「防衛テーマ」三菱重工
2022年6月8日現在、「みんかぶ」および「株探」の「株テーマ」1位は「防衛」です。ロシアのウクライナ進攻や中国の動向など、「地政学リスク」により、株式市場では「防衛」テーマが注目を集めています。今回は、三菱重工業(株)(7011)を分析します。
Key Points
- 2023年3月期利益は、材料費・輸送費の高騰や半導体不足の影響を受けたものの増加。セグメント別では、エナジー部門の利益率改善に期待。
- 2022年3月期 ROEは対前期比4.6ポイントUP して7.7%へと上昇。
- 中期事業計画1年目は計画値以上の実績。今後更なる「収益力の回復・強化」、「成長領域の開拓」を目指す。
目次
Identity
・企業能力 KPI:(技術力)
- ロケット打ち上げ実績は国内No.1:52回( H2A、H2Bロケット打ち上げサービス)
- 世界最深度潜水調査船「しんかい6500」を建造 etc.
三菱重工は、言わずと知れた三菱グループの一翼を担っています。グローバルに400以上の拠点、約8万名の従業員を誇る大企業で、高度な技術とエンジニアリングを活かしたソリューションを提供しています。
人々のより良い生活を「モノづくり」で支えるため、陸・海・空・宇宙開発、エネルギーなど、様々なフィールドで事業展開しており、1884年(明治17年)の創業以来130年以上も最新鋭技術を提供し、その存在感を世界に誇る「技術力」でアピールしています。
Performance:全体業績
経済情勢
2022年3月期における世界経済は、年度末にロシアによるウクライナ侵攻はあったものの、新型コロナウイルス感染症への対策と経済社会活動の正常化が進んだことにより、半導体不足の影響や物価の上昇圧力が強まる中でも高い成長となりました。一方、国内経済の状況は、複数回の新型コロナワイルス感染症拡大防止に関する緊急事態宣言等の発出によって景気は一進一退となりつつ緩やかに持ち直しましたが、ウクライナ情勢の緊迫化による資源価格高騰や円安の加速で下振れ懸念が強まりました。
2022年3月期決算の概要
・P/L:
P/Lでは、前年実績および予想値を上回る高い収益力を見せており、事業利益は296.3%UP、最終利益でも279.4%UP!
連結受注高は、中量産品が新型コロナウイルス感染症の影響から回復した物流・冷熱・ドライブシステム部門を含む全ての部門で増加し、前年度を7,313億円上回る4兆677億円となりました。売上収益は、航空・防衛・宇宙部門が減少したものの、物流・冷熱・ドライブシステム部門、エナジー部門及びプラント・インフラ部門が増加したことにより、前年度を1,603億円上回る3兆8, 602億円となりました。
受注高・売上収益
事業利益は、材料費・輸送費の高騰、半導体不足の影響を受けましたが、収益力回復に向けた施策実行により、前期比で1,061億円増加しています。部門別の状況では、エナジー部門が減少したものの、航空・防衛・宇宙部門、プラント・インフラ部門及び物流・冷熱・ドライブシステム部門が改善したことによるものです。税引前利益も前年度を1, 243億円上回る1, 736億円となりました。また、親会社の所有者に帰属する当期利益は、前年度を729億円上回る1, 135億円となりました。
事業利益・親会社の所有者に帰属する当期利益
・B/S:
B/Sでは、自己資本比率は2.4ポイントUPして30.8%へと推移。また、ROEは対前期比4.6ポイントUP して7.7%へと上昇!
総資産は、資金化効率改善に向け削減を進めている最中ですが、残念ながら前年度末から3,056億円増加し、5兆163億円となりました。年度末に手元の現預金が積み上がったこと、期末の為替が円安に相当振れたために外貨建資産の円貨換算が膨らんだこと、サプライチェーンの混乱に備えて在庫を積み上げたことによる棚卸資産の増加などが主な要因となっています。
また、有利子負債ですが、1,700億円の減少(グロス表示)となっていますが、前年度末に比べて積み上がった手元の現預金等を控除したネット有利子負債で見ると、2021年3月期は6,602億円、一方2022年3月期が4,206億円となったので、実質的には約2,400億円を削減したことになります。なお財務の健全性を示す指標の一つであるROEは、前期より4.6ポイントUPして7.7%へと上昇しています。
資本・自己資本比率
親会社の所有者に帰属する持分当期純利益(ROE)及び総資産利益率(ROA)
・C/F:
フリーキャッシュフローがプラスへ転嫁、財務健全性の向上によりカーボンニュートラルに向けた成長投資財源を確保!
営業キャッシュフローは、利益の増加に加えて、受注の増加で前受け金を積み上げることができたことも相まって、前年度から大きく増加しました。また、資産の売却により、投資キャッシュフローも黒字となっています。政策保有株式については、訳1,000億円の売却を進めることができました。その結果、フリーキャッシュフローは、過去最高の3,018億円となりました。さらに有利子負債の削減が進み、財務健全性が向上し、成長投資に向けた財源を確保できています。
フリーキャッシュ・フロー
・株主還元:
25円増の100円配当を実現
こうした結果、2022年3月期における1株当たり配当金額は、25円増加して100円配当を実現することができています。
Performance:セグメント別業績
セグメント別状況における売上収益は、航空・防衛・宇宙以外の3セグメントで前年度比増収。特に増収を牽引したのは、エナジー(GTCC事業、原子力事業)および物流・冷熱・ドライブシステムです。事業利益においては、エナジーが前期比マイナスとなったものの、それ以外の3部門の利益が改善し前期比より大幅に増加しています。
ESG Elements:環境・社会・ガバナンス
SDGsの認識浸透とともに、ESG項目は企業の成長可能性をはかる視点の一つになりつつあります。
Environment(環境):
環境の観点で見る三菱重工は、2040年までに事業活動の脱炭素化を掲げ、気候変動対策に積極的です。
Social(社会):
社会関連データでは「従業員女性比率12.5%、女性管理職比率4.4%」と女性比率は平均レベルです。
Governance(ガバナンス):
ガバナンス体制においては、日本を代表する三菱グループだけあり、社外役員および女性役員比率は国内トップレベルです。
Plan:中期経営計画
現在、2021年~2023年3月期の中期事業計画を推進中で、「収益力の回復・強化」、「成長領域の開拓」を目標に現在は2年目に突入しています。
中計1年目の成果としては、収益性、財務健全性において計画値以上の実績、また、新規事業の売上も順調に伸長。そして、株主還元においては、過去最高の100円を配当しています。
中計1年目の進捗状況の評価:
- 収益性:〇事業利益率7%、◎ROE12%
- 財務健全性:〇総資産回転率0.9、◎有利子負債水準維持
- 成長性(新事業売上): 順調!2023年3月期1,000億円、2030年3月期1兆円
- 株主還元:◎過去最高水準の1株当たり配当金
この中計の重点施策は、コロナ影響からの回復、既存事業の伸長、課題対策・構造転換、固定費削減を掲げ、サステナブルで安全・安心・快適な社会の実現のためにカーボンニュートラルの達成は不可欠と捉え、省エネ・省人化・脱炭素化をいっそう推進する計画です。
Out Look:まとめ
三菱重工の中計1年目は全てのKPIで目標達成!この勢いは「◎」。
三菱重工の2022年3月期は、コロナ禍、半導体不足、材料費高騰などの影響を受けたものの、全てのKPIで目標を達成したことを評価。この勢いは「◎」です。
ちなみに「防衛」テーマの他にも、「インフラ輸出」「ガスタービン」「コージェネレーション」「地熱発電」でも注目されています。
<Youtubeでも解説>
【企業分析】三菱重工(7011)『この会社の○は何?』
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