欧州の舞踏芸術から氷上芸術への到達点、羽生結弦という継承者、『Origin』という「地平」(前)

目次
目指した先にある理想と築き上げた伝統
歴史学者、マルク・ブロック(1886-1944)は比較史について著書『比較史の方法』でこう述べている。
「(比較史とは)一つあるいはいくつかの相異なる社会状況から、一見してそれらの間にある種の類似性が存在すると思われる二つあるいはそれ以上の現象を選び出し、選び出された現象それぞれの発展の道すじをあとづけ、それらの間の類似点と相違点を確定し、そして類似および相違が生じた理由を可能な限り説明することである」※
私はこれまで、羽生結弦という存在がロシアバレエ、ロシアのフィギュアスケートといったロシア芸術、およびアスリートとしての身体運動(競技とすればスポーツ)が目指した先にある理想と築き上げた伝統を継承していることを書いた。
意識する、しないに限らず伝統は伝統たり得る限り継承される。それは遥か古えの――それこそ継承する者が知らない時代とその理想もまた無意識のうちに継承される。
フィギュアスケートが現代の様式をほぼ整えた時代から100年余、日本フィギュアスケート発祥の地、仙台に生まれた羽生結弦という存在はこの国のフィギュアスケートのみならず遠くユーラシア、欧州の舞踏芸術から氷上芸術への継承の到達点にある。