「どうする家康」松本潤があまりに”豆腐メンタル”すぎて違和感しかない理由…「肥満体の狸親父」がジャニーズでいいのか
おのれの弱さを克服していく家康の人生は、混迷の現代社会を生きるビジネスマンにとっても良い教材
「もう、いやじゃー!」
冒頭近くでアイドルグループ「嵐」の松本潤が主演する若き徳川家康がこう絶叫して始まる2023年のNHK大河ドラマ「どうする家康」の第1話が1月8日、放映された。
戦国時代、三河国(今の愛知県)の領主・松平家の跡継ぎとして生まれ、織田信長や豊臣秀吉などの英雄と渡り合いながら「どうする」「どうする」と迷い、「決断」を繰り返しながら、乱世を生き抜き、ついには天下を統一した苦難の生涯を、これから1年間にわたって描く。
ひるがえって現代を見ると、企業もいつ潰れるか分からない混迷の時代。ビジネスマンは長く勤めてもポストや給料が上がる保証はなく「転職すべきか」「同じ職場に踏みとどまるべきか」など大きな決断を迫られることが多い。その意味で、今回の大河ドラマを1年間通して追いかければ、何らかの人生の羅針盤を得られそうだ。
興味深いのは「ひとりの弱き少年が乱世を終わらせた奇跡と希望の物語」と番組のツイッターに書かれたドラマのコンセプトだ。「老獪(ろうかい)で強大なリーダー」というこれまでの家康の描かれ方とは異なり、ひ弱な青年が悩みながら次々と襲いかかる難局を乗り切りながら成長していくという視点は、これまでほとんどなかっただろう。
今の企業でも、ちょっとした叱責や注意でメンタルヘルスを病むビジネスマンは多い。そこまでいかなくても、すぐにへこんでしまう自分の弱さに悩む若いビジネスマンも多いだろう。そういうビジネスマンにとっても、「どうする家康」は、理不尽なことも多い人生をどう生き抜いていけばいいか考える上で一つのモデルになるのではないだろうか。
桶狭間の戦いで恐怖におののく家康「次はどうする?」
第1回放送では、駿河国(今の静岡県)の大大名・今川義元(演じるのは野村萬斎)の元で人質として過ごした少年時代、その「留守」を三河国で守り、今川家ににらまれないよう気を使い苦労しながら生きている家臣団との交流、義元の縁者である瀬名(有村架純)との恋愛や結婚などが描かれた。
今川家の武将として成長する家康だが、ラストで、庇護者であり尊敬もしていた義元が尾張国(今の愛知県)の織田信長(岡田准一)軍の奇襲で敗れ、命を落とす。桶狭間の合戦だ。
直前、織田軍に囲まれた味方の砦(とりで)に兵糧を苦労して運び込むことに成功していた家康とその軍だったが、義元が戦死したことで、尾張国内のあちこちに侵入していた今川軍は四散。家康軍は、敵の織田軍に囲まれた大高城に孤立してしまう。信長自身も大高城の方向へ進軍していることが分かり、恐怖におののく家康が「さて、次はどうする」というところで、第1話は終わる。
天才肌の信長、秀吉とは正反対…努力を重ねて地位を築いた家康
斬新だったのは、家康の「弱さ」がかなりデフォルメされて描かれている点だ。人形を使ってままごと遊びに興じたり、義元戦死の直後、どうすればいいか分からず大高城から一人すらったり……。
実際には、ここまでひどくはなかったはずだ。戦国大名は、何千人、何万人もの家臣が自分と家族の命を預けた人間だ。その命令の下、死地に飛び込んでいかなければならないことも多い。
ヤクザの世界と同じで「この人のためなら命を賭けられる」という男の魅力がなければ、ついていかなかっただろう。一人で戦線を離脱するリーダーなどあっという間に信頼を失い、部下によって命すら奪われてしまったに違いない。
ただ、のちに武田信玄に大敗して逃げ帰るとき、恐怖のあまり馬の上で脱糞するなど、信長や秀吉には見当たらない情けないエピソードが家康にはたくさんある。天才肌の信長、秀吉とは異なり、根は気が弱く、小心だったのは間違いないだろう。
家康を見習うべき点は、それでは家臣の人望を失うと考え、自らを作り上げる努力をしたことだ。家康は、剣術の「新陰流」、馬術の「大坪流」のほか、鉄砲、水泳など、さまざまな武芸とそれに絡む技を体得した。もともと運動神経は良かったのだろうが、忙しい軍務や政務の合間に会得するには、かなりの努力が必要だったはずだ。
いろいろな武芸を身に付けることは、一人の武士として、多くの家臣から尊敬の対象となる。敵と斬り合いになっても「負けない」という自信があるから、戦場での迫力は並々ならぬものがあったはずだ。
無類の「勉強好き」…トヨタ自動車・豊田章男社長と徳川家康の共通項
ここで思い出されるのが、家康と同じく愛知県から雄飛したトヨタ自動車の豊田章男社長だ。自動車業界の関係者によると「豊田社長は、ほかのメーカーも含め、発売されるすべての車のハンドルを自ら握り、試乗する」という。「モリゾウ」というレーサー名を持ち、耐久レースにドライバーとしても参加している。自動車メーカーのトップとして、車に果敢に取り組む姿は、社員の士気を高めることに役立っているのではないだろうか。
また、家康に関して言うと「勉強好き」でもあった。中国の書物などをよく読み、政治家としてどうあるべきかを学んでいた。のちに和漢の書物を大量に集めた図書館「紅葉山文庫」を江戸城内に造ったが、信長や秀吉には見られない一面だ。利発で聡明であったと考えられる。
運動神経があって頭が良く、壁にぶつかっても逃げずに、成長していく努力を惜しまない。若いころからそういう面があったからこそ、歴戦のつわものである古株の家臣団も家康を担ぎ上げ、主君としてついていく気になったのではないだろうか。
これは、とくに若いビジネスマンには一つの教訓になる。
志があってある仕事に就いたとしても、若いころは挫折の繰り返しだろう。未経験で未熟なためでもあるし、「気が弱い」など生来の気質によるものもある。だが、壁にぶち当たっても、すぐ逃げては逃げ癖が付くし、成長できない。家康のように、あがきながら、前を向き、自分を高める努力をすべきではないだろうか。
もちろん同じ会社にこだわる必要はない。なりたい「仕事人」の理想像があるなら、まずそれに向けて頑張ってみるべきだ。その熱量があればこそ、家康の家臣団のように盛り立ててくれる上司、先輩、同僚、後輩が出てくる。そんな自分の今後のありようと重ねながら「どうする家康」を見続けてもいい。
意外とハマった松本潤…既成の家康像をどう崩していくか
最後に、ドラマそのものへの印象に触れておきたい。驚いたのは、案外、主演の松本潤がミスキャストではないということだ。松本はジャニーズ系の〝国民的〟アイドルで、恋愛テレビドラマなども主演してきた超イケメンだ。
一方、家康は「狸おやじ」と呼ばれ、肖像画を見ると目が丸くて大きく、肥満体でイケメンとは言えない。以前、マツジュンが家康役をやると発表された時は、「イメージがかけ離れすぎ」と感じられた。しかし「どうする家康」を見ると、目がギョロリとして力強く、頬もいくぶんふっくらとしている。「若いころの家康はこんな顔だったのではないか」と思わせる風貌だ。
演技力もあり、家康の「強さ」「弱さ」「ユーモラスさ」をうまく表現できるのではないか。実際、今川家の人質になっているときの家康と家臣団の苦労は、悲壮感をもって描かれることが多いが、マツジュンのキャラクターによって雰囲気は明るく「きっと苦難を乗り切っていけるだろう」というエネルギーが感じられた。
100年以上続いた戦国時代を終わらせ、徳川幕府を開いて250年以上にわたる平和な江戸時代を築いた家康。これまで大河ドラマやほかのドラマ、映画で何度も取り上げられ、冒頭述べたように「戦上手」「老獪」といったイメージで描かれてきた。
慎重にふるまい、さまざまな苦難に耐えて最後に天下を取った家康を尊敬する経営者は多い。2009年ごろには、山岡荘八の小説「徳川家康」が中国の企業家やビジネスマンの間で大ブームとなった。この小説はもともと、1950年から67年まで日本国内の新聞に連載された作品で、今も全26巻の文庫が発売中。83年に放映されたNHK大河ドラマ「徳川家康」の原作でもある。
形づくられてきた家康のイメージを「どうする家康」が、いい意味でどう崩してくれるのか。期待したい。