大谷翔平のあることに米メディアが衝撃!「まさか、喋るとは」…現地マーケター「広告価値が更に上昇する」アメリカン・ヒーローへと進化だ

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 大谷翔平選手率いるロサンゼルス・ドジャースが2年連続でワールドシリーズを制した。日本だけでなく、当然現地ロサンゼルスでも歓喜したが、米国のメディアは優勝後、大谷の“あること”に注目していた。現地で広告代理店を営む岩瀬昌美氏は「その時、現地は大熱狂した。これにより、大谷翔平の広告価値は更に上がる」と解説する。大谷翔平が「異国のスーパースター」から「アメリカン・ヒーロー」に変わるかもしれないという、そんな行動とは一体なんのことだったのか。岩瀬氏が解説していく――。

目次

米国メディアをざわつかせた大谷翔平

 私はロサンゼルスで広告代理店を経営し、この地で30年以上、日米の文化とビジネスの交差点を見てきました。私の著書『大谷マーケティング』(星海社)でも詳述した通り、大谷翔平選手がアメリカ社会で築き上げたブランドイメージは、日本のそれとは大きく異なり、マーケティング戦略上、非常に興味深いものです。

 その中で、私は常々、日本人メジャーリーガーが現地メディアのインタビューに日本語で答える姿を見て、もどかしさを感じてきました。これは単なる語学力の問題ではありません。これは、「アメリカ社会への帰属意識」と「自己責任の文化」を示すための、最も強力なマーケティングツールを自ら放棄していることに他ならないからです。

 大谷選手は、二刀流という史上稀に見る偉業を成し遂げ、ベーブ・ルース以来の存在として、アメリカ野球界の希望となりつつあります。彼の活躍は、経済効果もさることながら、在米日本人にとっての「ジャパン・プライド」の象徴でもあります。しかし、その彼ですら、通訳を通してのみコミュニケーションを取るという姿勢は、ことアメリカ社会においては、彼のブランドイメージを毀損しかねない側面を常に内包していると私は見ています。

 これまでの多くの日本人メジャーリーガーがそうであったように、大谷選手も現地のインタビューには通訳を使って基本は応えます。しかし、今回の優勝スピーチは英語でした。それは、ホームラン以上のインパクトを持ちました。

 雑誌スポーツ・イラストレーテッドは「Shohei Ohtani Fires Up Dodgers Fans With Speech in English During Championship Parade」(大谷翔平が英語で喋って、チャンピオンシックオパレードのドジャースファンを盛り上げる)などと報じました。「英語で話した」ことがニュースのヘッドになるのは大谷だけですよね……。それだけ大谷が「英語で話した」ことが珍しいことでもあります。

アメリカでの大谷イメージ「表と裏」

 アメリカでは重要な局面でやはりその国の言葉を話すというのはとても大切なこと。先述した自著『大谷マーケティング』でも、大谷選手に、簡単なスピーチでもいいので英語で直接ファンに語りかけて欲しいとおこがましくも書きました。が、今回の大谷選手、山本由伸選手のスピーチでのファンの大熱狂を見ていただければお分かりだと思います。マーケティング観点からみて、英語で喋ることは大谷選手のさらなるイメージアップにも凄く貢献します。

 その理由を説明していきます。

 大谷選手がアメリカで絶大な人気を博している理由の一つは、「とにかく野球が大好きな、古き良きアメリカの野球少年」というクリーンなイメージです。球場に落ちているゴミを拾い、爽やかな笑顔で、不調でもベンチで暴れない。この「ジェントルマン」のイメージが、特にアメリカのお母さん世代からの絶大な支持を集め、「自分の息子を応援するように大谷選手を応援してしまう」という現象を生んでいます。

 しかし、私の本の中でも指摘した通り、このクリーンなイメージの裏側で、彼には「野球以外は他の人に任せている」という「子供っぽさ」がつきまとっていました。彼の成功は、野球に集中するための「美談」として語られてきましたが、そのスタンスは、アメリカ社会が重視する「自己責任」の文化と、時に衝突する要因となりました。

一平問題で株を落とした大谷翔平

 特に、元通訳である水原一平氏の違法賭博問題が起きた際、この「子供っぽさ」は一気にアメリカ世論からの批判の的となりました。もちろん、大谷選手は被害者で捜査の結果でも完全に”白”でした。しかし、それを踏まえても。数億円もの大金が動いていることに気づかない、そして何より、問題発生後に開かれた会見で、自分の声明文を「通訳」に読み上げさせたことは、アメリカ人の感覚からすれば、非常に残念な対応でした。

 アメリカは「自己責任」の国です。成功者であればあるほど、自分の言葉で、自分の行動に責任を持つ姿勢が求められます。会見という場で、たとえ完璧な英語でなくとも、彼自身の口から「私はやっていない」「私は被害者だ」と訴えていれば、その映像はニュースやSNSで彼の声として拡散され、「大人としての責任」を果たそうとする姿勢が評価されたはずです。

LAタイムズが放った「大人になれ」という皮肉

 ロサンゼルス・タイムズのコラムニスト、ディラン・ヘルナンデス記者が「Shohei Ohtani needs to grow up in the wake of Ippei Mizuhara revelations」と題した痛烈な批判記事を掲載したことは、その象徴です。意訳すると、「大谷翔平よ、大人になれ。水原一平の暴露を受けて」でしょうか。これは、大谷選手が築き上げてきた「礼儀正しい野球少年」のイメージを皮肉ったものであり、彼が公的な場で英語を話さないことが、「大人になりきれないお子ちゃま」という印象を決定づけてしまうことを示唆していました。

 英語でのコミュニケーションは、単に情報を伝える手段を超え、「私はこの社会の一員として、自分の行動と発言に責任を持ちます」という意思表示なのです。彼が英語でインタビューに答えることは、彼のブランドを「異国のスーパースター」から「本当のアメリカの仲間」へと昇格させる、不可欠なステップなのです。

 アメリカは、多様な人種と文化が共存する移民国家です。多くの人々が、アメリカン・ドリームを掴むために、言葉の壁を乗り越えて英語を習得してきました。彼らは、成功者である大谷選手にも、同じ努力を期待します。

英語喋れないのに金持ちなアジア人への差別

 カリフォルニアは多様性の地ですが、ロサンゼルスの人種構成はヒスパニック系が48.1%と最大で、続いて白人28.5%、アジア系11.8%、黒人8.8%(いずれも在ロサンゼルス日本総領事館HPより)という他民族都市です。ドジャースのファンもヒスパニック系が多く、ドジャーススタジアムに観戦に行くと、ヒスパニックの観客も多く見かけ、そして彼らは大谷選手の背番号である17のユニフォームを着ています。

 一方でアメリカには、アジア系新移民が「英語もできないのに後から来て、自分たちより稼いでいる」として、一部で敵視されるという社会的な側面も存在します。

 大谷選手は、MLBで最高の年俸と最高の広告収入を得る、文字通りの成功者です。彼の成功は、アジア系移民に対するポジティブな「ダイバーシティ・イメージ」を広告主が期待する要因の一つにもなっています。しかし、その成功者としての責任は、「英語を習得してアメリカン・ドリームを掴んだ」多くの移民たちが背負ってきたものと同じです。

 日本語で「郷に入っては郷に従え」という言葉に対して、英語でも「When in Rome do as the Romans do」という同じ意味の言葉があります。

稼いでいる外人から、真の社会の一員に

 英語を話すことで、彼は「ただ稼いでいる外国人」ではなく、「この社会の一員として、この国の文化と責任を尊重している成功者」として、より高い次元で受け入れられます。

 もし、大谷選手が完璧な英語でなくても、懸命にコミュニケーションを図ろうとする姿を見せれば、それは「自分たちの国に来て、努力している」という強いメッセージとなります。また、アジア系へのヘイトクライムの根底にある差別意識さえも揺るがす力にもなるでしょう。彼は、野球に集中したいという思いから、これまでメディアに対して真剣に向き合ってこなかった部分があったように見えますが、これが「メディアを邪険に扱っている」と見なされると、手のひら返しをされてしまうのがアメリカの世論です。

 ドジャースに移籍し、彼は徐々に英語でメディアに応じるようになってきたように感じます。今後、彼が流暢に英語でメディア対応ができるようになれば、アメリカ人から「本当の仲間」と見なされます。

 今回、大谷選手が英語で直接ファンに語りかけたこと、更に山本選手がたった一言「Buenas Tardes(ブエナス・タルデス、こんにちは)」とスペイン語で挨拶しただけで、観客が大熱狂したことは、この地の特殊なダイバーシティを象徴しています。チームにもヒスパニック系が多く、山本選手のスピーチの際キケ・ヘルナンデスらの興奮した顔も話題になりました。このように多民族の都市・ロサンゼルスではバイリンガル教育なども盛んですが、やはりみんなをロスっ子として繋ぐのは英語です。

「仲間意識」の獲得が、彼のブランドを永続的なものにする

 この「仲間意識」の獲得こそが、彼のブランドを永続的なものにするための鍵なのです。

 さて日本人メジャーリーガーが英語で話すことは、広告主にとって計り知れないリターンをもたらします。

 大谷選手の広告価値は、2024年に7000万ドル(約107億円)にまで膨張し、Sporticoによれば2025年には1億ドル(約153億円)にも上るといいます。この驚異的な数字は、野球選手としては破格ですが、その多くは日本企業による日本国内向けの出稿に支えられています。しかし、仮に普段から英語でインタビューに応えるようになれば、リーチできるファンはより広がり、ひいては米国、海外向けの広告も増えることが予測されます。そうなると、大谷の広告価値は爆上がりすることになるでしょう。

グローバル・アイコン、アメリカン・ヒーローに

 大谷翔平選手は、その才能と努力で、すでにアメリカの野球界、そしてマーケティング界の頂点に立っています。彼は野球において「二刀流」という不可能を可能にしました。しかし、真の「グローバル・アイコン」となるためには、「コミュニケーションの二刀流」を完成させる必要があります。

 彼がドジャースと10年契約を結んだことは、彼がカリフォルニアに腰を落ち着け、アメリカ社会の一員として生きることを選択した強い意思の表れです。この恵まれた環境を活かし、彼が野球だけでなく、コミュニケーションにおいても最後の壁を乗り越え、普遍的な「アメリカン・ヒーロー」へと進化することを、一人のマーケターとして、また在米日本人として、心から願ってやみません。彼のその一歩が、私たち日本人の未来をも照らすと信じています。

 すでに来シーズンのドジャース開幕戦のチケットは高騰しています。今安いチケットで約360ドル(約5万5000円)。家族4人で行けばチケット代だけで22万円です。インフレ地獄に陥っている米国でも、ちょっと異常な価格です。それだけ新たなアメリカン・ヒーローの誕生に期待するファンが多いということでしょう。

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この記事の著者
岩瀬昌美

ロサンジェルスで日本企業の海外進出のサポートを行うマルチカルチュラル広告代理店「MIW Marketing and Consulting Group, Inc」 CEO/PRESIDENT。今年で創業20周年を迎える。在米30年。名古屋出身。カリフォルニア大学サンディエゴ校で学芸修士、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で経営学修士を取得。2017年 できるアメリカ人11の「仕事の習慣」 日経プレミアシリーズ 日本経済新聞出版社より出版。 2019年Shoku-Iku USA (非営利団体)設立。2012年より米国にて子ども向けクッキングクラスや記事の執筆で食育プロジェクトを推進。

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