羽生結弦「聖なる舞い」はいよいよ高次に至る…「あの夏へ」の沈黙でそれぞれの魂の深層まで入り込んできたヌミノーゼ

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誰もが手に入れたくとも羽生結弦にしか与えられなかった絶対的な「美」
スターズ・オン・アイス2023(以下、SOI)を通して、羽生結弦は『オペラ座の怪人』『阿修羅ちゃん』とともに『あの夏へ』を舞った。
あえて「舞った」と書く。あれはまさしく「ハクの舞い」だから。
そのハクとなった羽生結弦は、ときに「ニギハヤミコハクヌシ」としての力強さをも魅せた。伝説の東京ドーム『GIFT』から引き継がれたその舞いはブラッシュアップされ、SOIの各会場を魅了した。稀代(きだい)の表現力と努力とに裏打ちされた確かなスケーティング、そして悲しいかな、ときに嫉妬さえも受けてしまう、誰もが手に入れたくとも羽生結弦にしか与えられなかった、絶対的な「美」がそこにはあった。
羽生結弦のスケーティングが起こす「ヌーメン的現象」
さらに特筆すべきは「沈黙」であった。スケートショーは当然ながら、称賛の歓声を上げようと観客も待ち構えている。しかし『あの夏へ』は、終わりとともに一瞬の静寂があった。いや、登場した瞬間からの一瞬の歓声も、また静寂に変わった。会場には羽生結弦のファンばかりではない。すべての鑑賞者が、羽生結弦=ハクの姿に、その舞いに餐(の)まれた。