『爆裂都市伝説M.A.D』ネット炎上で露呈した“許容なき社会”ーー吉田豪が語る「成田大致」という男

2025年は、政治・経済・エンタメまであらゆる領域で“炎上”が日常化した一年だった。SNSでは連日、誰かが叩かれ、誰かが擁護され、誰かがまた新たな“悪役”に位置づけられていく。そんな空気の中で、サブカルチャーの現場でも象徴的な出来事が起きている。それが、イベントオーガナイザー成田大致による『爆裂都市伝説M.A.D』(12月12日、恵比寿ガーデンホールなどで開催)をめぐる一連の騒動だ。長年、カルチャーの周縁で起きる出来事を見つめ、いわゆる“駄目な人間たち”とも向き合ってきた吉田豪氏は、この騒動をどう見たのかーー。
目次
なぜ『爆裂都市伝説M.A.D』は開催前から燃え続けたのか
“年末なので2025年のカルチャーを振り返って欲しい”っていうテーマに相応しいのかどうかわからないんですけど、ちょうどこの取材の2日後にボクも出演する『夏の魔物』の後継イベント『爆裂都市伝説M.A.D』がどうにか開催されているはず……ということで、その主催者・成田大致の炎上から思ったことについて話していきましょうか。
突然の会場変更、出演予定だった都市伝説YouTuberたちの相次ぐキャンセル&告発動画のアップ、主催者・成田大致による都市伝説YouTuberへの「◯す」ツイート、それを受けたさらなる出演キャンセル、タイムテーブルが2日前なのにまだ出てない、などなど、最近のイベントではまず見ないようなトラブルが開催前から頻発してるんですよね。そんな中、「こいつを復活させたのは吉田豪だ」って誤解している人もいたのでそこをまず説明しておきたいんですけど、まず大前提として“ボクと成田大致は何年も絶縁状態だった”という事実があるんです。
「成田大致を知らない人」が増えた瞬間、トラブルは必然だった
ボクは『夏の魔物』が青森のカルチャー系野外ロックイベントだった時代に2012年から連続出演していたんですけど、東京に進出した後、TBSラジオと組むようになった時期にはもう出てないんですよね。青森時代の“デタラメだしタイムテーブルも無視しまくってるけど何が起きるかわからなくて面白い”ってイベントだったのが、東京でイベンターと組むようになって、そのうち出演者にHIPHOP系が増えてきた頃にブランディングを変えようとしたんですよ。あるとき、イベント煽りの配信に掟ポルシェと呼ばれて、それまで何度も話していたように「成田大致はこういうデタラメな人間だ」とか話してたら怒られたんです。「もう今までのイベントじゃない」「狙ってる客層が違うので、そういう話はいらないんです」「この先、ボクは表に出る気はないんです」って。それまで「掟さんと豪さんだけは何を言ってもいいです」って公言してたのに、だったらボクらを呼ぶなよって話で。事前にそういう説明もしてなかったし、こっちとしては「主催者がどんな人間か伝えないままイベントをやるのは不誠実だろ」と思ってるわけです。
以前、Twitterで「成田大致は目に見えるわかりやすい地雷」とか書いてた人がいたけど、ホントそうあるべきだと思うんですよ。成田大致に近寄りたくもないと思ってる人が実際いるんだから、出演者もお客さんもそういう人は近付かないでも済むようにする義務があるし、覚悟がある出演者やお客さんが集まるイベントにすればさほど大きな問題にならないはずで。だから、青森時代の『夏の魔物』を知っている人は、成田大致の雑さも含めて「まあ、あいつだからしょうがないよね」と許容していたんです。わざわざ青森まで行くようなもの好きのためのイベントだったから。でも、東京で気軽にアクセスできるようになって、それまでの歴史を知らない演者やお客さんが増えたら、そりゃあトラブルが増えるのも当たり前の話。そして、伝説の『X-CON』(※2023年に開催予定だった大型フェス。成田大致はニュースサイト「ナタリー」を運営する株式会社ナターシャの元代表取締役・大山卓也と共に企画運営に携わったが度重なる不手際により中止。運営会社も破産)へと至るわけです。そのときにはもうボクは絶縁中だったので、『X-CON』で何があったのか詳しくは知らないんですが。だからボクは「成田大致という人間をわかっている演者だけ呼ぶべき」って言い続けてるんですけど、本人は「そんな懐古主義みたいなイベントはやりたくない」って考え方だから予備知識のない人を呼び、そしてそんな人にとって成田大致は“『X-CON』でやらかしたイベンター”って認識でしかないから、何かあればすぐキャンセルすることにもなるわけです。
「もう表に出すな」という声に感じる、社会の余裕のなさ
そんな成田大致が、同じく絶縁状態だった「THE 夏の魔物」という音楽ユニットのメンバーとも和解して、また一緒にライブをやろう、そして夏の魔物みたいなイベントもやろうと盛り上がったタイミングでボクに久しぶりに連絡があって、取材して欲しいみたいな話だったから、「じゃあ、ボクがやってるSHOWROOMの『豪の部屋』に出る?」ってことになったという流れだったから、正確には“復活が決まって初めて人前に出る場を提供した”ってことですね。
今回、成田大致が再びイベントを始めたことで、「もうこんな人間を表に出すな!」「出演したりして力を貸している人間も同罪!」って感じで怒ってる人も多くて。実際、あいつからひどい迷惑を掛けられた人はどんどん怒るべきだと思うんですよ。『X-CON』で被害を受けた人とか、THE 夏の魔物時代に暴言を吐かれたファンとか。でも、ただネットの情報だけを見て怒ってる人が多いように見えて、それはどうなのかなと思っちゃったんです。なんだか余裕のない時代になってきたなっていうか。
「無駄な人間」を切り始めたとき、カルチャーは死に始める
そもそもボクの持論として、“駄目な人間が許容される社会じゃないとおもしろい文化は育たない”という考えがあるんですよ。