早大国教・帰国子女が絶望したワセ女の空っぽさ…「ここはあえて千葉を選ぶエリート達が発露する自意識の結晶」 TOKYO探訪「浦安」

処女作『息が詰まるようなこの場所で』(KADOKAWA)を発売し、波に乗る窓際三等兵先生。連載タワマン文学「TOKYO探訪」第9話で襲うのは夢の国の所在地「浦安」だ。早稲田大学国際教養学部に通う帰国子女が「経験より学歴」を重視した日本の大学生に絶望します――。
シンデレラ(サラリーマン)にかけられた魔法(駐在)はいつか解ける
「成人式がディズニーとか、超羨(うらや)ましいんだけど!」。亜由美のキンキンした声が反響する。ディズニーという単語でワンオクターブ高くなるその声も、20歳になってミッキーのスマホケースを使うその感性も苦手だ。アメリカから帰国して8年。日本という国に、浦安という街に、私はまだ馴染めていない。
パパの駐在でカリフォルニアで暮らし始めた小1の春。ママの運転するトヨタのカムリの後部座席で、私は学校に行きたくないと毎朝泣いていたらしい。紫色のネイルをした学校の先生は何を話しているのか分からず、魔女のようだった。毎晩、起きたら日本に帰っていますようにと祈りながら背中を丸め眠った。
渡米当初の記憶が曖昧なのは、その後のアメリカ生活があまりにも楽しすぎたからだ。強烈な太陽光のように自己表現する友人達。ありのままでいれる、西海岸の空気が好きだった。一方、週末に通わされた補習校のあさひ学園。知人の陰口やジャニーズの話で盛り上がる日本人の友人とは、最後までそりが合わなかった。
でも、シンデレラ(サラリーマン)魔法(駐在)は深夜0時に解けてしまう。小6の秋、パパに降りた帰任命令。久々の日本の空はどんよりと曇っていて、空気は肌寒かった。成田空港からタクシーで浦安の新しい家に向かってる途中、ただ悲しかった。I felt so left out in my home country.
浦安の「マリナイーストTHE ISLES」にみた膨張した男根
非駐になったパパの、「ここが新しい家だよ」という声。マリナイーストTHE ISLESと名付けられたその街区では電柱と電線が地中化され、ヤシの木と瀟洒(しょうしゃ)な戸建住宅が並んでた。「オレンジカウンティみたい」と喜ぶママ。西海岸をイメージしたその風景には、ギラギラ照りつけるカリフォルニアの太陽だけがなかった。