海外投資家はなぜ、日本に投資するのか…ワイズマン氏「日本でしかないものを探す魅力」注目の企業と業界は

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 日本株式市場の開放が進む一方で、アクティビストにとって活動しにくい環境が続いている。税制面での不利さに加え、法的リスクの高さが海外投資家を敬遠させ、東京がアジアの金融ハブとなる道のりは険しい。『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』(日経BP)の著者で、東芝やSBIホールディングスで社外取締役を歴任し、現在は米ホライゾン・キネティックス社でアジア戦略を担当するワイズマン廣田綾子氏に、日本市場の現状と課題についてインタビューした――。

目次

政治家が経営や企業の人事に口出しする。海外では信じられません

――日本の経営者や官僚は、アクティビズムに対してどの程度理解しているとお考えですか。

 ワイズマン氏(以下略): 日本企業の社外取締役を務めた経験から言えば、日本の経営者も官僚も、アクティビストによる日本のコーポレートコントロール市場の活性化に対する準備が全然できていないと思います。安倍晋三政権から投資環境は少しずつ変わってきて、政策保有株の保有率も下がってきているので、海外投資家が日本企業の株を買いやすい状況になっているのですが、その意味を日本の官僚の人たちも経営者も分かっていないように感じます。

 市場が開放されることはそれだけ株価も上がりやすくなりますが、その一方でどれだけ自分の会社が危険にさらされる可能性があるのか分かってない。日本はある意味、今まで守られてきたところがあったんです。でも、どうやって自国の利益・自分の会社を守っていくのか、ちゃんと考えていくべきでしょう。

――アクティビストが日本国内で活動しにくい理由は何でしょうか。

 日本市場で活躍しているアクティビストファンドは、主にシンガポールや香港といった低税率の国です。会社もマネージャー自身から見ても日本の高税率がネックになっていると思います。

 詳細は語れませんが、私は個人的に脅かされたこともあります。私は自分の費用で弁護士を雇っていました。何が起こるか分からないから。

あとは政治家が経営や企業の人事に口出しする。海外では信じられませんよ、こんなの。

――香港に代わる金融ハブとして東京が期待されていますが、現状はいかがですか。

 都市規模や経済規模からしても、アジアの金融ハブとして東京は相応しいです。ただ、そうなるためにはまだまだ投資家にとって日本は規制が多くて会社運営にも影響が出ます。また税金が高いのも、問題の一つです。

日本でも受託者責任を明確にするべき

 よく「日本株式市場の7割が外国投資家」って言われますが、保有は3割です。7割っていうのは取引に占める割合です。だからそれだけ頻繁に取引しているわけですよね。取引だけで見ると7割ですが、保有を見ると3割です。

 だからそこを見間違えるとちょっと勘違いしちゃいますよね。海外投資家はたしかに日本市場に対して影響力を持っていますが、実際に長期で持っている人はそんなに多くないのです。

――日本の機関投資家についてはどう見ていますか。

 海外投資家がなかなか日本市場では投資しにくい環境だからこそ、GPIFといった日本の機関投資家に投資先とのエンゲージメントを強化していただきたいです。

 日本の機関投資家は残念ながら、クローゼット・インデックスファンド(アクティブファンドでありながらベンチマークと連動するようなファンド)のような機関投資家も多いのが実情です。日本人の投資家は日本語もできて、日本に住んでいて、一番情報の利点を持っていることを武器にアクティブ運用していただきたいですね……。

 アメリカの場合はエリサ法(従業員退職所得保証法)といった法律があるなど、受託者責任がはっきりしています。この責任をはたしていない場合は訴訟問題となり得ます。

 日本でも受託者責任を明確にして、「パフォーマンスが大事ですよ」ということをルール化していくべきでしょう。

アメリカでは考えられない…豊田自動織機の買収防衛劇

――それでも現状として、アクティビストによる株主提案は増えていますし、市場環境は変わっているのではないでしょうか。

 たしかに中小企業を中心に変わってきていますね。ただ大企業はまだまだですよね。例えば豊田自動織機の買収防衛劇を例にあげると、同社は1株1万6300円で株式公開買い付けの提案をしました。1万6300円は、会社の価値を考えると大変低い値段です。金融機関によっては2万2000円とか2万5000円とか言った人もいますし、アメリカでは考えられない話です。

 セブン&アイ・ホールディングスを巡っても経営陣は、外国為替及び外国貿易法を利用して、日本の安全保障上重要な“第3グループ”にセブン&アイを指定することに成功しました。そしてアリマンタシォン・クシュタールはセブン&アイの買収を断念したんのです。

日本に蔓延る縁故主義…本当に資本主義国家なのか

 日本はまだまだ「クローニー・キャピタリズム」(縁故主義に基づく経済活動)が盛んです。身内には安く売るけれど、外には高い値段であっても売りたくない。本当に日本は資本主義なのかと疑いたくなります。

 つまり日本は少しずつ海外投資家に開放されてきている一方で、本当はどうしたいのか、という議論がまだ国として成熟していないように感じます。開放すれば経済は大きくなります。人口減少などによりシュリンクし続ける日本経済にとっては今後必要になってくることでしょう。その一方で海外投資家が入ってくれば、企業買収のリスクも高まります。そういったリスクに関する国としてのコンセンサスがまだできていないのです。

――土地や不動産に対する外資規制についてはいかがですか。

 日本経済をよりいいものにするのであれば海外マネーを受け入れる必要はあると思います。

 今問題となっている外国人の土地所有ですが、日本国家の主権に関わる問題ですから、安全保障の問題からの吟味の必要性を強く感じます。

 そして私も、今の日本あまりにも外国人にオープンすぎるのではないかとは感じます。特に土地のことです。日本国家の主権に関わる問題ですから、そんなに簡単に外国人に土地を持たれていいのかと疑問を覚えます。

注目のテーマは…

 例えば、アメリカでは軍事基地そばの土地を中国が買っていたりしましたが、それを国として規制しました。中国も原則的には外国人の不動産取得は不可能となっていますし、海外の土地買収についてとても戦略的に動いているのに、日本だけが戦略的に考えてないのです。そこが問題だと思います。

――現在、海外投資家が注目している投資テーマを教えてください。

 まず、AI関連ですね。アメリカでAIのためのデータセンターがこれからたくさんつくられる予定になっていますので、電力の需要がすごく上がるはずです。大体10年間で相当の発電所を作らなくちゃいけなくなります。発電関係の機材をつくっている日本企業にも期待が高まっています。アメリカの同業者に比べてまだ株価が安いのもありますからね。

 次に防衛関係です。トランプからこれだけ強い要求で防衛予算が上がるのは間違いないですね。この恩恵を受けるのは三菱重工、IHIなどです。

「日本でしかないもの」を探して投資する

 そしてIP(知的財産)です。日本のアニメは海外の”オタク”にこれまで人気でしたが、最近ではアメリカのごく普通の人が観るようになってきました。サブカルチャーからメインストリームカルチャーに変わってきています。Netflixといったストリーミングサービスの台頭も影響し、ここでみせる作品の需要が挙がっており、値段も上昇しています。

 日本のコンテンツはこれまで安すぎました。日本の漫画、アニメは海外勢には真似できないものが多いです。このような「日本でしかないもの」を探して投資するのは、私たちのような海外の投資家にとって一番魅力的です。

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この記事の著者
ワイズマン廣田綾子

東京都生まれ。国際基督教大学卒業。1983年、スイスの経営大学院IMDでMBAを取得。84年に渡米後、証券アナリストに。87年より米国株投資担当のファンドマネジャーとして年金基金や労働組合等の米機関投資家の資金運用に携わる。2000年よりヘッジファンドに移籍し、日本株のロングショート戦略で資金運用を担当。10年より現在在籍しているホライゾン・キネティックス社でアジア戦略担当のディレクターとして、日本を含むアジア市場での運用担当に。Nippon Active Value Fund の社外取締役。SBIホールディングス、東芝で社外取締役を歴任。CFA資格取得者。現在、米国ニューヨーク州在住。

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