40歳で35年ローン、月40万返済…勝ち組東大卒総合商社マン絶対勝てない港区の「汚い地権者おじさん」…連載タワマン文学「TOKYO探訪」白金高輪

なぜ人は港区に吸い寄せられるのか。窓際三等兵氏はその謎に何度も体当たりし、答えを探してきた。そんな中で窓際氏は一つの真理にたどり着いた。港区ヒエルラルキーの絶対的頂点に立つのは経営者でも、外銀マンでも、No.1ホストでもなく、汚いおじさんだった。連載タワマン文学「TOKYO探訪」第14話白金高輪では、東大卒総合商社マンが購入した、東京タワーの先っぽしか見えないタワマンの話だ――。
有り余る税収を使って建てられた公立小中一貫校の豪奢な校舎
「パパ、インドのおしごと、おつかれさまでした!」。娘が晩酌のビールを注ぐ。ついこないだまで、ハイハイしていたというのに。5年という月日の長さと重さを前に、こみあげてくるものを必死でこらえる。総合商社に入社し、途上国での単身赴任に耐え、ようやく掴(つか)んだ平穏。それでも足りない何か。白金高輪のタワマン低層階から、東京タワーは先っぽしか見えない。
東大を卒業し、総合商社に入社して十数年。インドの水で腹を壊し、日本の家族に会えない寂しさで枕を濡らした。ワクチンがない頃に新型コロナに感染し、生死の境を彷徨(さまよ)った日々。貴重な30代の記憶は、孤独とカレーの匂いが充満している。帰国後も、インドカレー屋の前を通るたびに全身がゾワゾワする。
久々に帰ってきた日本、最愛の家族との生活。「教育のこともあるし、港区とかどうかな」。妻が差し出すタブレットには、有り余る税収を使って建てられた公立小中一貫校の豪奢(ごうしゃ)な校舎が写っていた。「中受とか気にせず、伸び伸び育てたいじゃん」。日本の教育事情を知らない僕は、ただ頷(うなず)くことしかできなかった。
「東京」を求める人間の所有欲と虚栄心を満たすタワマンの設備
失った時間は取り戻せないことを知るのは、子供の成長だけではなかった。「駐在される前なら、もっと安い物件もあったんですけどね〜」。1億4000万、5000万、6000万――。不動産屋に話を聞くたび、じりじり上がっていく予算。駐在中に積み上げたハードシップ手当も、不動産の値上がりの前では微々たるものだ。