「なぜ年収1000万は不幸なのか」「スカッとする記事は危ない」ネット注目のタワマン文学作家・外山薫インタビュー(窓際三等兵)
年収1000万円を超えても幸せを感じることができない東京砂漠に猛々しくそびえ立つ砂上のタワマン。そこで住む人々の嘆きを描いたタワマン文学はどこに向かうのか。この度、小説「息が詰まるようなこの場所で」(KADOKAWA)を出版するタワマン文学作家の外山薫氏は「タワマンは再現性の高い成功」と指摘する。外山氏はみんかぶで「TOKYO探訪」を連載中の窓際三等兵氏の別名義とされているが、その真相は……。(インタビュアー:窓際三等兵)
*本稿は窓際三等兵氏の【悪ふざけ】です。
みんかぶでしか読めない! 窓際三等兵の “霊言” インタビュー
――(窓際)外山さん、外山薫さん、準備はできたでしょうか。…スゥ……外山薫です。
外山薫(以下、外山) 初っ端から怒られそうな際どいネタはやめてください
――みんかぶだし、許してくれるかなって…。さて、今回、めでたくKADOKAWAから小説が出版される訳ですが、どんな汚い手を使ったのでしょうか。
外山 出版不況と呼ばれて久しい昨今、KADOKAWAのような大手出版社も例外なく苦戦しています。従来の売り方、本の作り方では限界がある中、Twitterのフォロワーが多いだけのネット芸人にも声をかけざるを得ないという、出版社側の悲しい事情に付け込みました。
個人的には正統派の小説を書いたつもりですが、ジャンルとしては、ひろゆきの児童書と同じようなものです。悪いのは出版社や編集者ではありません。出版文化の灯を消さないための、苦肉の策なんです。私のことは嫌いでも、KADOKAWAのことは嫌いにならないでください。
――最低ですね。今回、書き下ろし小説ということですが、なぜあえて文芸というレッドオーシャンに突入したんでしょうか。ネット芸人ならネット芸人らしく、いつもみたいにお手軽で下品で扇情的なエッセイもどきを書いてれば良かったじゃないですか。
外山 学生時代、作家になりたかったんですよ。といっても何か賞に投稿するとかではなく、自分は文章を書くのが上手だから、きっと凄いものが書けるはずだという根拠のない自信ですが。文章で飯を食うというのも現実的じゃないし、社会人になって働く中ですり減って消えた、自分でも忘れていたほど昔の夢です。
今回、KADOKAWAさんからお話を頂いた時、これだと。賞をとった訳でもない素人に、お釈迦さまが蜘蛛の糸を垂らしてきよったと。折角(せっかく)の機会だし、しゃぶり尽くしてやれと思いまして。
何者にもなれないまま歳を重ねた人間の、肥大化した自意識
――腹を切って死んだ上で、又吉イエスに地獄の業火に投げ込んでもらうべきですね。今回、「窓際三等兵」というある程度売れた名前ではなく、外山薫というペンネームを使った理由を教えて下さい。
外山 自分で言うのも何なんですけど、今回、結構頑張ったんですよ。日中は昼の仕事があるので、仕事終わってご飯食べて子供を寝かしつけて、寝るまでの1〜2時間を捻出して書いて。それをほぼ毎日、4カ月ほど続けまして。
そんな風に魂を削って書いた本に『窓際三等兵』なんて著者名を入れたくないなと。死ぬ時、窓際三等兵と書かれた本を棺に入れてほしい人間なんていますか? 大切にしていきたい、何者にもなれないまま歳を重ねた人間の肥大化した自意識と大人の思春期。
――KADOKAWA本社の前で土下座した方がよい。発売前の反応はどんな感じでしょうか?
外山 結構良い感じに予約は入ってます。麻布競馬場さんという、私と似たようなことをやっているついったらーが2022年に「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」という本を集英社から出して、それが結構ヒットしたんですね。結果的に二匹目のドジョウを狙う戦略になりましたが、滑り出しは結構良い感じです。
ありがたいことに、事前にゲラを読んだ書店員さんからも、結構ポジティブな感想を頂いています。Twitterで大量のタワマン文学を書き続けて、なんとなくどんなものがウケるのか、どんなものが刺さるのか、というのは肌で分かっているんですよね。あとは文章面の技術で、Twitterとは文調を変えて露悪的な表現は削っています。ぶっちゃけ、手にとってもらったら勝ちだなと、計算していた所はあります。
「あんたがやってること、いい加減飽きないのか」の指摘
――徹底して正規のルートを通っていない、汚い大人のゲリラ戦法だ。そもそも、タワマン文学ってなんでいつも馬鹿の一つ覚えで湾岸・タワマン・SAPIXなんですか? 正直飽きません?
外山 タワマンにこだわるのは、現代の日本において、それが成功の象徴だからです。勉強を頑張って、良い大学に入って、有名企業に入って年収1000万円を稼いで35年ローンでタワマンの3LDKを買う。これほど分かりやすく再現性が高い成功、ないですよ。これがベンチャー企業を立ち上げて成功したり、外資系金融機関に入ったりして広尾の低層マンションを買うとかだと、イメージ湧かないじゃないですか。
ただ「成功」ってあやふやなんですよね。タワマン買ってもそれがゴールじゃなくて、子供にも自分と同じような道を歩ませないといけない。高層階に住んでいる医者だって、自分のクリニックを継がせるために、子供の適性や希望を無視して医学部に入れないと駄目。中学受験なんて本当に向いている子は1〜2割しかいないだろうに、他に選択肢がないからSAPIXと中学受験という修羅の道に我が子を進ませる。悲劇であり喜劇なんですよ。正直、こちらも飽きていますが、まあウケなくなるまで擦り続けようかなと。
――エンタの神様に出ていた一発屋芸人かな? タワマン文学、そもそもどういう人が読んでるんですかね。
外山 「タワマン高層階で炊いた米は硬い」とか書いて喜んでいた初期の頃は、タワマンに住んでいる人を馬鹿にして溜飲を下げる、みたいな受け止められ方が多かった気がします。ただ最近は、ネタはネタとして消化した上で、文章そのものを楽しんだり嫌悪している人が多い気がしますね。
もともとTwitterでは文学を書いているつもりはないので「タワマン文学みたいな低俗なものは文学とは呼べない。あんな物を読んで喜んでいる人は可哀想だ」みたいなマジレスをしてくる多様性を見かけるとホッとしますね。もともと、Twitterでは万人に好かれるような文章を書かないように気をつけています。人の心のザラザラした部分を撫でるような文章の方が、届く範囲は狭くても刺さりますから。万人にウケる、読んだ後にスカッとして気持ち良くなるような文章って、危ないんですよ。
みんかぶでの連載は「下品な文章」…(みんかぶ編集部はショックを隠せません)
――偉そうなこと言ってるけど、泥棒が社会正義を説いてるみたいだな。さて、今回、小説家としてうまいことロンダリングした訳ですが、今後の目標は?
外山 今回、こうやってKADOKAWAさんのおかげでご縁とチャンスを頂いたので、とりあえず年に1冊くらいは真面目に小説を出したいですね。書きたいテーマも沢山ありますし。
普段、タワマン住民が階数や子供の偏差値にこだわっている様子を悪趣味に描いて笑っている人間が、ネット芸人ではなくちゃんと小説家として評価されたくて足掻(あが)いている所とか、文学的じゃないですか? 文学リアリティーショーとしても楽しんでいただければ。
個人的にはみんかぶで連載しているような下品な文章を書くのも割と好きなので、あっちはあっちで窓際三等兵名義で続けたいなと思います。
◆著者プロフィール
外山薫(とやまかおる)
1985年生まれ。慶応義塾大学卒業。