売り上げ1億円越えのコーチが17人……企業を変える「すごい会議」は何がすごいのか

1970年代に米国人ハワード・ゴールドマンによって開発された会議のメソッドを、大橋禅太郎氏が日本に持ち込み始まった「すごい会議」。2024年には売り上げが1億円を越えたコーチが17人出るなど、企業からいま強く求められる存在となっている。では一体、「すごい会議」とは何なのだろうか。ライターの小松成美氏がその本質に迫った。全3回中の1回目。
※本稿は小松成美著『THE COACHES すごい会議ストーリー』(講談社)から抜粋、再構成したものです。
第2回:「事実」と「解釈」を混同するな……「すごい会議」がもたらすブレイクスルーとは
第3回:年間1000万円を超える「すごい会議」が一体なぜ選ばれるのか?「社員みんなに責任100%」と言う理由
目次
「あなたにとって最も価値がある成果とは」
すごい会議のコーチたちは、経営チームが経営のために問題を共有し、共通の目標をつくり、目標を達成するための役割分担と、そのための約束をつくりあげる。「すごい会議」創業者の大橋禅太郎は言う。
「それにより、経営者とそのメンバーは、言い淀むことのない目標と計画と情熱を手に入れるんです」
その会議では、すごい会議ならではの「議題」が投げかけられていく。
「まず、『今日の会議でどんな成果が手に入っていれば、あなたにとって最も価値があるか?』と、今日の期待を問いかけます。その次に、『今日までに何が達成されたか?』と問うて、これまでの達成の共有をするんです。さらに核心に迫り、『経営チームとして直面していることに関して、どんな問題点や懸念があるか?』と、問題の棚卸しをしてもらいます。
そこまでたどり着けたら、このチームの道しるべとなる、戦略的フォーカスを定めます。この戦略的フォーカスの合意を求めて、目標達成のための役割分担の明確化とアクションプランの作成をし、そのために『どのような成果が必要か?』『誰が、上記のどの行動と成果物に対して担当するか?』を聞いていきます。最後には『今日、何を得たか?』と質問し、一人一人にその日の成果を言葉にして伝えてもらいます」
「社員が正直な気持ちを言えるはずがない」
すごい会議はさまざまな形態で行われる。一回90分間のセミナーもあれば、一日8時間・毎月1回と継続することもある。
基本的には、会議は社長、役員、マネジャーなど経営に携わる者が参加して行われるが、求められれば現場の従業員たちを前に行うこともある。
ある日のセミナーに集っていたのは、売り上げ100億円規模の飲食店グループのオーナー社長はじめ幹部20人だった。
「月例のセミナーの講師として呼ばれたのですが、参加者みんなが後ろのほうの席にいるんですよ。前の席はガラ空きでした。それで、僕が『全員、前の席に出てきてください』と言ったのですが、誰も動く気配がない。そのままセミナーをスタートしました」
ノーネクタイにシャツとパンツのカジュアルな服装の大橋が、スマホ一つを持って登壇席につく。
大橋:皆さんは、今までセミナーを何回くらいやっています?
幹部A:月1でやっています。これまでに講師100人ぐらいに来てもらっています。
大橋:その中で、僕のように「前の席に出てきてください」と言った講師はいましたか?
幹部A:いいえ、いません。
大橋:なぜかわかりますか。あなたがたへ、前の席に移ってほしいと言うのが怖いからです。セミナーの講師をやっているような者でさえ、皆さんが怖いんだから、社員が皆さんに、正直な気持ちを言えるはずないでしょう。
一同:(沈黙)
大橋:今日、僕が何をするかというと、15分で皆さんの会社の社員が皆さんに意見を言えるようにします。これが今日の僕の約束です。それが社内で起きたら皆さんだって嬉しいですよね。では、まず、全員前の席に出てきてください。いいですか。
参加者は不機嫌な顔で重い腰を上げ、渋々席の移動を始める。大橋はポスト・イットとペンを配る。
「5秒で答えられなければ30分考えても同じ」
大橋:今日のセミナーは1時間ですけど、セミナーが終わったところで何が手に入っていれば一番価値がありますか。このポスト・イットに皆さん、書いてください。
2分間待つ。メモの書き込みの時間は2分間と決められている。
大橋:はい、書きましたね。書いたら何が起きました?
幹部B:この1時間の目標ができました。
大橋:僕、目標作れと言いました?
幹部B:いいえ、言ってないです。
大橋:「今日の会議でどんな成果が手に入っていれば、あなたにとって最も価値があるか?」と質問をすると、人は頼まれてもいないのに目標を立てる傾向が強いんです。でも、間違っています。皆さんにわかってほしいのは、仕事においていきなり「目標を作れ」というのはあまりうまいやり方ではない、ということです。仕事にしっかりとした目的意識を持ってほしい時には「あなたはここで何を得たいか?」という質問をします。
じゃあ後ろの方、メンバーに目的意識を持ってもらいたい時はどうすればいいですか?
幹部C:「何を得られていれば価値がありますか?」と聞きます。
大橋:どうやってそれを聞き出しますか?
幹部C:えっと……、ちょっと待ってください。
大橋:いいえ、待ちません。5秒で答えられなければ30分考えても同じです。僕がなんと言ったのかではなく、あなたがどうするか聞いているんです。
「あなたの主張が最初に断られた時は?」
大橋:じゃあ別の方、あなた。メモに書いたことを読んでください。あっ、その前に、今、読んでくださいと僕に言われて、どんな心理的反応が起きましたか?
幹部D:え?別に読めと言うから読むだけですが……。
大橋:僕が聞いているのは、そういうことではありません。今、読んでくださいと言われてちょっと心理的な反応が起きましたよね。
幹部D:はい、ちょっと嫌な感じがしました。
大橋:どうして嫌なんでしょうね。ただ読めばいいんですよ?
幹部D:書いたことが、正しいのかなって、思って……。
大橋:もう少し、感度を上げてください。今、読んでくださいと言われて、どういう感じがしましたか?
幹部D:恥ずかしい、と感じました。
大橋:皆さんのような方々でも、自分の意見を声に出すのが恥ずかしいと感じ、難しいわけです。経営者でも簡単じゃない。こんなどうでもいいセミナー、1時間で終わるのですから、恥も何もないじゃないですか。それでも人は、話せと言われたら言い淀むし、恥や嫌悪を感じるわけですよ。
つまり、主張するということそのものは大変なことなんです。主張ってそもそも大変ですよね。それはどんな体験からあなたにインストールされたのですか?ちょっと話題を変えます。3番目に座っている方、人生で最初に主張して断られた時のことを教えてください。
幹部E:えっと、僕が社会人1年生……。
大橋:いや、そのずっと前に主張を断られていませんか?
幹部E:え?あっ、高校生の時に……。
大橋:いや、その前に断られているでしょう。
幹部E:え?……あ、ありました。小学校3年生の時に自転車……。
大橋:いや、さらに前に断られているはずです。
幹部E:定かでないんですけど……。
大橋:構いませんよ。
幹部E:幼稚園に入るか入らないかの時に、サーティワンのアイス売り場に行って、「今日はサンデーを買いたい」って言ったら、母から「サンデーなんて、バカなことを言うんじゃない。1種類で十分よ」ってすごく怒られ、サンデーを買いたいという主張を断ち切られました。
大橋:ほら、覚えているじゃありませんか。自分の主張を認められず、怒られて、あなたはひどく傷ついたわけです。それからの人生、ちょっと主張が弱くなっていませんか。
幹部E:……はい、確かに。断られない状況を考えて発言しています。
大橋:そういう経験がある方は多いと思います。そして、ここに集まった皆さんも、社員の主張が弱くなる行為をしていませんか?
「紙に書いてから読んでもらう」
大橋 :だから、社員は、主張するのが大変だったり、苦手だったりするわけです。まず決して安心はできないけれど「言える環境」を作れば、問題を掘り起こして解決に向かわせるきっかけを作ることができます。今日のセミナーは、恐れず自由に主張ってのは難しいかもしれないので、とりあえず書いた紙を読んでください。
幹部E:「幹部にものが言えるようになればいい」
大橋:今、紙に書いた文字をそのまま言ってもらいましたね。では、メモにして発表するメリットってなんですか。
幹部E:えっと、考えがまとまる?それと、発表が早くなる。
大橋:確かに書く際に考えがまとまるし、書かないと長くなって、永遠かと思うほどスピーチする人もいる。あるいは、「ちょっとみんなと違うことかもしれないんですけど」って不要な前置きをする人もいます。別にどっちが正しいってことじゃないから、言えばいい。メモを読む、それのみです。他に何かありますか。
一同:(沈黙)
大橋:皆さんの会議で、書かないで発表すると、2〜3人目からなんと言いますか?
幹部F:「僕も同じです」と言います。
大橋:そう、もうその主張は出ているからそれを主張しても安全。ところが書いちゃうと、それと違う状態になる。でもただ読んでもらえば、それぞれのアイデアが出やすい。皆さん、今から会社に戻って社員に忌憚ない意見を言ってもらう時、どうすればいいかわかりましたか?横の方、言ってみてください。
幹部G:紙に書いてから読んでもらう。
大橋:はい、それによって社員の方の正直な意見、抱えている問題が手に入ります。万一、これがうまくいかなかったら僕に電話をください。何が問題だったか、次の手をアドバイスします。
ここまでで15分。
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