広末不倫問題にフランス哲学者「フランスでは不倫は存在しない」15歳で40歳と略奪婚し大統領になったマクロン…

 広末涼子・鳥羽周作の不倫が世間を騒がせている。しかし、フランス哲学者の福田肇氏は「フランスでは有名人の不倫など当たり前。そもそもフランスには『不倫』という概念すらない」という――。

理知的なRagaloの小倉知己と対照的に「暑すぎる」鳥羽周作

 鳥羽周作というフレンチのシェフを、私は、三宮橋イタリアンRegaloの小倉知巳のYouTube動画で知った。

 イタリア料理のシェフによる料理動画は数多いが、過剰なパフォーマンスで〝イタい〟演出の動画が多数散見されるなか、小倉知巳シェフは、冷徹で緻密な論理で、ひとつひとつの工程の必然的な意義を正確に講義してくれる(とはいえ、動画の最後には、作った品の熱さをこらえて食するお茶目なリアクション芸と、二日酔いへの効能に関するコメントという〝お約束〟も忘れない)。

 小倉シェフの妙に〝理屈っぽい〟口調は、(最近炎上している)山下達郎のラジオ番組における語りを彷彿させるものがあり、私のお気に入りであったのだが、ある回から、小倉シェフとは対照的な存在感の人物–––巨漢、満面の髭、理論より体力、語学が苦手そう–––がしばしばゲスト出演するようになった。それが鳥羽周作であったのだ。正直言うと、少々苦手なキャラである。

 私にとって、鳥羽周作は、小倉知巳の〝理性の統べる世界〟に闖入する暑くるしい〝ノイズ〟でしかなかった。だから、「有名芸能人」である広末涼子との「W不倫」の醜聞が流布されたときも、彼女の相方がこの〝料理人の〟「鳥羽周作」であるとにわかには同定できなかった。とはいえ、小倉知巳のステージでは脇役であった鳥羽周作は、こうして、料理の世界とはまったく無縁なところで、一挙に〝主役〟の座に躍り出ることになったのである。

昔の日本語では、「愛」は即「不義(浮気)」を意味していた

 ビー玉の栓というくだらないものを発明するのに一生涯を費やしたフランス人「ラムネー氏」に想いを馳せた、戦中に書かれた不遜で挑発的なエッセイ『ラムネ氏のこと』のなかで、坂口安吾は、キリスタンの宣教者たちが、ポルトガル語の聖書の頻出語句amorに相当する語句が日本語に見出されないことに困窮した、というエピソードを紹介している。amorを「愛」と訳せない。なぜなら、当時、「愛」は即「不義」を意味したからだ。そして「不義」はお家の御法度であった。だから、「神の愛」などと訳そうものなら、日本人には「神の浮気」ととんでもない意味に取られかねないリスクがあった。そこで困り果てたバテレンたちは、けっきょく、amorに「御大切」という造語を当てるという苦肉の策を取ったのである。

 この事情は今でもあまり変わっていないようだ。「不倫」とは、字義どおり「倫理的ではない」、つまり「人の道をはずれている」ということだ。したがって、「不倫」はもはや〝当事者の問題〟ではなく、社会的悪徳でありタブーなのである。

フランスには日本語の「不倫」に対応する言葉がない。結婚にもこだわらない

 しかるに、amorに相当する日本語が見当たらないのと同様、逆にフランスには日本語の「不倫」に正確に対応する語句が存在しない。いちおうadultèreという語句はあるが、それは、ラテン語 adulterium(不純物の混入)に語源をもっている。だからadultèreは、「当事者同士の結婚の誓約に対するノイズの混入」つまり「契約違反」にすぎない(ちなみにadultérationといえば、「食品への混ぜ物」、つまり「食品偽装」という意味である)。

 だいたい、フランスでは、「結婚」という形式にこだわらないカップルがきわめて多い。日本でいういわゆる「事実婚」「内縁関係」がそれにあたるが、日本のようなうしろめたさ、日陰もの的なイメージをまったく含んでいない。むしろ事実婚のほうが一般的なのだから。そして、「愛の国」フランスでは、二人のうちのどちらかが、他の人に恋心を感じるようになったら、この関係は終わる。二人の間に子どもがいようが、どちらかがあるいは両方が有名人であろうが社会的に地位があろうが関係ない。そこに、「人の道をはずれている」と形容されるものは何もない。もちろん、フラれたほうは、感情的にわりきれないもの——嫉妬や未練や悲嘆など——もあるだろう。しかし、それはあくまで当事者の問題である。時の経過がわだかまりを解消すれば、元カレとその今カノ、元カノとその今カレが、おたがいの子どもを連れていっしょにキャンプに行くなんてのも、さほど珍しいことではない。この割り切り方は、むしろすがすがしいとも言える。

スラヴォイ・ジジェクの「相互受動性」。広末・鳥羽にタブーの侵犯を代行してもらうことに喜びを感じるゴシップ読者たち

 「泣き女」をご存知だろうか。故人の親族の代理として故人の死に際して号泣してくれる役割を演じる女性たちである。泣き女たちは、遺族の悲しみを代行してくれる。現在でも中国や朝鮮半島、台湾に残る風習である。

 ラカン派の哲学者のスラヴォイ・ジジェクは、このような関係を「相互受動性」(inter-passivité)と呼んだ。相互受動性とは、最近流行の「双方向性」(たとえば、テレビのリモコンのdボタンやカラーボタンでアンケートに回答できる、あるいは番組にe-mailで視聴者の意見を送信するなど)の裏返しである。すなわち対象(ここでは泣き女)が、私から私自身の受動性(悲嘆すること)を奪い取り、その結果、対象そのものが私の代わりに悲嘆するのだ。

 同様に、私たちが有名人のゴシップ記事を求めるのは、私たちが恋愛の高揚感、ないしはタブーを侵犯する甘美な背徳感を、有名人に代行して享受してもらっているということにほかならない。私たちは日々のよしなし事で忙しく、あるいは残念ながら機会に恵まれず、あるいは世間体やら社会的信用やらを犠牲にしてまで他人の妻や夫に手をだす勇気をもてない。だから広末涼子と鳥羽周作に〝アウトソーシング〟しているのである。広末涼子と鳥羽周作は、私たちの代理として、〝禁じられた恋〟の愉悦を体験してくれているのだ。私たちはといえば、「倫理にもとる」だの「広末がなぜあんなデブと?」と〝ヤジウマ〟側にまわって適当に論評をくわえておけば、自分たちがついぞ実行に踏みだせない恋愛や不倫への願望をうまいぐあいになだめておける。

フランス大統領ミッテランの隠し子がバレても「それがどうしたの?」…フランス国民も無関心だった

 『エ・アロール それがどうしたの』という渡辺淳一の新聞連載小説がある。2003年にTBS系でドラマ化もされた。小説のタイトルである『エ・アロール』(Et alors ?) というフランス語の表現は、ミッテラン大統領が週刊誌記者から女性問題をたずねられたときに発した一言に由来している。ミッテランは、正規の配偶者のほかに愛人の間に子どもをもっていた。記者からその辺の事情を突っこまれたとき、「それがどうしたの?」と返したのだ。では大統領のこの返答が顰蹙(ひんしゅく)を買ったか、「スキャンダラスな」私生活ゆえに失職したかといえば、とんでもない。そもそもフランス国民にとってミッテランに〝隠し子〟がいるということは、公然の事実だったからだ。つまり、Et alors ? は、狼狽(ろうばい)や開き直りの表現ではなく、フランス国民の声の代弁だったのである。ミッテランは1995年に死去したが、現在においても、フランスでは、死刑廃止や福祉政策の充実の面で偉業を達成した政治家として高い評価を受けている。

フランス大統領マクロンは15歳のとき、40歳の人妻を略奪したが、それでも大統領になれた

 だいたい、フランスの歴代大統領の恋愛〝事件〟は枚挙にいとまがない。2014年1月10日、フランスの芸能誌「クローザー」は、フランソワ・オランド大統領(当時)が、女優ジュリー・ガイエと恋愛関係にあると報じた。大統領は「プライバシーの侵害」だとして法的措置を検討したものの、報じられた内容を否定することもなく、またこの一件が、もともと支持率が低かった大統領に追い討ちをかけて失脚させることはなかった。ただし、事実婚のパートナー、トリールヴァイレールとの関係を終わらせただけだった。オランドは結局2016年の任期満了までその職をまっとうしたのである。

 マクロン現大統領も負けてはいない。マクロンが15歳のとき、彼が在籍していたリセの現役フランス語教師ブリジットと恋愛関係に陥る。ブリジットは当時40歳、アンドレ・ルイ・オジエールという地方銀行員を夫にもつ既婚者で、子供も3人いた。そのうちのローランスは、マクロンと同級の女の子だった。ブリジットは2006年にアンドレと別れ、2007年マクロンと結婚。このような〝輝かしい〟前歴をもちながら、マクロンは2017年大統領に当選している。

フランスでは、不倫報道で公職の地位を追うことはできない

 もちろん、フランスにも前出の『クローザー』誌をはじめ、いくつかゴシップ誌は存在する。『セレブリテ』(Célébrité)、『スター・システム』(Star System)、『ウップス!』(Oops !) など。それらの雑誌が有名人や政治家の恋愛事情を報道するのは、日本のマスコミと基本的に変わらない。だが、大きく違うのは、それらの雑誌が当該有名人によって「プライベートの侵害」として訴えられることはしばしばあっても、それらの雑誌が取材した後者の恋愛事情がその公的な職務を奪うことはない、ということである。現行のパートナー以外の人間に恋愛感情を覚えることはありうる。そうすれば、あとは当事者たちが現在の関係を精算するのか、続行するのか、それだけであり、どこまでいっても当事者同士のプライベートな次元にとどまる。そもそも、adultèreは社会的悪徳ではないのだから、恋愛事情そのものが個人の人格を査定することにはつながらない。

 戸田市役所は、2021年11月に鳥羽周作が就任した「とだPR大使」を、2023年6月15日をもって退任処理したことを発表した。また六甲バター、ユーグレナなどの企業、「今日の料理」などの番組が、次々と鳥羽との契約解除、番組降板を発表した。

 バテレンの時代の「不義はお家の御法度」は、いまだ健在なのだ。

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