人間と神の中間的な存在…羽生結弦が「これからも生きてゆく人々」のために氷上を祈った3.11「notte stellata」

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まるで液体のように、羽生結弦が氷に消えてしまう
『春よ、来い』
羽生結弦が、儚(はかな)く弧を描く。まるで氷に消えゆく妖精のように。
私の錯覚だろうか、その確かなエッジとともに、その長く細い腕に低く描かれる氷上の弧、それが氷上ではなく、かすかに氷中に浸透してゆく。まるで液体のように、羽生結弦が氷の中に消えてしまいそうな、そんなハイドロブレーディング。多くは略して「ハイドロ」と呼ぶ。
羽生結弦のハイドロは世界一、いや歴史上もっとも美しいハイドロだと思う。それは今更のことであり、ファンの多くにとっても「当たり前」の評価だろう。
なぜ羽生結弦のハイドロはレベルが違うのか
しかし2023年3月の宮城「羽生結弦 notte stellata」における『春よ、来い』。そこで死者、生者を慈しむかのような祈りとともに描いた弧、それは物理的に姿勢が低いとか、そういったレベルの話ではなく、ふと目を離したなら、氷の中へ入っていってしまいそうな、そうして消えてしまいそうな、それほどまでに儚いハイドロだった。