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増税か減税か、結局どっちが正しいの?東京大名誉教授「今は増税すべきとき」

(c) AdobeStock

 政治の場でも度々議論の的になる「減税」。先の参院選では、減税を公約に掲げる野党の躍進が目立ったものの、東京大学名誉教授の井堀利宏氏は、「今の余力があるうちに増税したほうがいい」と指摘する。そもそもの消費税の考え方や増税・減税の効果について、井堀氏が丁寧に解説する。全3回中の第3回。

※本稿は井堀利宏著「知らなかったでは済まされない経済の話」(高橋書店)から抜粋、再構成したものです。

第1回:なぜ物価目標は「2%」なのか?東京大名誉教授が考える、望ましいインフレの形とは

第2回:なぜ景気は変動するのか?東京大名誉教授「景気によって税負担を変えることが望ましい」

目次

将来は「消費額の累進課税」が実現する?

登場人物:井堀教授(70代の経済学者。東京大学の名誉教授)

     佐藤翔太(28歳。編集者)

佐藤:消費税っていつも不人気ですよね。やっぱり逆進性が強いって指摘が大きいんですか?

井堀:うん、一律10%の税率でモノやサービスの消費にかかるから、所得が低い人ほど負担感が大きい。子どもが小遣いで買い物しても、貧しい高齢者が食品を買っても課税されるわけだから、不公平だと感じる。

佐藤:そうか……。さらに消費を減らして景気を冷やすって聞きます。

井堀:購買意欲にブレーキをかけるから、需要を抑えて景気に悪影響を及ぼす可能性がある、って議論だね。

佐藤:逆進性をなくすには、どうしたらいいんでしょう?

井堀:代替案として、累進的な消費税がある。たとえば1年間の消費金額を別途算出して、それに累進的に課税する案。これなら逆進的でなく累進的な課税だから、より公平になる。

佐藤:累進的な消費税ですが、実際にそんな仕組みって作れるんですか?

井堀:まず、現行の所得税は稼ぎを基準に税率を決めているけど、本当の経済力を示すのは「どれだけ消費するか」じゃないかって考え方がある。所得が多くても貯金ばかりで質素な暮らしをする人と、資産があってバンバンお金を使う人とでは、どっちが裕福かって言われたら後者に見えるだろう?

佐藤:たしかに。だから消費額に対して累進的に税をかければ、たくさん消費する人ほど税率が高くなるってわけですね。

井堀:その通り。多くの経済学者が支持していて、現行の消費税みたいな間接税じゃなく、所得税のような直接税としての消費課税をイメージしている。具体的には、所得=消費+貯蓄という式を使って、今年の所得から貯蓄額を引いた金額=今年の消費額として計算し、そこに累進課税をかける案だね。

佐藤:なるほど。問題はどうやって一年間の消費額を正確に把握するかってところですかね。まだ現金取引も多いし、補足するのが難しそう。

井堀:そこが最大の難点だね。でも、将来的にデジタル決済が普及して、キャッシュレス社会が進めばかなり前進する。将来の有力な案だよ。

「住民税非課税世帯」は全員が困窮しているわけではない

佐藤:消費税って一律10%だけど、食料品は8%の軽減税率が導入されているのは、やっぱり低所得者を助けるために有効なんですか?

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この記事の著者
井堀利宏

政策研究大学院大学名誉教授。東京大学名誉教授。 専門は財政学・公共経済学・経済政策。1952年、岡山県生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D取得)。東京都立大学経済学部助教授、大阪大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授、同大学教授、同大学院経済学研究科教授を経て2015年同大学名誉教授。同年4月より政策研究大学院大学教授、2022年4月より現職。

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