょう。

 近年、急速にその存在感を増したタワマンは多くの物件で中古価格が値上がりしたことから、資産形成の一助になると喧伝され、タワマン売買によって富裕層に仲間入りしたと称するSNS動画なども多数アップされるようになっています。 

 いっぽうでタワマンという超高層建物ならではの高額の管理費や修繕、設備更新費用などについては今後も不透明な部分が多く、将来的に負の資産となることを懸念する声も増え、値上がりに対する怨嗟の声も含めて侃々諤々の状態です。

 このタワマンという不動産を考える場合には、私は取得しても短期間での転売を勧めしています。 

 都心のものが多く、通勤にも便利。さまざまな都心ならではの利便性については言うまでもありません。私自身も、平日は文京区に在住しているのでこのメリットを享受しています。 

 ただ資産としてのタワマンを見た場合には、長期にわたって住むこと、あるいは投資用として保有することには疑念を持っています。 

 多くの人がタワマンを賞賛する裏には、近年の急激な値上がりによる要素が強いことに着眼する必要があります。 

 特に大規模金融緩和が行われた2013年以降、タワマン中古価格は急騰しています。たとえば東京の湾岸エリアのタワマンは当初は坪250万円から300万円程度で販売されたものが現在では坪600万円から700万円台に急騰しています。ざっくり倍になった物件が数多く出現しています。 

 この間で日本国民の年収は増えるどころか下がっているのにもかかわらず、タワマン価格はうなぎのぼりでした。

 この現象を読み解くには投資や節税需要の高まりが背景にあります。つまりタワマンは実需のためのものというよりも金融商品に近い性質のものに変質したといってよいのです。

 人気のタワマンは市場での流通性も高く、転売益を狙った売買が続いているため、手軽に買って売り抜ける投資家の動きが絶えることがありません。晴海フラッグなど、実需ではなくまさに金融商品のように、売買を目的とした投資マネーが流れ込んでいるのがタワマンに代表される都心高層マンションなのです。 

「節税目的」でタワマンを購入する高齢者

 金融商品のように扱われるタワマンですが、もう一つの大きな需要が節税需要です。このことはタワマンを所有している人に、かなりの数の高齢者が含まれていることから説明できます。

 相続の際、不動産は土地については路線価、建物については固定資産税評価額で計算されます。

 多くのマンションでは一般的に販売価格の20%から30%が土地代、残りが諸経費を含めた建物代となりますが、タワマンは戸当たりの土地の持ち分面積が小さく、建物の割合が大きいので、実際の時価よりも評価額が小さくなりやすい構造になっています。 

 また上層部にいくほど時価が高くなる傾向があるので、時価と相続税評価額との乖離が大きくなります。 

 この差額は相続の際に税金が大幅に変わってきます。

 時価に対する評価額がわずか2割程度になる事例も出現して、タワマンは相続対策の妙薬として喧伝されることになりました。 

 特に購入の際に借入金を利用すれば、評価額から元金残債分を控除できることから、タワマンを買っておけば相続税がほとんどかからなくなる事例が多発したのです。 

 またこうした対策を書物やSNS動画などで喧伝する自称専門家も登場したため、一種の「タワマン節税ブーム」が発生するに至りました。

 こうなるともはやタワマンに住むことの利便性だとか快適性などという要素はどこかに飛んでしまい、目の前の節税手段としてとにかくタワマンを買っておきさえすればよいという、なんだか疚しい動機による価格形成がなされるようになりました。

歪んだマーケットは必ず破綻する

 ただ、税務署がこれを黙ってみているはずがありません。 2023年には税制が改正されることになりました。 

 タワマンに限らずマンションの相続評価においては時価と相続税評価額との間に1.67倍以上の乖離があると認められる場合には、評価をいったん時価に戻したのち、これに0.6掛けするというように改められたのです。

  つまり時価の6割以下には評価しないという新基準が適用されたのです。

 こうなると、これまでのようにタワマンのなるべく上層階、つまり時価の高い部屋を買っておけば評価額との乖離がどんどん大きくなる節税効果が高いといって、むやみに高層階で競って買うような風潮には一定の楔が打ち込まれることになりました。 

 今後こうした節税需要がしぼむことによって、対策で購入した高齢富裕層に相続が発生し、物件を受け取る相続人がもう用済みだからといって売却しようにも、節税対策で買う需要が以前よりもしぼんでいるリスクも顕在化するでしょう。 

 特に借入金を含めて節税効果を高めてきた人にとって、今後のマーケットは予断を許さないものになっている可能性があるのです。 

 また、こうした本来の目的とは異なる購入理由が増えることは、実需層を置いてきぼりにし、本来形成されるはずのマーケットを大いに歪めることになります。 

 歪んだマーケットはどこかで必ず破綻します。 

 なんでもそうですが「やりすぎ」は破綻を招き、そしてそこに新しいルールが書き加えられるのです。 

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この記事の著者
牧野知弘

不動産事業プロデューサー。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)など多数。

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