鈴木エイトが読み解く「参政党の正体」──マルチ商法的な構造と大衆扇動が絡み合う“危うい”成長モデル

都議選や参院選で議席を伸ばした参政党。その存在はもはや「泡沫」と片付けられる段階を超え、政治シーンに一定の影響力を及ぼすまでに至っている。なぜここまで支持を広げることができたのか。背景にある社会状況やメディアの在り方を検証することで、民主主義の根幹にかかわる課題が見えてくる。
ジャーナリスト・作家の鈴木エイト氏が、極右的な思想や排外主義的な側面だけではなく、陰謀論やスピリチュアル、ニセ科学といった要素を取り込み、YouTubeやショート動画を駆使して大衆を惹きつけてきた参政党の手法を分析する。そこには既存の政治勢力にはなかった「情報戦」のモデルが確立しつつあったーー。
みんかぶプレミアム特集「参政党が勝ち、リベラルが負けた理由」第5回。
目次
“右寄り”だけでは語れないーー参政党をめぐる「見えにくい構造」
都議選と参院選で議席数を伸ばした「参政党」に関する言説が注目を集めている。参政党の躍進と背景の考察から、私が昨年以降、懸念している事象について検証してみたい。
まず、極右政党の台頭は日本だけではなく、移民政策を端緒とした外国人排斥などをきっかけにした欧州での先行事例がある。だが参政党を極右政党としての側面でのみ切り取ってしまうと、実態を捉える際に取りこぼしが出てしまう。確かに参政党は右寄りと見られる政治思想や信条を掲げてはいるが、それはあくまで党勢拡大の手段のひとつとそのアウトプットに過ぎないと見ている。
私は昨年の兵庫県知事選における一連の動きと結果を見て、大衆扇動の社会実験である可能性を説いた。その後の選挙においてもどのようにすれば一般大衆を効果的に扇動できるのかというサンプルが積み重なっていく感覚を持った。
昨年4月に行われた東京15区の衆院補選を現地取材した感触から、集客数では参政党より日本保守党の方が支持を集めており、その勢いにはかなりの差があった。参政党支持者の数も減少傾向にあり、党勢は弱まっていると見ていた。メディアの扱いもそれなりのものだった。そんな参政党がなぜここまで勢力を盛り返すことができたのか。
社会実験については私見であるため一旦置き、参政党とは何かということについて検証していこう。参政党は支持を集めてはいるが、一方で多くの人々が警戒しているのも事実だ。構造的な問題を私の視点で解きほぐしてみたい。
参政党が仕掛ける“支持者育成”の手法
参政党のどこが“信奉者”を惹きつけているのだろうか。私から見た参政党のやり方は、支持者を発掘し育てあげるスタイルだと見ている。
参政党の世界感は、結党当初のボードメンバーの思想信条や活動範囲から、陰謀論、スピリチュアル、反ワクチン、反グローバリズム、ニセ科学、自然派、排外主義などが混然となっていた。ボードメンバーの離脱などによって多少の変遷は見られたが、その基本ラインに大きな変化はない。そんな参政党の“世界観”がここまでの大きな吸引力を持つに至った経緯を見ると参政党の世界観が一般市民のニーズに合致したというよりは、その時々の社会の関心事、様々な層に参政党がアプローチし支持者を獲得していったと見た方が正確だ。
YouTubeや切り抜き動画への規制が入る前に最大限利用し、目を惹くキャッチフレーズやキーワードを刷り込むことによって“目覚めた”人々を量産していく。そうやって獲得した関心は単なる共感に留まらず、強烈なファーストインプレッションを起こし、盲目的な服従へと移行する。
こういった手法の萌芽は昨年の都知事選における「石丸現象」において既に見られた。短く印象的な言葉で扇動していく手法だ。今回の参院選で参政党が使った手法も同様だ。ファクトに基づいているのかといったチェックがなされないまま拡散していく言説は 「自分は報われていない」と思っている人々への共感を刺激し、「現状を変えてくれるのではないか」という熱意を生んでいった。この手のポピュリズム的な手法は社会の分断を招きかねない。一見、新たな選択肢を与えているようでその主張は排他的思想と結びつきやすく、意見が違う人を敵と見做しやすいためだ。
無関心層への働きかけは政治への興味を抱かせ投票行動への参加を促す側面もあるが、その参加の仕方が問題である。投票率が上がることは、民意の反映という点では良いことではあるものの、民意が醸成される過程が正当とは言えない。
投票行動に際しては、選択の前提となるものが適切に提示されているのかが問われる。参政党的な手法は二項対立に持ち込み感情に訴えるといったものであり、自由な意思決定が担保されているようで、実際には一定の方向へ誘導していくものだ。複雑な問題を単純化して一見判りやすい解決策を提示し、大衆に直接アピールして支持を得る。理論よりも感情や直感に訴える。これはプロパガンダの手法である。
共感から“取り込み”へ…マルチ商法関係者も関与する
参政党の手法は「マルチ的」でもあると指摘されている。実際に選挙へ出馬した参政党関係者の経歴を見るとマルチ業界にいた人物が散見される。ニセ科学・ニセ医療と指摘されるホメオパシー関連の人物もいる。今回当選した参院議員にも情報商材資格商法の問題人物との関係が取り沙汰された。
その時々の関心事や呼応する層を取り込んでいくやり方は、マルチとの親和性が高い。主義主張に共感していたら、いつのまにか取り込まれているといった構造もみられる。但し、当の本人はそうとは思っていない。こういったマルチの手法はカルトにも見られるものだ。
参政党は他人を操る手法を政治に持ち込んだと言える。その弊害は前述の兵庫県知事選から都知事選を経て顕著となり、今回の参院選で危険水域に達した。
参政党の台頭を許した社会の空気
ではこの“参政党的なもの”はどこから来たのか。参政党の台頭を許したものは何か。