成田悠輔「進学校にいっても頭はよくならない。頭がいいから進学校にいく」まだ受験勉強に消耗しているの?

 データやアルゴリズムを駆使し、社会制度の変革を目指す米イェール大助教授の成田悠輔氏。成田氏は日本の民主主義が機能不全を起こしていると指摘し、AIやデータといったテクノロジーを活用することによる、日本の教育や政治のドラスティックな改革を訴える。「教育は1人ひとりにカスタマイズしていくべき」「政治家は将来猫にとって代わられる」などと話す成田氏の見据えるものとは――。

※本稿は高橋弘樹編著『天才たちの未来予測図』(マガジンハウス新書)から抜粋、編集したものです。 

進学校に入っても頭は良くならない 

 私は、世の中の意思決定や資源配分に用いられているような、さまざまな社会制度を、アルゴリズムと捉えて、それをデータの力を使ってよりよい形に組み替えていくにはどうしたらいいかを研究しています。 

 「今の仕組み、ルールは本当に意味があるのだろうか」という素朴な疑問について、データ分析を使って問い直し、答えを出していくのです。専門としているテーマの1つが、教育政策です。 

 1つ、研究の具体例を出してみます。教育について、私たちが思い浮かべる素朴な疑問として「学歴に意味があるのか」があります。私たちは、有名で入るのが難しい進学校に入るために、お金も時間も注ぎ込み、一生懸命勉強をする。そんな大変な日々を送る中で、「こんなに頑張って勉強する意味があるのだろうか」と、誰でも1回くらいは思ったことがあるはずです。 

 そういう教育に関する素朴な疑問に、データを使って答えていきます。使用したのはアメリカの自治体が収集している、子どもの学力に関するデータです。ニューヨークには全米屈指のエリート高校がいくつもあり、入学には厳しい学力基準が課せられます。この選抜過程に注目し、ぎりぎりで合格した人とわずかに点が足らずに不合格になった人の「その後」を追いました。 

 合格点のボーダー付近の人たちは、ちょっとした偶然が合否を分けているので、学力はほとんど同じだと捉えることができます。そのため、彼らの将来の学力や進学先を比較することで「学歴の効果」を調べられるのです。 

 この調査によって、意外な事実が判明しました。進学校に入った人と普通の高校に入った人の間で、その後の学力に違いがほぼなかったのです。「進学校に入ると頭がよくなるのではなく、頭のいい人が進学校に入っているだけ」という、厳しい受験勉強で時間を溶かしてきた私たちには残念すぎる結果です。 

 こうした研究によって、直感と反する結果が出ることもよくあります。データの分析によって、私たちが当たり前に受け入れている常識が間違っていることに気づくことができるのです。 

 常識を壊したうえで、社会制度や資源配分の仕組みをゼロベースで虚心坦懐(たんかい)に考え直していく。それが私の研究の目指しているところです。 

AIが選挙を変え、未来を変える

 AIやデータを使ってつくり変える一例として考えられるのは、政治の「意思決定者」を決める選挙です。選挙制度は長らく根本的には変わっていません。SNSでの選挙活動の解禁や一部地域での電子投票など、表面的な変化はありましたが、大枠の仕組み自体はそのままです。 

 選挙制度のような何十年も続いている社会の仕組みを時代に合わせてつくり変えるというのは、取り組んでいる人が少ないタイプの問題だと思います。 

 選挙制度は、私たちが何を求めているかというデータを投票という形で収集し、それを基に「どの政治家が議員になるのか」「どの政党が政権をとるのか」を決める仕組みです。これは目的設定を行うための「計算装置」と捉えることもできます。 

 この計算装置をAIに置き換えていくと、また違った未来が形づくられていくでしょう。社会的な合意形成を「自動化・機械化・プログラム化」しようという動きも少しずつ出てきています。たとえば「自律分散型組織」などの組織運営のインフラです。 

 今は、人間同士が会議で話し合ったり、交渉したり、裏で根回しをしたりして、どう意思決定が行われたのかがよくわからない形で進んでいくのが普通です。それをそのままAIやアルゴリズムに置き換えることで、今までブラックボックスだったプロセスを透明にしていく動きがあります。 

 私には1つの予測があります。私たちが今、「選挙」と呼んでいるものとは違う民主主義の具現化が出てくるという予測です。選挙会場に行って、用紙に候補者の名前を書いて投票するという仕組みからがらっと変わった何かです。 

 今の仕組みだと、私たちが意思を表明できるのは、投票のときだけ。しかも「どういう政策を支持するか」ではなく、1人の候補者を選ぶという間接的な形でしか関わることができない。 

 しかし、今の社会ではもっとありとあらゆる場所で私たちの意思を集めることができます。 

 SNS上の政治に関する発信を集める。 

 日常会話を家電に組み込まれた録音機で収集する。 

 政治家の演説を見ている人がどう感じているか、表情のデータを取る。 

 世の中に散らばっている大量の意見や思想、考え方に関するデータを集約し、分析を行い、政治の方向性を決めていくのです。こうすれば、人間が介在することなく、私たちの意思を反映させた政策を行うことができます。 

 ただ、こういった仕組みの実現までには解かなくてはいけない技術的・倫理的・政治的な壁がたくさんあります。 

 そういった壁を乗り越えるためには、この問題に取り組む人がいろいろな領域からたくさん出てこないといけない。数十年から百年といった長いスパンで進めていく社会的な事業という感じでしょう。 

未来の政治家は「猫」にとって代わられる

 長い目で見ると、未来の民主主義に政治家の存在はあまりいらないのではないでしょうか。私は政治家は2つの役割を持っていると思っています。 

 1つはどういう政策を進めるかの意思決定をし、行政機関を使って実行していくという、実務家としての役割。もう1つは、人の前に出て、ある種のタレントとして活動し、何か起きたときには火だるまになるという、マスコット的な役割。 

 前者の実務家としての政治家の役割は、先ほどまでに見てきたようにだんだんAIやプログラムにとって代わられていくと思います。個人レベルでは、たとえば今もうすでに投資や保険の管理をアプリに任せていたりします。 

 それと同じことが、政治の世界でどんどん起きていき、人間が意思決定するものがだんだん減っていく。その結果、実務家としての政治家は必要なくなっていくという感じです。 

 そして後者のタレントやマスコットとしての政治家は、おそらく猫などにとって代わられていくと思います。 

 かなり真剣に考えていますが、猫が被選挙権を持ったらすごいと思います。SNSでの好感度の集め方とか、もう桁違いですから。SNSでの人気を独占している猫に勝てる政治家は、ほとんどいないのではないでしょうか。 

 政治家のマスコットとしての機能は人気投票そのものなので、知名度とPVを稼ぐものが勝ちます。実務はすべてAIとプログラムに任せて、愛嬌(あいきょう)を振りまいてさらに人気を集め、何かトラブルが起きたら、責任を取る。これが未来の政治家の姿になると思います。それが得意なのは人より猫かもとも思います。  

 ドライな言い方をすると、歴史とともに、昔はあった役職とか職業とか役割がだんだん消えていって、機械やソフトウェア、ロボットに置き換わっている。それと同じです。 

 それでは、未来の世界で、人間の役割は一切なくなってしまうのでしょうか。 当然ですが、そんなことはありません。AIに仕事を奪われるなら、代わりに私たちは、まったく新しいポジションをつくり出していけばいいのです。 

 たとえば、ニューヨークからオンラインで日本にいる人と雑談をし、その様子をYouTubeで流すなんてことも私の仕事になっているわけです。こんな仕事は30年前には誰もやっていませんでした。 

 YouTuberやTikTokerといった仕事は、今でこそ名前がつきましたが、ちょっと前までは存在していなかった。昔の人から見れば遊んでいるようなものでしょう。しかし、今は仕事として認められていて、子どもたちがなりたい職業の上位です。 

 この流れは別に今に始まったことではなく、昔からそうなので、これからの私たちも、新しいポジションをつくり出し、「今はまだ名前のない仕事」に就いていくようになっていくでしょう。 

 たとえば、猫が政治家になったら、猫の秘書を人間がやればいいのではないでしょうか。 

高橋弘樹編著『天才たちの未来予測図』(マガジンハウス新書)

    この記事はいかがでしたか?
    感想を一言!

この記事の著者
成田悠輔

イェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表。 専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。 1985年生まれ。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)後、マサチューセッツ工科大学(MIT)にて博士号を取得。 スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員などを兼歴任。 2022年7月に初の著書『22世紀の民主主義』(SB 新書)を刊行。 (写真:小田駿一)

このカテゴリーの最新記事

その他金融商品・関連サイト

ご注意

【ご注意】『みんかぶ』における「買い」「売り」の情報はあくまでも投稿者の個人的見解によるものであり、情報の真偽、株式の評価に関する正確性・信頼性等については一切保証されておりません。 また、東京証券取引所、名古屋証券取引所、China Investment Information Services、NASDAQ OMX、CME Group Inc.、東京商品取引所、堂島取引所、 S&P Global、S&P Dow Jones Indices、Hang Seng Indexes、bitFlyer 、NTTデータエービック、ICE Data Services等から情報の提供を受けています。 日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。 『みんかぶ』に掲載されている情報は、投資判断の参考として投資一般に関する情報提供を目的とするものであり、投資の勧誘を目的とするものではありません。 これらの情報には将来的な業績や出来事に関する予想が含まれていることがありますが、それらの記述はあくまで予想であり、その内容の正確性、信頼性等を保証するものではありません。 これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、投稿者及び情報提供者は一切の責任を負いません。 投資に関するすべての決定は、利用者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。 個別の投稿が金融商品取引法等に違反しているとご判断される場合には「証券取引等監視委員会への情報提供」から、同委員会へ情報の提供を行ってください。 また、『みんかぶ』において公開されている情報につきましては、営業に利用することはもちろん、第三者へ提供する目的で情報を転用、複製、販売、加工、再利用及び再配信することを固く禁じます。

みんなの売買予想、予想株価がわかる資産形成のための情報メディアです。株価・チャート・ニュース・株主優待・IPO情報等の企業情報に加えSNS機能も提供しています。『証券アナリストの予想』『株価診断』『個人投資家の売買予想』これらを総合的に算出した目標株価を掲載。SNS機能では『ブログ』や『掲示板』で個人投資家同士の意見交換や情報収集をしてみるのもオススメです!

関連リンク
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.