高市早苗首相が怯える「来年4月の大増税」国民の手取りが大きく減る前に「お米券解散」だ!「食料品消費税率0%」は永久に選択肢のまま…

高市早苗政権が発足し「グッドスタートだ」と評価する声も多い。しかし経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「高市総理が掲げる経済政策(サナエノミクス)こそが、政権の未来、ひいては日本経済の将来に暗い影を落とす、深刻な矛盾を内包している」と指摘する。一方で早期解散説も永田町では噂される。小倉氏が詳しく解説していくーー。
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目次
永田町では早くも「早期解散論」
高市早苗内閣が発足し、世論調査では高い支持率を記録している。国民の期待を背負っての船出であり、首相自身も「経済最優先」を掲げ、物価高騰に苦しむ国民生活の立て直しを誓う。しかし、その高揚感とは裏腹に、永田町では早くも「早期解散論」が燻り始めている。自民党内では、この高い支持率を背景に、少数与党の不安定さを解消するため、来春の予算成立後にも総選挙に打って出るべきだとの声が公然と語られている。
表向きは「経済対策」を優先し、解散を否定する高市首相。だが、その掲げる経済政策(サナエノミクス)こそが、政権の未来、ひいては日本経済の将来に暗い影を落とす、深刻な矛盾を内包している。我々は、首相官邸が描くシナリオが、国民生活の救済ではなく、巧妙に仕組まれた「政治的延命」に過ぎない可能性を直視しなくてはならない。
我々の記憶が確かであれば、高市首相はかつて、物価高対策の切り札として「食料品消費税率0%」の必要性を強く訴えていたはずだ。国民の多くは、この「庶民の痛みがわかる」姿勢に、既存の政治家にはない期待を寄せた。しかし、その期待は、首相就任と同時に無残にも裏切られる。
高市総理の国民に対する明白な背信行為
国会答弁で消費税減税について問われた首相の口から出た言葉は、「党内で意見が真っ二つ。私は少数派で負けた」、「レジシステムの改修に時間がかかる」という、官僚的な言い訳と政治的敗北宣言であった。
これは断じて「政治的リアリズム」などではない。国民に対する明白な背信行為である。あたかも自分が権力の頂点に立てば、国民を苦しめる悪税を廃止できるかのような「振る舞い」を見せ、いざその座に就けば「党内の反対」を理由に実行しない。これは国民を騙すものだ。
そもそも、国民の生活困窮という「生存」に関わる問題に対し、「レジシステムの改修」という「技術的」な問題を障壁として持ち出すこと自体が、為政者としての優先順位を見誤っている。
経産省主導の産業政策が、国民経済を豊かにしたことは一度もない
国民生活の危機的状況を前にして、システム改修に1年かかると言うのであれば、その1年間、国民は塗炭の苦しみを味わい続けろという宣告に等しい。この冷酷な現実に、我々はまず慄然としなくてはならない。
国民の可処分所得を直接増やす「消費税減税」という最も効果的な処方箋を拒否する一方で、高市内閣が「積極財政」の看板の下で推進しようとしているものは何か。それは、経済産業省が主導する「意味不明な産業政策」の連発である。
我々は、この「産業政策」という名の妖怪の正体を、冷徹に見定めねばならない。戦後の日本において、経済産業省(旧・通商産業省)が主導した産業政策が、国民経済を豊かにしたことは一度もない。
この政策の本質を、中学生にもわかるように例えるならば、こうだ。
政府(経産省の役人)が、「人気のアイドルグループをつくろう」とオーディションを開催する。国民から集めた税金を、役人審査員が「見込みがある」と判断した特定の候補生(経歴はピカピカ)にだけ集中的に注ぎ込む。
「政策」の名を借りた、国民の富の「横領」
しかし、結果はどうなるか。第一に、役人がアイドル市場の未来を見通せるはずがない。彼らの予想は外れ、レッスン料(税金)はドブに捨てられる。第二に、そのレッスン料の原資は国民の血税である。本当に才能があり、自力で這い上がろうとしている無名の若者たち(中小・ベンチャー企業)は、不公正な競争を強いられ、チャンスを奪われる。
そして最悪なのは、そのオーディションが「出来レース」だった場合だ。審査員(役人)が、特定の芸能事務所(例えば、NPO法人)と裏で繋がり、その事務所の候補生を合格させることだけが目的であったならば。これは「政策」の名を借りた、国民の富の「横領」に他ならない。
経済学の用語で「レントシーキング(利権漁り)」と呼ばれるこの行為こそが、日本の産業政策の正体である。特定の産業や企業に補助金や規制で「下駄」を履かせ、市場の公正な競争を歪める。その結果、非効率な企業が延命し、経済全体の生産性は低下する。国民生活は苦しくなる一方だ。高市内閣がやろうとしている「積極財政」が、この亡国の系譜に連なるものであるならば、それは「経済最優先」ではなく「経済破壊」である。
家計が苦しいとき一発逆転狙ってギャンブルするな
では、実質賃金が上がらず、国民生活が困窮するこの状況を打開する道はどこにあるのか。それは、政府が「賢いフリ」をして国民の税金を特定の産業に振り分けることではない。
答えは極めて単純である。
家計が苦しい時に、政府が「一発逆転」を狙ってギャンブル(産業政策)に手を出すべきではない。まず実行すべきは、家計簿を見直し、不要な新聞購読や使途不明な交際費(歳出削減)を徹底的に削ることだ。そして、その節約によって生まれたお金を国民が自由に使える減税として返すことである。
政府の役割は、経済活動の「主役」になることではない。政府の役割は、民間の自由な経済活動を支える「ルール整備」に徹することだ。政府は自らの身を切り、肥大化した歳出にメスを入れ、国民の負担を軽くする。その「減税」こそが、国民の可処分所得を増やし、消費と投資を喚起する。国民が自らの意思で、何を買うか、何を学ぶか、何に投資するかを決める。その無数の「民間の選択」の集積こそが、経済を健全に成長させ、実質賃金を上昇させる唯一の道である。これら方策の正しさは、各種実証データで明らかになっている。
来年4月には大増税が実施される
この「減税と歳出削減」という理念は、派手な補助金政策に比べれば地味かもしれない。しかし、国民の自由と自律的な経済活動を信頼するという点で、これこそが経済再生の王道であろう。
しかし、高市内閣が、この「減税と歳出削減」という痛みを伴う本質的な改革を実行するとは到底考えにくい。歳出削減は、官僚組織と既得権益集団との全面戦争を意味するからだ。
高市内閣が進むであろう道は、予測可能だ。
経産省主導の産業政策は、過去の失敗の歴史が証明するように、必ず失敗する。一方で、来年4月には大増税が実施される。国民生活はさらに苦しくなり、内閣発足時の高い支持率は、砂上の楼閣のように崩れ去るだろう。
挙句に、政権の支持基盤である保守層が重視する靖国神社への参拝さえ行わないとなれば、熱心な支持者たちも離反し、政権基盤そのものが揺らぎかねない。
支持率が下がりきってしまう前、まだ「高市人気」の余韻が残っているうちに、政権は何を仕掛けるか。
ここで、「安倍政権の前例」が、悪夢のように蘇る。今一度、思い出してほしい。消費税が10%になった時のことを。
早期解散は「お米券解散」
安倍晋三元首相は2014年、消費税率10%への引き上げを「延期」することを大義名分として掲げ、衆議院を解散した。経済再生を優先するという耳障りの良いスローガンで国民の信を問い、選挙に圧勝した。
高市内閣も、この欺瞞的な手法を踏襲する可能性が極めて高い。来たる「4月の大増税」を前に、国民の不満が爆発する寸前に、「増税延期」を旗印として解散に打って出る。「国民生活を守るため、増税の是非を国民に問う」という大義を掲げて。
だが、我々は騙されてはならない。安倍政権下で「延期」された消費税増税は、選挙が終われば結局、何食わぬ顔で実施された。延期は、選挙に勝つためだけの一時的な時間稼ぎに過ぎなかった。
もし高市内閣が、経済政策の本質的な議論(歳出削減と減税)から逃げ、自らの政治的延命のためだけに「増税延期解散」という禁じ手を使うのであれば、それは「有権者の信頼を損なう欺瞞的な行為」に他ならない。定数削減の雲行きも怪しく、もはや決まっていることといえば、お米券配布だけなのだから、高市首相による早期解散は「お米券解散」だといえよう。