連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」第二話「新時代の幕開け」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第二話「新時代の幕開け」
東京・永田町の空は、秋の澄んだ青に染まっていた。民自党の保守派を代表する高地きみえ総裁が女性初の内閣総理大臣に選出され、国会議事堂には歴史的瞬間が訪れた。高地首相は所信表明演説で「私は、日本と日本人の底力を信じてやまない者として、日本の未来を切り開く責任を担い、この場に立っています。今の暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済をつくる。そして、日本列島を強く豊かにしていく。世界が直面する課題に向き合い、世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す。絶対にあきらめない決意をもって、国家国民のため、果敢に働いてまいります」と宣言した。
責任ある積極財政で国民の生活を力強く支え、未来を切り拓く。そして、国益最優先で日本の国力を高め、領土・領海・領空を守り抜くと誓った。石渡卓前政権時代に漂っていた暗雲を吹き飛ばすかのようなエネルギーが充満し、高地の言動は次々に国民の心をつかんでいった。
高地首相の信念と決断を評価し、連立政権を組むことになった「日本一心の会」は、低迷していた政党支持率が久しぶりに反転することになった。本拠地である大阪の本部は熱気を帯びる。米村章文代表は会議室のホワイトボードに「議員定数削減」と油性マジックで大きく書き、幹部たちに「これは連立の絶対条件だ」と檄を飛ばした。彼の目には、決意と苛立ちが交錯していた。
高地内閣の発足後、民自党からは「国会議員の数を減らすことは簡単なことではない。民主主義の根幹とつながるだけに丁寧な議論が必要だ」といった消極論が聞こえていた。加えて、野党の動きも気になるところだった。特に民政党・玉城雄二代表の「態度の変化」が米村の神経を逆撫でしていた。
「少し前は『賛成』と言っていたのに、今になって逃げを打つなんて残念だ。一体、何をしたい政党なのか訳がわからん」。有言実行をモットーにする米村から見れば、玉城の優柔不断な態度は許しがたいものがある。議員定数削減は、日本一心の会が連立政権を組むにあたり民自党と合意したものだ。50議席削減し、「身を切る改革」を永田町でも実践する。それが日本を強力に前進させるエネルギーにつながると確信していた。
だが、民政党の玉城は当初は賛成の意を示しながら、一転して慎重姿勢に転じた。「本気でやろうとする場面で、できない理由を探し始める。『過去に言ってたやん』と言っても、『いやいや…』となる典型だ」。米村の怒りは、煮え切らない態度を見せる国会議員すべてに向けられていた。
米村は、玉城の「二枚舌」は民政党の支持率低下につながると見抜いていた。「結局、自分たちの身分を守りたいだけだ」「物価高対策や現役世代の負担減を言うなら、まず政治家の数を減らせ。国民の税金を無駄に使うな」。対決の火は、静かに燃え広がっていた。