なぜあなたは「書類選考」で落とされてしまうのか……時に必要な「自信」と「ハッタリ」

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「転職しようと思って応募したものの、何社受けても書類選考で落とされる……」。転職希望者の中には、こんな経験をした人もいるだろう。ただし「人材定着マイスター」として多くの転職希望者の転職を支えてきた川野智己氏は、日本人はアピールが下手な人が多いと指摘する。書類選考を通過する応募書類の作り方について、川野氏が解説する。全3回中の3回目。

※本稿は川野智己著『転職に向いてない人がそれでも転職に成功する思考法』(東洋経済新報社)から抜粋・再構成したものです。

第1回:転職前に一番大事な「自分軸」を見つけるためのステップ…心の奥に眠る「好き」との出会い方

第2回:その求人票、正しく読めてますか?入社後に「こんなはずじゃなかった」と思わないために必要な知識

目次

「戦略的な応募書類」の作り方

 希望する求人案件が見つかったら、次は応募、そして最初の関門である「書類選考」に臨むことになります。

 どれほど素晴らしい経験やスキル、そして熱意を持っていたとしても、それが応募書類を通じて採用担当者に伝わらなければ、面接の機会すら得られません。

 あなたの魅力を最大限に引き出し、「この人に会ってみたい」と採用担当者に思わせるための、戦略的な応募書類(履歴書・職務経歴書)の作成術を徹底的に解説します。

 まずは、応募書類の方向性を誤り、なかなか選考を突破できなかった難波美和さん(仮名:39歳)の事例から見ていきましょう。

スキルのアピールが裏目に

 急性期病棟で看護師として働く難波さんは、多忙な日々と体力の限界を感じ、介護施設への転職を考えていました。看護師は人手不足であり、すぐに次の職場も見つかるだろうと楽観視していましたが、転職活動を始めて4カ月が経過しても、どこからも内定を得られずにいました。

 その原因は、彼女の職務経歴書にありました。難波さんは、これまでのキャリアで培ってきた急性期病棟での豊富な経験、たとえばドレーン(体内に溜まった体液を排出するための管)や点滴などの観察・管理といった高度な医療スキル、急患対応における臨機応変さ、そして専門知識の高さを、職務経歴書で懸命にアピールしていました。

 しかし、彼女が応募していた特別養護老人ホームなどの介護施設で主に求められていたのは、積極的な医療行為そのものよりも、むしろ入居する高齢者に優しく寄り添い、穏やかな日々をサポートし、場合によっては「看取り(人生の最終段階を自然な形で穏やかに見守ること)」にも対応できるような経験や人間性でした。

 難波さんが誇りに思っていた高度な医療知識やスキルは、必ずしも介護施設の現場で最も優先されるものではなかったのです。

 難波さんは、応募先の施設が求人票でどのような人材を求めているのかを深く吟味することなく、一方的に自分の経験やスキルを羅列した職務経歴書を、いわば“ばらまいて”しまっていたのでした。

 職務経歴書や履歴書といった応募書類は、求人票に記載されている「求める人物像」に、いわば“焦点を合わせて”作成しなければ、「うちの会社が求めている人材とは、どうも方向性が違うようだ」という印象を与えてしまうだけです。

 難波さんは、そのことにようやく気づき、応募書類の抜本的な見直しに取り掛かっています。

謙虚さはチャンスを逃す

 難波さんの事例は、求人側が求める人物像と、自分自身のアピールポイントとの間に「ズレ」が生じていたケースでした。

 一方で、これとは逆に、「自分にはこれといった取り柄もないし……」「採用面接で立派なことを言っても、入社した後に『なんだ、大したことないじゃないか』とがっかりされそうだ……」と過度に心配し、アピールすること自体に遠慮がちになってしまう求職者の方も少なくありません。

 現在の勤務先でも、「こんなに頑張っているのに、なぜ正当に評価されないのだろうか」「なぜ、あの人ばかりが優遇されるのか」「誰も私の仕事ぶりを理解してくれない」と、悩んだ経験はありませんか。厳しい言い方になるかもしれませんが、それはある種の「甘え」と言わざるを得ないかもしれません。

 あなたが考えているほど、他人はあなたのことだけを常に見ているわけではありません。誰もが自分のことで精一杯なのです。それは、直属の上司であっても例外ではありません。かつてのような「飲みニケーション」の機会も減り、部下や同僚の仕事ぶりをプロセスも含めてじっくりと把握することが難しくなっている現代においては、結果だけでなく、自分自身の仕事の価値や取り組みを、自ら積極的に説明していく必要性が高まっています。

 ましてや、あなたのことをまったく知らない他社の採用担当者であれば、なおさらです。書類選考という最初の関門では、応募書類(履歴書と職務経歴書)という限られた情報だけで、あなたが自社にふさわしい人物かどうかを判断されるのですから、簡潔かつ明瞭に、そして魅力的に自分自身を「ディスプレイ」しなければなりません。

 応募者が殺到するような人気の求人案件においては、採用担当者が1人の応募書類に目を通す時間は、わずか数十秒程度と言われています。その短い時間の中で「選考対象外」と判断され、ふるい落とされてしまえば、二度と浮上するチャンスはありません。

入社後に活躍できるかは心配無用

 かつて、「¥マネーの虎」というテレビ番組がありました。起業を志す挑戦者が、自らの事業計画をプレゼンテーションし、「マネーの虎」と呼ばれる百戦錬磨の経営者たちから現金での出資を引き出すという、真剣勝負の番組です。

 出資を求める側も、出資する側も、まさに人生を賭けた戦いでした。プレゼンテーションに虚偽があったり、態度が悪かったり、あるいは事業計画に甘さが見えたりすれば、出資を得られないばかりか、番組内で厳しい叱責や怒号が飛び交うこともありました。

 双方にとって、失敗は自己破産や社会的信用の失墜につながりかねないため、自ずと真剣にならざるを得ないのです。

 さて、求人企業が社員1人を採用する際に、生涯にわたって支払うことになる賃金総額は、いったいどれくらいになるかご存じでしょうか。大卒男性の場合、約2億6200万円(独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計(2022年版)」より)とも言われています。

 求人企業の経営者や採用担当者は、いわば現代の「マネーの虎」です。彼らから、あなたという人材に対する「出資(採用)」を引き出すためには、遠慮などしている場合ではありません。

「入社後に本当に活躍できるかどうか自信がないから、あまり強く自分をアピールするのは気が引ける……」

 もしあなたがそう感じているとしたら、そんな心配はいったん脇に置きましょう。入社後に活躍できるかどうかは、半分以上、受け入れる企業側の育成体制や環境にも責任があるのです。

人生には「ハッタリ」も必要

 皆さんは、余計な不安を抱えることなく、目の前の転職活動、特にこの応募書類の作成に集中することが何よりも大切です。あなたが遠慮することで損をするのは、あなた自身だけではありません。あなたという貴重な人材を見過ごしてしまうことは、求人企業側にとっても大きな損失なのです。

 人間は、一生に一度くらいは「ハッタリ」をかまさなければならないときが来ると、私は考えています。そして、転職活動における応募書類の作成は、まさにその「ハッタリ」をかますべき絶好の機会なのです。

 ここで言う「ハッタリ」とは、決して事実を偽ったり、虚飾を弄したりすることではありません。歌舞伎役者が「見得を切る」ように、あるいはショーウィンドウの商品を最も魅力的に見えるよう「ディスプレイ」するように、あなた自身の価値や魅力を、最大限効果的に相手に伝えるための「演出」や「表現の工夫」のことを指します。

 あなたの持つポテンシャルを信じ、自信を持って、最高のあなたを提示するのです。そうすれば、歌舞伎座の観客が名優の登場に沸くように、採用担当者もあなたの応募書類を見て、こう言うかもしれません。「待ってました!」と。

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この記事の著者
川野智己

転職定着マイスター/組織づくりLABO代表 1962年生まれ。(株)伊藤忠アカデミーの教育マネジャーを経て、大手人材紹介会社の教育研修部長として従事。斡旋した転職者の多くが早々に離職し、労働市場での価値を自ら下げている人(ジョブホッパー)が多く生まれている惨状に強い問題意識を持つ。そこで、転職定着・離職防止に取り組み、8年間にわたり転職予備軍に対して「転職先での働き方・人間関係構築のノウハウ」を伝え、転職後のミスマッチ退職率を1年間で44.0%から9.1%にまで劇的に引き下げた。 その経験を活かし、2006年に組織づくりLABOを設立、代表に就任。日本初の転職定着マイスターとして、転職者および予備軍のべ約2000人に対して個別カウンセリングやセミナーを行っている。併せて、採用側の企業が取り組むべきリテンション(離職防止)策を普及させるべく、全国での講演登壇や主要経済誌への執筆、TV出演などの幅広い活動を行っており、労使両面からの「職場と働き手の最適解」を発信している。

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