株式投資に時間をかけるのは「無駄」?橘玲が語る資産形成の“正しい戦略”とは

株式投資に注目が集まっている中、ベストセラー作家の橘玲氏は、「一般人が短期で利益を狙うのは非現実的」だと話す。さらに「資産運用でもっとも大切なのは、資産運用を考えないこと」だと話す橘氏が、一般人が取るべき資産形成戦略について語る。全3回中の1回目。
※本稿は『難しいことはわかりませんが、1億円貯める方法を教えてください! 普通の会社員が「億り人」になって自由に生きる超現実的ルート』(文響社)から抜粋、再構成したものです。
第2回:生命保険が必要なのは「子だくさんの低所得者だけ」橘玲氏が語る保険の真実
第3回:「不動産投資よりもインデックス投資が優れている」橘玲氏がその理由を大公開
目次
株式はすぐに「適正な価格」になる
大橋:株式投資で100億円の資産をつくった人をYouTubeで見ますし、ツイッターとかで、「数か月で資産が2倍になった!」という投稿も見かけます。 もっと、株のことを勉強して、大きく儲けることはできないんですか!?
橘:時間の無駄です。
大橋:無駄、ですか……。どうして、そう言い切れるのでしょう!?
橘:現代は世界中がインターネットでつながっているため、情報が瞬時に伝わります。とりわけ、株式市場では即時に売買が可能なため、どこかで、安い株式があれば、瞬時に買われて、適正価格に落ち着きます。
つまりすべての株式が高いも安いもないのです。これが効率的市場仮説です。
これもファイナンス理論の一部ですが、あくまでも仮説であって、市場は完全に効率的ではなく、わずかな歪みがあります。それを見つけてお金を増やしている人がいるのは間違いありません。
わたしの知り合いでもその方法を知っていて株式投資で稼いでいる人もいます。
大橋:じゃあ、その方法を僕が見つけて、大金を稼ぐことはできないのでしょうか?
橘:私もそう考えて、株式取引に挑戦したことがありましたが、HFT(高頻度取引)が登場したときに、こんな相手と競争しても無駄だと思い、やめました。
おいしい話にはみんなが群がる
大橋:HFTとは何でしょう……?
橘:株取引では、他の誰よりも先に注文できれば確実に儲かります。そのためHFT業者は、証券取引所に少しでも早く注文を出すために、取引所のサーバーが置いている場所の、すぐ隣の場所を借りて、自社のコンピュータを置くようになりました(これを「コロケーション」と言います)。
これによって、注文が取引所のサーバーに届くまでの時間が何ミリ秒か縮められるのです。 その後、3億ドルという巨額の資金を投じて、先物取引所のあるシカゴから、ニューヨーク証券取引所のサーバーがあるニュージャージーまで一直線に光ケーブルで結んだ業者が現れました。
山や川などの地形を無視し、住宅地では地権者から地下の権利を買い取って、売買注文を1ミリ秒短くしたのです。
(※これは『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』という映画になっていて、1ミリ秒(ハミングバードの1回の羽ばたき)短くする“夢”に賭ける男たちが描かれています。)
しかし、この「直線ケーブル」も、いまは光速に限りなく近い「マイクロ波」にとって代わられました。さらに、どんな物質でも通り抜けられる「ニュートリノ(素粒子)」を使って、ニューヨークと東京のような地球の裏側にある取引所同士をダイレクトにつなぐことも検討されています。
このように「必ず儲かる」おいしい話にはみんなが殺到するので、常軌を逸したとんでもない競争が起きます。大橋さんは、そんな人たちに戦いを挑みますか?
大橋:無理ですね……。
橘:それに対してインデックス投資の強みは、ネット証券に口座を開き、一度、定期積立の設定をしてしまえば、あとはなにもする必要がないことです。
時間や労力が不要で、それでいて長期で持てば、ほとんどのプロより成績がいいのですから、タイパ(時間対効果)が圧倒的に優れています。 つまり、資産形成を成功させるには①収入を増やす、②支出を減らす、③運用して増やす、の3つの方法がありますが、このうち、③の「運用して増やす」に時間や労力を注いでも、意味がありません。
だったら、運用は手間のかからないインデックス投資に任せて、あいた時間は、①の「収入を増やす」に振り向ける。これがほとんどの人にとって正しい戦略だと思います。
つまり、「資産運用でもっとも大切なのは、資産運用を考えないこと」なのです。
まとめ
・市場は効率的で、情報が瞬時に反映されるため、短期間で大きく儲ける株式投資は、現代の市場では非常に難しい。
・さらに、高頻度取引やAIの活用が進む中、一般人が短期で利益を狙うのは非現実的。
・運用はインデックスファンドに任せ、時間は収入を増やす努力に使うのが合理的な戦略。
お金に困っても「自分のせい」と言われる時代がやってくる
橘:さらにそれをNISAで運用すれば税金もかかりません。
大橋:やっぱり税金を減らすことも大切なことなんですか?
橘:はい。もし、インデックスファンドでなく不動産に投資をしたとします。家賃が入ってきたときに、所得税や住民税がかかります。売って利益が出たときにも税金がかかりますし、不動産を持っている間は、毎年、固定資産税もかかります。
大橋:給料をもらっても税金がかかる。不動産を売っても税金がかかるってことですね。
橘:基本的に何か収入を得たときに税金がかかるのです。 しかし、NISAならどんなに儲かっても税金がかかりません。一人あたり1800万円までの投資に対して恒久的に税を免除する、国家の大盤振る舞いと言うべき制度なのです。
大橋:なぜ、政府は大盤振る舞いにしてくれるんでしょうか?
橘:「これまでのようには国民の老後の面倒は見られないから、老後の備えはできるかぎり自分の努力でなんとかしてほしい」というメッセージでしょう。
これは日本に限った話ではなく、少子高齢化に直面した先進諸国は、どこも税を優遇して資産形成を促し、将来の国の負担をなんとか減らそうとしています。そうしなければ年金や社会保障の制度が持たないのです。
大橋:自分の老後のために資産運用しなければならないんですね……。
橘:そうです。 将来、NISAによる資産運用を当然のこととする若者たちが、社会の中心を担ったときに、老後について備えをしていなかった高齢者を、自分たちの税金で積極的に支えようと思うでしょうか。
障がいなどで自助努力が難しい人には公助が必要でしょうが、収入があるのに散財してしまったような「自己責任」を問われるケースでは、現役世代の視線はより厳しいものになりそうです。
大橋:それって、将来、お金に困ったときに「NISAをやってないの?じゃあ、自業自得じゃん」と言われてしまうということでしょうか!?
橘:そうです。今後は「老後は国が面倒を見てくれる」という幻想がなくなっていくと思います。
大橋:でも先生、NISAって1800万円までの投資額が対象ですよね。 完全に経済的自由になる1億円の貯金を目指す場合、少し物足りなくなってきますよね。そしたら、普通に税金を払って運用すればいいんでしょうか?
橘:1800万円では足りないと思う人は、配偶者の口座でも運用すればいいでしょう。また、子どもが18歳になったタイミングで口座を作れば、家族4人の場合で7200万円の無税の枠がもらえることになります。
そこまでいけば、資産運用に関しては生涯にわたって税金を払う必要はなくなる可能性が高いです。 「夫婦で30代からNISAへの積み立てを始め、子どもが18歳になったら口座を開設する」この戦略も、制度をハックする「裏技」と言えるかもしれません。
まとめ
・NISA制度では、一人当たり1800万円までの投資額に対して非課税で運用できる。
・配偶者や子どもの口座を活用すれば、家族4人(配偶者と子ども二人)で7200万円を非課税運用ができる。
・このような制度ができたため、将来は資産形成できなかった人への風当たりは強くなるかもしれない。
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