「埋立地とか信じられない」千葉出身早大卒の損保マンがたどり着いた”妙に坪単価が安い街”…窓際三等兵・連載タワマン文学「TOKYO探訪」東陽町
天才タワマン文学作家・窓際三等兵先生の連載「TOKYO探訪」第5話は、第2話神楽坂編「都落ちの春香」の元カレが主人公だ。南砂への引っ越しを決めた春香だが、元カレが隣駅・東陽町に住んでいた。東京都の洪水ハザードマップで「情熱の赤」に染まる地域に吸い寄せられた2人は再び出会い、恋をリスタートするのか――。
荒川またぐ清砂大橋を無理やり「インスタ映え」させる春香の悪あがき
「結婚しました。川の香りを感じる街で2人、新生活を紡いでいきたいと思います」。インスタを開くと、元カノが結婚を報告していた。情緒的なポエムと洒落たアングルの写真で誤魔化しても俺には分かる。この橋は江東区と江戸川区にまたがる清砂大橋。川の香りだとは笑わせる、そこにあるのは荒川だ。
「そろそろ結婚したいし、地方はちょっと…」。春香がそう言って去っていったのは5年前。損保マンに転勤は付きものとはいえ、学生時代からの付き合いをあっさり切られたのは少なからずショックだった。新しい彼氏と神楽坂に住んでると噂で聞いていたが、そうか、南砂町か。優越感で口角が少し上がる。
千葉県出身、市川高校から早稲田政経を経由して損保ジャパンに入社。本社配属で、学生時代から付き合ってた春香は日立子会社に就職した。そこそこの人生だと思っていたが、それが勘違いだと気づくまでに時間はかからなかった。転勤であっけなくフラれ、人生初の地方生活は苦難の連続だった。
自動車ディーラーの横暴に振り回され、出世の見込みがない課長から嫌がらせを受けた。運用系の部署への異動を目指し、毎朝毎晩コツコツ勉強して証券アナリストとTOEIC900点を取った雌伏の日々。現役時代、早稲田を蹴って一浪したのに、結局東大に落ちた経験に比べればどうってことないと言い聞かせた。