日本がルールメーカーの「経済安全保障」:日本が有する“不可欠性”とは
経済的手段による他国からの圧力や圧迫に対抗しうる能力を構築することが求められる「経済安全保障」。地経学の第一人者で、東京大学大学院教授/地経学研究所長の鈴木一人氏は、「経済安全保障の分野は、日本が世界の手本になっている」と話す。日本が誇る強さと、認識しておくべき経済安全保障の基本とは。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
目次
「自律性」と「不可欠性」
これまで地政学の中で「経済力」と言えば、「GDP(国内総生産)の大きさ」や「戦争をするための工業力」といったマクロの経済力が語られがちでした。
一方で地経学における考え方は、もうすこし細かく、特に「自律性」と「不可欠性」に着目して分析するという点で、従来の経済学とは異なっています。
では、自律性と不可欠性とは何か。地経学における自律性とは、「他国からの威圧に対して対抗しうる能力を持つこと」を指します。
それに対し不可欠性とは、「経済的威圧を行う力」です。不可欠性を有している状態とは、「他の国にはないものを持っている」状態を意味します。
ただし、日本の自動車産業が強いことは世界的に有名ですが、それだけでは「不可欠性がある」とは言えません。というのも、人は日本車に乗らなくても死なないですし、欧州車や韓国車があれば代替できるからです。
一方で、現代人の生活は石油やレアアースに大きく依存していて、なくなってしまうと生活できなくなったり、産業が立ちゆかなくなる。そのようなものが「不可欠性があるもの」だと言えます。
経済に左右される世界
ですから資源を有する国は、それだけで優位性があります。それを利用したのが、1970年代に発生したオイルショックです。1973年の第一次オイルショックでは、世界中の国々が中東の石油に依存している状況下で、中東の石油産出国が原油公示価格を大きく引き上げました。
当時は第4次中東戦争の真っただ中だったので、そうしてダメージを与えることで、西側諸国のイスラエルへの支援をやめさせるという政治的な目標を達成しようとしたのです。「経済安全保障」の言葉は、このとき生まれたものです。
その後、世界中の国々は、省エネや戦略的な備蓄などさまざまな形で中東への依存度を減らすことにより、自律性を回復させました。
また2022年にはロシアがウクライナへの侵攻を実施し、各国はロシアに対して経済制裁を実施しました。ただ、日本は強い制裁には踏み切れませんでした。これも、ロシアの天然ガスが不可欠性を握っているからです。
他方、ヨーロッパ諸国はロシアの天然ガスの輸入停止に踏み切りました。しかし、それによって、電気代の高騰という極めて大きな経済的負担を背負わざるを得ませんでした。ヨーロッパはまさに「返り血を浴びた」わけです。