2試合連続ホームランの大谷翔平…今度はキャッチャーに投球サインを出し始め、最終形態の進化「ホームランのその先へ」

 WBCの興奮がいまだ覚めない中、2023年のメジャーリーグ(MLB)が開幕した。スーパースター大谷翔平は、いきなりの大活躍で激闘の疲れを全く感じさせず、4月3日(日本時間4日)、2試合連続の2ランホームランを放った。そんな中で、大谷はMLBに導入された新ルールによって、今シーズン、さらなる進化の予兆がある。ホームラン打者、剛速球投手という前人未踏の二刀流が、これ以上、どのように進化していくというのだろうか。

「ベースボールが変わる」…MLBが導入する3つの新ルール

 ChatGPTなどテクノロジーとともに究極の進化を始めたビジネス社会だが、大谷翔平が所属するMLBも、その例外ではない。

 MLBでは、大きく三つのルール上の変更が行われている。一つは、極端な守備シフトの禁止。もう一つは、ピッチクロック導入、最後はピッチコムの導入だ。

 極端な守備シフトの禁止については、大谷にとって追い風だろう。分析サイトの「Baseball Savant」によれば、大谷がランナーなしのときに打席に入ると、右方向に3人の内野手が固まり、そのうち1人は一、二塁間のはるか後方にいることが多かった。左方向は遊撃手の定位置付近に1人だけで、通常サードの位置にいる人が「無人」となっている。

 このような極端な守備シフトは、MLBでは、この5年でスタンダードな戦術になっていった。「シフトへの対抗策として生まれたのが『フライボール革命』だ。2017年のゼネラルマネジャー(GM)会議で、アストロズのジェフ・ルーノウGM(当時)は『データが増え、シフトは今後、ますます洗練されていく。となると、角度をつけ、内野の頭を越す打球を打つしかない』と話した。アストロズはフライボール革命の先駆者となった。だが、こうした〝進化〟はエンターテインメントとしての野球にとって、プラスとはいえなかった。極端にいえば『三振かホームランか』という大味な打撃が増え、野球がつまらなくなった。もっと、インプレーの打球を増やし、エキサイティングな野球を、と考えたことが、今回のシフト禁止につながっていく」(日経新聞・2022年11月21日)のだという。

極端な守備シフトが禁止に…大谷は大歓迎「ファンのためにもいい」

 大谷はこの守備シフトに対して、否定的な思いがあったようだ。雑誌Number1048号『MLB2022開幕特集 大谷翔平が待ちきれない』に掲載されたインタビューには「たとえば打率を上げたいと思うなら、逆方向へ打てばいいじゃないですか。来年から守備シフトが禁止になるという可能性もありますけど、今のままのシフトを敷かれた中で打率だけを求めるなら、セーフティバントをすればいいし、守っていないところを狙って打てばいい。でも、それじゃ、おもしろくないでしょう」と述べている。このコメントの前後にも大谷は、ファンの側に立って、守備シフトはないほうがいいということを繰り返し述べていることからも、今回のMLBのルール改正には大賛成だろう。

 大谷のシーズン開幕戦、3月30日(現地時間)のアスレチック戦では、4回無死一塁で初ヒットをするどく放ったが、例年までの極端な守備シフトを敷かれていたら、アウトになってしまうかもしれない打球であった。

大谷は、試合後「これまでが左バッターに不利すぎたというのがひとつ。これでイーブンになったんじゃないかなと思いますし、ピッチングに関しても、そこは僕にとってもイーブン。逆に投げるときは配球を考えながらやらないといけないなと思います」(スポーツ報知・2023年3月31日)とコメントしている。

大谷のさらなる進化を予感させる、バッテリー間の新ルール

 大谷にとっての新しい進化のきっかけになりそうなのが、残り二つのピッチクロックとピッチコムの本格導入だろう。日本野球界にはまだ導入されておらず、知らない人がいるかもしれないので、簡単に説明をしておく。

 ピッチクロックは、試合時間を短縮するために、ピッチャーとバッターにそれぞれ制限時間を設けるルールだ。例えば、ランナーがいない場合、ピッチャーは、キャッチャーからボールを受け取ってから15秒以内に投球動作を始めないと “ボール” が宣告される。

 ピッチコムは、2022年シーズンからMLBで導入されたバッテリー間のサイン伝達に使用される電子機器のことで、捕手は手首に電子機器が入ったアームバンドを身に着け、それを操作して投手が付けた受信機にサインを送るものだったのが、大谷が身につけているのは、まったく逆で、ピッチャーが投げる球種をキャッチャーに送るものだった。これはMLBが開幕する1週間前に、ピッチャー用のピッチコムを許可したことから、大谷も利用することになった。

 つまり、大谷が発信機を身に着けていて、キャッチャーに対して投げる球種を(数字を打ち込んで)伝えるというものだった。いよいよ大谷は、これまでキャッチャーが担っていた球種やコースを決めるという役割まで担うようになったのである。

現代の「野球の神様」オータニの最終進化系…投手、打者、捕手の三刀流へ

 開幕投手となったアスレチックス戦では、このピッチコムは、大谷の肩に近いジャージの下に装着されていたのだという。しかし、試合の序盤で、ピッチコムの機器にトラブルが発生してしまった。急遽(きゅうきょ)、キャッチャーがサインを出すことになったのだが、立ちはだかったのが「ピッチクロック」という時間の壁だった。

 エンゼルスのネビン監督は、この状況を振り返り「ショウヘイには、投げられる球がたくさんある。翔平には投げられる球がたくさんあるのに(首を)振って、振って、振って……時間がないんだ」(Fox News 3月30日)と残念がっている。

 つまり、時間制限(15秒)がある中で、大谷が思い描く球種・コースを、キャッチャーが出すことができなくなっていたようだ。具体的には、スライダーとカットボールを多用し、スプリットが投げることができなかったのだ。それでも今回、6回を無失点10奪三振で終えるという大谷の圧巻の投球には脱帽するほかないだろう。

 野球の神様・ベーブルースへの偉大なる挑戦者として、ピッチャー、打者、そしてキャッチャーの役割までこなし始めた大谷の活躍から、今年も目が離せない。(文中敬称略)

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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