残念な港区女子がインスタに東京タワーをアップし続ける理由…タワマン批判にマジギレする頑張っている人(窓際三等兵)
タワマン住民の悲哀を描いた短編小説をツイッターで掲載し話題を呼んだ窓際三等兵氏。この度、外山薫名義で小説『息が詰まるようなこの場所で』(KADOKAWA)を出版し、更に注目度が高まっている。改めて、窓際氏になぜ人々はタワマンや港区について異様な憧れを抱いてしまうのかを聞いた――。
港区女子はいつまでも港区に住んではいけない
――窓際三等兵さんはタワマンや港区女子に対する造詣が異様に深いですね。前々から思っていたのですが、なぜ港区女子は東京タワーの写真をインスタにひたすら上げ続けるのでしょうか。
(窓際三等兵)麻布競馬場と聞く相手を間違えているのでは……というのはさておき、持論ですが、昔から東京都港区に住み、小学校から聖心女子学院や東洋英和女学院に通うような本物の港区民は、東京タワーの写真をインスタにアップして見せびらかしはしないのではないでしょうか。私の周囲でも、由緒正しい家柄の友人が自分の住んでいる場所を不特定多数にアピールする場面を見たことがありません。なので、あれは、練馬の方とか、埼玉とか、郊外から来た人間が勢いで港区に住んでしまい、自意識が爆発していると分析しています。
そして誰に聞かれたわけでもないのに、六本木ヒルズの「けやき坂のイルミネーションが今年も綺麗」と写真付きで報告します。地元感を出したいのでしょうが、やっていることは観光客と同じだと早く気づいて欲しいですね。
――なぜ港区に住む外様は自意識が爆発するのでしょうか。
(窓際)正直、不思議なのですが、港区に住むだけで高揚感が得られるみたいなんですね。港区女子や港区おじさんのバイブル雑誌「東京カレンダー」が果たした役割も大きかったのだろうと思います。
でも、港区女子たちは年をとると気づくのです。本当に港区に住んでいいのは、先祖代々住んでいる人と、ベンチャー企業を上場させた人と、ゴールドマン・サックスかマッキンゼーだけなのだと。
港区って場所によっては1LDKが20万円くらいで住めちゃうのです。なので「港区在住」は、夫婦共働きだったら割と簡単に手に入れられるステータスです。
ですが、子供が生まれると中途半端なサラリーマン、上場もしていないベンチャー企業社長などの嫁は現実を突きつけられます。港区で家族が住める家を探しても「とてもじゃないけど買えない」。そして、絶望に陥ります。それでも、ある程度財力がある人たちは湾岸タワマンに逃げることができますが、そこもまた今ドンドン値段が上がっています。
絶望の港区女子が、港区の次に「向かう先」
――絶望の淵に突き落とされた港区女子はどこに向かうのでしょうか。
(窓際)彼女たちは現実を直視しだしたあたりでパタリとインスタの更新をやめるので完全な追跡調査は難しいのですが……。もともと自意識が爆発していた人たちだから、彼女たちにとって大切なことは「納得感ある降り方」を見つけることのようです。
例えば、港区女子たちは子供に小学校受験をさせたがります。最初は夢を見て広尾の慶應義塾幼稚舎を目指すのですが、結局は現実的なところに受かる。それが世田谷や杉並の小学校であれば、子供の進学を理由に港区から「降りる」ことができます。「あっちは教育がいいからねぇ…」と。そういう優しさが世田谷・杉並にはあるのです。
またコロナ禍で流行ったのは湘南・鎌倉です。リモートワークが一気に浸透し、都心に住む必要がなくなったからと港区を「降りた」人は、私の周囲にもいました。あちらは受験競争も激しくないようですしね。
湘南・鎌倉に移住した私の友人は、基本はリモートで週に1、2回出勤し、指定席をとって「ビールを飲みながら帰れる」という、理想の生活を送っていました。しかし、イーロン・マスクのせいで出社の大切さが見直されるようになり「週5出勤ではさすがに指定席はお金がもったいない」と、今では長い時間電車に揺られながら通勤しています。あまりにも哀しい出来事です。
はたまた、実際には港区から「降りている」のに、港区女子のふりを続ける人もいます。例えば、五反田は六本木までバス1本でいけます。そこに住みながら、定期的に東京タワーの写真をインスタにあげるのですね。
港区から離れる理由で「お金がないから」と公言できる強さがあれば、そもそも背伸びして港区に住まないのではないでしょうか。「旦那が朝サーフィンをしたがる」とか「自然豊かな場所に住みたい」とか、そういう言葉に込められた切なさ、儚(はかな)さを大切にしていきたいですね。
タワマン批判にマジギレしちゃう頑張っている人たち
――タワマン住民についておうかがいします。タワマンを批判されて怒る人はなぜ怒るのでしょうか。
(窓際)タワマンをdisるネットメディアの記事や、タワマン文学を読んで怒る人は一定数います。その理由は、彼らがタワマンに人生をベットしているからだと思っています。
個人的にも、彼らの気持ちは痛いほど理解できます。有名大学を卒業し、一流企業に入り、35年ローンで莫大な借金を背負って手に入れた自分の城。そびえ立つタワマンが己のアイデンティティーになることは、ごく自然なことだと思います。タワマンとは本来肯定され、称賛されるべき存在であるはずなんです。
想像してみてください。善良な市民として、道を踏み外すことなく30年以上生き、やっと手に入れたタワマンのことを。自分の人生の通信簿でいえば「5」にあたる、ピカピカの勲章。それを、アクセス数稼ぎのネットメディアに理不尽に叩かれ、ヤフーコメントではタワマンに触れたことすらない奴らに「人の住む所じゃない」と言われ、タワマン文学では「高層階ではお米を炊けない」と揶揄(やゆ)される。そんな理不尽なことがあってたまりますか。
真面目な人ほど、茶化されるとキバをむいてしまうのです。だからこそ、我が子のように可愛い湾岸地域の壁や手すりに傷をつけていくスケボーキッズも許すことができません。CMにスケーターを使う企業への不買運動を呼びかける異常な攻撃性も、防衛本能の一種であると思えば、理解できるのではないでしょうか。
私のファンにもタワマン住人は多いですが、どちらかといえば、ちょっと余裕があって、偏差値至上主義の風潮に疑問を感じていたり、スケーターを一括にして誹謗中傷するような人から距離を置きたかったりする方が多いですね。
次に書きたいのは狭小住宅や小学校受験
――『息が詰まるようなこの場所で』の登場人物にモデルはいますか。続編は考えていますか。
(窓際)実際に取材もしていますが、モデルはリアルな知人が多いです。また学生時代、塾のバイト講師をやっていたので、その時に出会った “ちょっと必死になっているお母さん” なんかも参考にしています。もう十年以上も前の話ですが、当時から所謂(いわゆる)”SAPIXママ” の走りのような人はいました。
続編は書くつもりです。ただタワマン・湾岸・サピックスは飽きたし書き尽くしたので、次は狭小住宅や小学校受験をテーマに書きたいなぁと。舞台は文京区か、田園調布か……。
――窓際三等兵として普段、どんな風に暮らしているんでしょうか。
(窓際)住んでいる所や子供の偏差値で勝った、負けたという不毛な争いから距離を置き、善良な一市民として、丁寧な暮らしを心がけています。職場でTwitterの話題になった瞬間、下を向いて気配を消しています。