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プライドも異様に高い”高学歴親”の共通点…子どもは摂食障害や不眠症でも周囲のアドバイスを聞けない、自分を曲げない

 精神科医で「子育て科学アクシス」代表の成田奈緒子氏によると、高学歴親が子育てに失敗する背景には、ある共通点があるという。それが「完璧主義」「虚栄心」「孤独」だ。成田氏が見てきた、高学歴親を苦しめ負の連鎖を生み出す“不幸な考え方とは”――。全5回中の3回目。 

※本稿は成田奈緒子著『高学歴親という病』から抜粋、編集したものです。 

第1回:ここまできたZ世代親の過干渉「エントリーシート代筆」「大学の履修登録」…人生を狂わせられる子と”混乱する”高学歴親
第2回:「学歴が低い人は不幸」「こんな子生まれるなら結婚しなかった」過剰すぎる教育熱…高学歴親の悲しい末路

「ママみたいになれない」子どもが摂食障害に 

「信用できる食材以外、絶対に食べさせません」 

 そう話したのは、大企業に勤務しながら小学生の女児を育てていたルミさんです。安心安全で生産者の顔がわかる有機野菜や肉、魚類といったブランド食材を定期的にお取り寄せ。これらの食材で自分が調理したもの以外食べさせません。 

 女児は学校の成績も抜群で、スポーツや楽器などどんな習い事をさせても優秀でした。ルミさんが「自分にとって理想の子どもが生まれたと感じた」と言うくらい自慢の娘でした。小学3年生から、お父さんの趣味でもあったトライアスロンを始めていました。参加した大会の子どもの部で表彰台に上がるほどの才能を見せました。 

 ルミさんの完璧主義に引っ張られるように、女児はストイックに食事制限をしました。加えて、朝からランニングするなどトレーニングも頑張ったと言います。まだ体が成長しきっていない小学生には、かなりハードでした。 

 すると、徐々に食べられなくなりました。真面目なので学校には行くのですが、給食が食べられません。家では、指でつまめるくらいの小さなおにぎりを2〜3個しか口に運べません。あっという間にやせ細り、同年齢の標準体重の30パーセント減になってしまいました。周囲に勧められ病院に行くと「摂食障害」と診断されました。 

 そんなプロセスを経て、母娘は私のところにやってきたのです。心配でおろおろするばかりのルミさんと、やせて目がくぼみ青白い顔の女児に初めて会ったときはとても驚きました。まだ4年生でした。 

 少しずつ私と話せるようになったころ、「どうして食べられなくなったのかな?」と尋ねてみました。彼女の答えが衝撃的でした。 

「ママが素敵すぎるから」 

 お母さんは高学歴、高収入。スリムだし、顔も美人で、料理も上手である。すべてにわたって完璧だから、自分もママみたいになれないと困る。小3くらいから、体が大きくなってきて、このままではママみたいになれないと思うと、とても不安になった。だから自分は頑張りすぎたのかもしれない――そんな内容でした。 

 摂食障害は、環境や親に対する拒絶反応が出る顕著な症状のひとつです。私が出会った摂食障害の子たちのほとんどが、親御さんに過度な食へのこだわりがありました。親が食にこだわり続けたことで、子どもが食べられなくなってしまう。そういう方はおおむね高学歴で、どんなことも完璧にやってのけます。 

 その後、女児は少しずつ食べられるようになり、元の体重に戻りました。お母さんが完璧すぎることは子どもにとってリスクになる。このことは、娘さんが回復してから伝えました。 

「お母さんも、頑張って、頑張って、母親をやってるのはよくわかるよ。でも、ちょっと手を抜こうか。有機野菜でなくても、たまに手作りでなくても、外食しても全然大丈夫だよ」 

 完璧主義な高学歴親は、私の肌感ではシャープで傷つきやすい人が多いです。感受性が強く、不安も察知しやすい。このため、あらかじめネガティブなことを回避するために、目の前のことに一所懸命に取り組みます。強い溺愛もある。そんな姿が、子どもにとっては「心配ばかりして自分を信頼してくれない」メッセージとして伝わるのです。 

「うちの子だけは違う」傲慢な思い込み 

 小学5年生の息子さんが不眠症のため、夜中1時から3時ぐらいに寝るというお母さんがいました。私たちのところにたどり着くまで、たくさんの病院を回っていました。いわゆるドクターショッピングです。どの病院でも一旦は良くなる。ところが続きません。当時も、ほかの病院で処方された薬が効いて、よく眠れるようにはなっていました。 

 眠りは深くなってきたのですが、1時から3時の間に寝て朝9時に起きる生活リズムは変わりません。不登校状態が続いていました。 

「眠れるようになったんだったら、寝る時刻を少し早めないといけませんよね」

 と、会うたび何度も訴えました。 

「まずは23時までに寝かせましょう。そこをやらないとうまくいきません。息子さんのような子どもを何人も診てきました。みんな本当に変わるから、信じて早寝早起きさせてみてください」 

 すると、こう言いました。 

「先生は、何人も診てるかもしれません。そういう人もたくさんいるかもしれませんが、うちの息子はその唯一の例外なんです。だからできません」 

 お母さんは病院を渡り歩く間に、いろいろ勉強し、医学的・科学的な知識もありました。私やアクシスのやり方に対し、論理的には納得しています。ところが、私が「こうしてみてください」と伝えるアドバイスを、自分が否定されていると受け取ってしまうようでした。 

 自分に痛みを伴うようなことを言われるやいなや、心のシャッターを閉めます。自分に落ち度があると認めたくありません。上記はいずれも、プライドが高い高学歴の親御さんにはありがちなリアクションです。心配ばかりで、わが子はもちろんのこと、周囲を誰ひとり信頼できません。どちらも自分の虚栄心を満たしてくれる医師が見つかるまで、探し歩いているようでした。 

 強すぎる虚栄心は、ともすれば他者への差別意識につながります。高学歴で完璧主義の親御さんが「わが子に自分と同じ道を辿らせてあげないと不幸になる」と思い込む裏には、差別と偏見がある気がします。 

 高学歴のお父さんなどが「このままじゃいい学校に行けないぞ。大変だぞ」とわが子に発破をかけます。学校の先生も同じことを言います。ここには「いい学校に行かないヤツはダメな人間」という差別意識が隠れていないでしょうか。 

友達もおらず、家族も頼れない親たち

 3つめの理由は「孤独」「孤立」です。高学歴親は世間体を人一倍気にするので、他者に弱みを見せたくありません。そうなると、周囲に相談できず孤独になりやすい。そのため、新しい情報や学びを獲得する機会も得られないのです。 

 そのうえ高学歴親のなかには、高度に専門化された職業に就いている方が多くいます。医師、弁護士、研究者、マスコミ関係、金融、公務員、教育、IT関係等々。皆さん、専門的です。 

 これら高学歴集団は、同じ苦しみを分かち合って支え合う「ピアサポート」の観点で見ると、仲間を作りづらい環境のようです。ママ友という子育て仲間が作りやすそうなお母さんたちでさえ、高学歴になると職場で同じ子育て仲間、悩みを分かち合ったり、共感できたり、情報交換できる仲間は得づらいようです。 

成田奈緒子著『高学歴親という病』(講談社)

 彼女たちが子どもの学校で仲間作りができるかといえば、プライドの高さや話が合う合わないなどさまざまなハードルがあるようです。 

 実際に、私のところに来る高学歴のお母さんたちに聞くと、やはりママ友がいません。ピアサポートはある程度必要なのですが、それがないためにご自分のとても狭い世界で、しかも少子化なのでひとりっ子か、2人くらいしかいないわが子だけと向き合って子育てせざるを得ません。 

 子育て支援センターなど公的サポートが進められてはいますが、充分とは言えません。これは大きな問題です。他に手本がなく教科書も参考書もないため、自分が育てられたように育てるしかありません。自分の価値観のみで、新しい価値観や他者の客観的な意見が入らない。そうなると、子どもを信頼するといった視点も学べないのです。 

 一方、お父さんになるとピアサポートはほぼ皆無です。職場はあくまで仕事場なので、子どものことなど話せる雰囲気ではないし、そもそも男性は自分のことを話すのが苦手。弱みを見せたくない方が多いので、周囲に相談できず孤独になりやすい。余計に新しい情報を得られません。干渉・矛盾・溺愛という不適切な子育てが生む「リスク」をずっと抱えたままです。 

 男性の孤独傾向はコロナ禍でさらに顕在化しました。 

 ある女性は、夫が「自粛生活にどうしても耐えられない」と夕方飲みに出かけてしまう。近所で知り合いの人が経営している店へ、(営業難を支える)人助けだからと言って、夜中の2時、3時まで飲んで帰ってくると悩んでいました。 

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この記事の著者
成田奈緒子

1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、医学博士。神戸大学医学部で山中伸弥氏と机を並べた同級生。米国セントルイスワシントン大学医学部、独協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。主な著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(講談社)、『高学歴親という病』(同)など多数

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