「事実」と「解釈」を混同するな……「すごい会議」がもたらすブレイクスルーとは

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 経営課題の可視化と組織変革を支援する「すごい会議」。年間1億円以上を稼ぐ「すごい会議」のコーチたちは、一体現場で何を行い、何を見ているのか。「すごい会議」がどうやって会社を変革していくのか、ライターの小松成美氏が追った。全3回中の2回目。

※本稿は小松成美著『THE COACHES すごい会議ストーリー』(講談社)から抜粋、再構成したものです。

第1回:売り上げ1億円越えのコーチが17人……企業を変える「すごい会議」は何がすごいのか

第3回:年間1000万円を超える「すごい会議」が一体なぜ選ばれるのか?「社員みんなに責任100%」と言う理由

目次

ブレイクスルーが起こる瞬間

 会議の場で意見を出し合い、議論をし、目標に向けて決めたことをやり続けると、その先に突然世界が開け、新しい景色が見えることがある。「すごい会議」創業者の大橋禅太郎は言う。

「企業に起こるブレイクスルーを間近に体験することができるのは、『すごい会議』 のコーチにとってのご褒美でもあります」

「ブレイクスルー(breakthrough)」とは、英語の「break(破壊する)」と「through(通り抜ける)」の2語を合わせた言葉である。「打開」「撃破」「突破」「現状の打破」などの意味を持つこの言葉は、ビジネスの転換期などに用いられる。

 コーチとして会議に立ち会う大橋は、ブレイクスルーの予兆を何度も感じている。

「バッターボックスにたった僕が、相手のピッチャーの投球を見ながら、こう考えている。ああ、打てる、目の前を行くボールが急に大きくゆっくり見えるぞ、という感覚です」

 難しい案件でも、会話の中のたった一つの言葉が、相手を乗り気にさせ、状況を一気に変えることもあるのだ。

「通るか通らないかのミーティングをしているとするじゃないですか。ある言葉を言った途端に相手が急に身を乗り出し、否定的な態度が一変し、やりましょうと、声を上げる瞬間がある。それがブレイクスルーです。

 会話の中で大逆転が起きて、『これはできる!』と思うとアドレナリンが出ますし、前進の喜びが感じられる。ビジネスが成功した実態や結果はまだ何もないのですが、突破したという感覚が大事なんです」

「事実」と「解釈」の違いとは

 しかし一方で、「ブレイクスルーが全面的な成功、求めた結果の始まりであるなどと、勘違いしてはならない」と語る。

「経営に携わる者であれば、結果とブレイクスルーを混同してはならない。ブレイクスルーが起きても目標としている成果が出ないことはいくらでもある。成果が出るまで時間がかかることもあります。その間にいろいろな問題を解決しなければいけないので、決めた約束を守ることを続けることによって成果に近づけるのです」

 企業に、あるプロジェクトに、ブレイクスルーが起こり、「打てる、ボールが大きくゆっくり見える」と活気に心が躍ったとしても、結果がなかなか伴わない、目標にした数字に届かないということは往々にしてある。

「メンバーはイラついたり焦ったり、打てる、という気は自分たちの勘違いだったんじゃないだろうか、と疑心暗鬼の状況に陥ることがあります。その時コーチは、どうするのか。僕はひたすら、事実がテーブルの上に載るような質問をします。実際の数字とその結果を見て、解釈の余地のないリアルな現状を再び共有します」

 そして、コーチはクライアントが問題を説明し始めたら同じ視点には立たないという。業態、時代や地域まで鑑み、俯瞰する。

「例えば、50万円の食器洗浄機があったとします。その価格に対して社員が、『うちの製品は高いよね』と言う。これは事実か解釈かと言えば、解釈なんです。

 50万円という価格が事実であり、もう一つの事実として消費者が購入する食洗機の平均価格が20万というデータがある。この差額を価値とせず、一言で『高い』と言ってしまった途端に、問題は解決しにくくなります。高い、は、売れない、に通じてしまうから」

 問題解決に関わる事実がテーブルの上に載れば作戦が立てやすくなる。

「ここで、新築物件でハイグレードクラスのキッチンにかける金額は300万円、という数字があれば、戦える市場があることがわかります」

 コーチは、事実と解釈をテーブルの上に出し、それらの違いを明らかにしていく。

「わかっていても、人間は“解釈”をしてしまいます。それを“事実”に置き換えるためには、ある程度習熟したものの見方、解説が必要です。経験があれば、解釈と事実の違いをすぐに認識できるのですが、現場で働いている社員は、お客さんの解釈に毎日晒されているので、それに翻弄されてしまうんです。

 なので、『すごい会議』では解釈と事実を見極めるトレーニングを繰り返しやります。時間がかかりますが、ここを端は折しょると企業の指針は、グラグラと揺れ続けますから」

「できそうな気がする」はブレイクスルーの始まり

 それでも大橋は、ブレイクスルーが起きる瞬間を何度も目撃している。

「僕にも予想できないんです。予期していない時に起きることが多いですね。3ヵ月のこともあれば、半年のことも、1年、あるいはそれ以上かかることもある。組織のレディネス(環境や心身の準備性)によるからです。でも、いい製品があって、いいメンバーがいて、やり方は手探りでも野心的なゴールを設けて、実際に7割ぐらいのクライアントがブレイクスルーを経験します」

 大橋は、「すごい会議」を始めてから3年目のこと、初年度からコーチを続けてきた会社の社長との会食中に、突然「わかった!」と言われたことがあった。

社長:わかった、わかったんだ。あれだよ。

大橋:一体なんのことですか。

社長:すごい会議のことがわかったよ。僕、釣りをするんだけど、釣りに行く前の日に夕飯を食べていると、突然、釣れそうな気がすることがあるんだ。本当に釣れるかどうかは別なのだけれど、必ず釣れそうな気がしてくる。そして、天気を思い、海の状況を思い、魚と自分の道具と腕の相性を考えたりする。

 大橋さんとこうして喋っていると、釣りの前の夜にワクワクして、釣れそうだと心を強くするのとよく似た気持ちになる。まだまだ大変なことは多いけれど、戦略を立てて、目標達成のための仕事と向き合うと、釣れると信じる夜の気持ちとすっかり重なるよ。

 大橋は言う。

「解決しそうな気がする、目的を達成できそうな気がする、と感じることが、実はすごく重要なんです。できる気がするもブレイクスルーの始まりなんです。すべてのメンバーがそう思っていなくても大丈夫です。何人かの主要メンバーからブレイクスルーは起こります。場合によっては、一つの作戦が成功しただけでも、会社が変わったと思える瞬間もあります。あるいは、トップがそう感じていれば、現場でもそれが起こってくる傾向が高い」

「正解は一つ」ではない

「今日、あなたが期待したことは手に入れられましたか?」

 コーチのそうした呼びかけに参加者はペンを走らせる。1分で書き、発言する。再びコーチが、問いかける。

「今日、皆さんは、何を得ましたか?」

 2分で書き、参加者は得たものを一人ずつ発表するのだ。意思決定者がクロージングスピーチをし、その会議は終了する。すごい会議のコーチを率いる大橋の思いは、どんな瞬間も変わらない。

「それぞれの会社によって、ビジネスによって、立てている目標によって、またその時の状況によって、何を解決するのが一番効果的かは異なっています。数式のように、正解が一つということはあり得ません。だからこそ、効果的な問題解決を行うには常に『考え、論じる目的』を見失ってはならないのです。

 コーチは、頑なにそのことに徹します。会議で語られる主張が、企業の未来を作ることを知っている僕とコーチたちは、ふわふわとした経営者の意思を現実の世界で望む方向へ導くための精巧な羅針盤でありたいと思っています」

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この記事の著者
小松成美

1962年横浜市生まれ。ノンフィクション作家。広告代理店勤務などを経て1989年より執筆を開始。第一線で活躍する人物のルポルタージュを得意分野と し、インタビュアーとしても異彩を放つ。テーマに肉迫するスポーツノンフィクションで新境地を開いた。また、歌舞伎を始めとした古典芸能や西洋美術、歴史 分野などでの執筆も多い

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