ヌートバー「私は皆さんと同じ大谷のファン。最前列で見れて最高に幸せ」全米で話題に
4試合連続視聴率40%超え。悲願の3大会ぶり世界一へ向けて、侍ジャパンの人気が沸騰している。もちろん「世界のスーパースター」大谷翔平の出場は大きいが、これほどまでに国民を熱狂させているのは、全力プレー、明るい性格のリードオフマン、“ペッパーミル” が大ブレイク中の日系大リーガー、ラーズ・ヌートバーの存在が大きい。アメリカ現地の報道とともに、一躍、誕生したニューヒーローの素顔に迫る。
東京ドームにこだまする「ヌー! ヌー!」の大声援
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開幕するほんの1週間前でさえ、日本人は【Lars Nootbaar】をうまく発音できた人はいなかったのではないだろうか。ラーズ・ヌートバー……応援の際の選手の名前を呼ぶ箇所では「タツジ」と叫ばれていて、所属するカージナルスでのインタビューでは「ラーズ」と呼びかけられていた。私たちは「ヌートバー」とか「ヌー! ヌー!」と呼ぶ。
ヌートバーの応援歌には「大和魂見せてやれ 戦え侍」という歌詞もある。ヌートバーが何者かもよくわからない段階で、大和魂を持つ侍の仲間入りを果たしていたようである(笑)。
ヌートバーは、母親が日本人であることから、日本で生まれていない初めての選手として、侍ジャパンに選ばれている。
2022年のMLBでの成績は、打率.228、ホームラン14本と、シーズンを通して、特に目立った成績を残したわけではない。2023年のカージナルスには、外野手のレギュラーを巡って、ヌートバーを含めて4人の有力候補がいる。ヌートバー、ディラン・カールソン、タイラー・オニール、そして20歳ながら打ちまくっているジョーダン・ウォーカーだ。ヌートバーのWBCでの活躍は、全米で話題になっているが、WBCが終われば、熾烈(しれつ)なポジション争いが開始されることになる。
カージナルス監督も高評価、ヌートバーの「チームのために粘り強く戦う姿勢」
しかし、セントルイス・カージナルスの監督オリバー・マーモルは、ヌートバーについて「彼はハングリーだ。彼はいつも『次はどうするんだ』と、それが塁上であれ、攻撃中であれ、考えている。彼が自分自身を向上させ続けているのを目の当たりにしている。私たちは、彼の仕事ぶりに十二分に満足しています」と言う。WBCでの経験が、彼の野球人生にケミストリー(好影響)を起こすことを祈ってやまない。
セントルイス・カージナルスの祝賀ジェスチャーとして人気の高い、ペッパーミル(コショウ挽き機)を模した2つの拳をひねるハンドシグナル。これは、ヌートバーのトレードマークにもなった。
この仕草は、米紙セントルイス・ポスト・ディスパッチ(2022年9月16日)によれば、「二塁打や本塁打が出るたびに、ヌートバーと多くのチームメイトは手を合わせ、まるでハウスサラダの上でコショウを挽くようにクネクネと音を立てていました。この仕草は、捕手のアンドリュー・ニズナーがチームメイトと『バッターは、打てなくても、球を見たり、四球を得たり、ランナーを進めたりすることで、チームのために打席を “grind out”(グラインド・アウト=コショウなどを挽くこと、粘り強く戦うなどの意)できる』と話したことから生まれた。ヒットを打った後、彼らは自分の手を『グラインド』する」そうだ。
昨シーズン、あと少し走ろう、あと少し粘ってみよう、あと少しチームのために何かをしようという精神性のシンボルとしてヌートバー選手は使い続けた。いつしかファンの目に留まり、チームもプレーオフに出場を果たしたことから、このペッパーミルのお祝いは全米に広がり、このジェスチャーは、Tシャツやグッズにまでなった。
ゆえにアメリカ、特にカーディナルスの本拠地のセントルイスで、ペッパーミルと言えばヌートバー選手のことであり、ヌートバー選手といえばペッパーミルを意味することになった。ヌートバーの誕生日にはチームメイトから本物のペッパーミルをプレゼントされたという。
“ペッパーミル” 大ブレイクは大谷ジェスチャーから…「完璧」大谷と「いたずらっ子」ヌートバーが日本国民を一つにした
日本において、このコショウを挽く仕草が有名になったのは、2ランを放った大谷翔平選手がこの仕草をしたことだろう。カージナルスファンの間で、その伝染するようなポジティブな性格ですでに人気のあるヌートバーは、大谷ともすぐに仲が良くなった。
WBC出場をめぐっては、大谷の通訳である水原一平から、インスタグラムで連絡を受けた(ABC News 2023年3月11日)。「多くの恋愛と同じように(僕のWBCは)インスタグラムから始まったんだ。すべてはそうやって始まる」と冗談交じりに話していた。大谷が「完璧」であるならば、ヌートバーは「いたずらっ子」という表現がぴったりだ。
このヌートバーのジェスチャーは、日本チームを一つにし、また日本国民の一体感をつくりだすことに成功したようだ。決勝トーナメントへ向けて、これ以上ない雰囲気がつくられつつある。
ヌートバーは、大谷にペッパーミルを教えた当時の状況を振り返って「私たちは、ヒットを打ったちょっとした記念に、何かをしたいと思っていた。でも、何をするかはまだ決まっていなかった。大谷さんは、私が塁に出て最初に何かやったら、それでいこうと思っていると言った。そしたら初回に私がヒットを打って、ペッパーグラインダーを出したんだ。で、大谷さんはそれをずっとやってくれたというわけさ」(MLB公式サイト・2023年3月6日掲載)
さらにヌートバーは、大谷に対して「私は皆さんと同じように、大谷さんを観戦するファンのようなものです。大谷さんを最前列で観るのは、幸運です」(ABC News 2023年3月11日)と話す。お祭り男・ヌートバーは、打撃成績だけでなく、ペッパーミルやダイビングキャッチも含め、日本代表を大いに盛り上げている。(文中敬称略)