「タワマンはクソだ!」と住人にブチ切れるデリバリー配達員の言い分…「睨みながら伸びたツケメンを渡す」

 前回の記事 月40万稼ぐフード配達員「ライス落としたら炊飯器から補給」「さび抜き寿司にわさび塗る」裏技の是非 で、「ルールさえ守らなければ月に40万円など楽に稼ぐことができる」と倫理観に欠ける裏技の数々を自慢げに話したフード配達員のマモルさん41歳(仮名・男性)。今回はタワマンへの恨みつらみを打ち明けてくれた。

 健康な体と自転車(またはバイク)さえあれば、簡単に仕事を始めることができるフード配達員。緊急事態宣言などによる外出自粛でその需要が高まったこともあり、コロナ禍が原因で職を失った人々にとってはセーフティーネットのような存在にもなった。配達員の数は15万人にものぼるという。そんな配達員の多くはタワマンを忌み嫌うそうだ。マモルさんは、「タワマンはクソだ」と吐き捨てる。

フードデリバリー配達員たち(下々の人間)は、リッチマンたちのエレベーターに乗ることが許されない

「雨が降った日に配達をすればな、たしかに全身ずぶ濡れで悲惨なことになるけど、その報いとしてボーナスが入るからまだいい。最悪なのは配達先がタワマンだったときなんだよ。レジデンス、シティ、パーク、フォレスト、そういう字面が住所に入っているとピクっとなる」(40代フード配達員マモルさん、以下同)

 タワマンへ配達に行く場合、配達員たちはまずロビーの受付に立っているコンシェルジュに用件を伝え、入館時間と会社名と氏名を書くことになる。この時点ですでに2~3分が経過。一件あたりの時間をいかに短縮するかが収入に直結するので、配達員たちは時間にシビアにならざるをえないのだ。夏のある日、マモルさんが神宮前の億ションに台湾の家庭料理「魯肉飯(ルーローハン)」を届けに行ったときのことだ。

「コンシェルジュが案内したのは目の前にあるエレベーターじゃなく、ボイラー室の奥にある業者用エレベーターだった。俺たちみたいな下々の人間はリッチマンたちが乗るエレベーターは使っちゃいけないらしい。ファミリー層が多いエリアのタワマンで、リッチマンがペットの犬たちと同じエレベーターに乗ってるのを見たことがある。俺らは犬畜生以下か!」

 唯一の救いはコンシェルジュが「マモル様」と様付けしてくれることだ。また、タワマンに住んでいるだけあって配達員にチップをくれる余裕がある住人も多い。「安いアパートに住んでいるような人間とは違って教養があるよなぁ」とマモルさんは少し冷静さを取り戻したが、怒りは収まらなかった。

「俺は東と西がわからねえんだよ」と、フード配達員はスマホを床に叩きつけそうになった

 住んだことがある人ならわかるかもしれないが、タワマンというのは部屋ごとにエレベーターが分かれていることが往々にしてある。混雑や渋滞を避け、住人たちがより快適な日常生活を送れるようにするための配慮であるが、配達員たちにとっては時間のロスを生む要因となる。

「この苦労は配達員をやっている人じゃないとわからねえよ。ひとつの棟にエレベーターが15機もあって、それぞれ降りた先で廊下が繋がっていなかったらどうなると思う? 住んでいるヤツは毎日使っているからそりゃわかるだろうよ。でも初めて来たマンションでろくに案内もされなかったらぁ、『701号室・702号室専用のエレベーターに乗ってください』って言われても、そんなのわかるわけねえだろ?」

 多くのタワマンは部屋の前に行くまでにインターホンを2つ越える必要がある。しかし、マモルさんが家系のつけめんを届けに行った品川のとあるタワマンは、最上階のみインターホンを3つ越える必要があり、その先にある専用エレベーターに乗らないと最上階にたどり着くことができない構造になっていた。そんなイレギュラーな仕組みにもかかわらず、最上階に住んでいる住人は、2つ目のインターホンの時点で「あとひとつインターホンがありますよ」の一言がなかったのだという。

「地主だろ? どうせ地主の息子かなにかだろうよ。カネを稼ぐ苦労を知らないヤツは、他人の苦労を想像することもできねえんだよ。『あとひとつインターホンがある、最上階専用のエレベーターがある』って備考欄に書いとけよマジで。ノース館? サウス館? 俺は東と西がわからねえんだよ。レジデンスとかフォレストとか欧米コンプレックス抱えてるヤツに限ってそういう名前つけたがるからよ」

 一部、マモルさんの方向感覚に難がある点は否めないが、やっとの思いで最上階に着いたときには家系のつけめんはブヨブヨになっていた。

「部屋から出てきたのはそのへんにいる冴えないオッサンだよ。つけめんを渡すときに7秒間睨(にら)みつけてやった。こういうときに置き配指定になってると、はらわたが煮えくり返る。抵抗のひとつもできねえからな」

 配達後、マモルさんのアカウントには低評価がつき、スマホを地面に叩きつけそうになったという。その日のマモルさんは、ほかの配達はすべてそつなくこなした。「低評価をつけたのは間違いなく最上階に住むリッチマンだなぁ」と、いまだに根に持っているようだ。

タワマンの地下駐車場に閉じ込められて25分

 こういったエレベーターのトラップに引っかかると、マンションに到着してから部屋にメシを届けるまでに10分以上の時間を食う。当然そのぶんの手間賃が出るわけもなく、日にこなせる配達件数は減り、日給も目減りしていくことになる。だが、マモルさんがもっとも恐れるのは、この複雑な構造のエレベーターではなく、タワマンの地下駐車場だ。

 マモルさんが高菜明太マヨ牛丼(ミニ)を届けに行った二子玉川のタワマンは、複数棟が立つ地下にひとつの大きな駐車場が広がっていた。そのタワマンのエントランスは2階となっていたが、急いでいたのでそのことを忘れており、商品を届けた後、マモルさんは1階のボタンを押してしまった。扉が開くと目の前にあったのは広大な地下駐車場だった。

「地下駐車場からエレベーターに乗る場合はカードキーがないとダメなんだよ。車の出口に行けばいいと思うかもしれねえけど、そこだってカードキーがないと開かない可能性がある。マジで広いからな、そもそも出口までたどり着くのに何分かかるかわからねえだろ」

 マモルさんは次の配達もすでに受け付けてしまっていた。配達を受けておきながらキャンセルをした場合、ペナルティでしばらく配達依頼が止まってしまう。インターホンで客に地下駐車場まで来てもらおうにも、配達を完了すると住所などの情報は消去されるので頼むこともできない。インターホンで適当な部屋番号を押して「フードデリバリーの配達員なんですけどぉ、なんか地下駐車場に閉じ込められちゃってぇ、開けてもらえないですかねぇ?」とお願いする手もあるが、不審者として通報されるリスクもある。

 タワマンの地下駐車場に閉じ込められ詰んでしまったマモルさんは、エレベーターの前で待ち伏せし、上の階にあがりそうな住人を探した。ようやく見つけた住人は、買い物袋を手に提げた主婦だった。イライラで気が立っていたマモルさんは主婦に警戒されつつも、無事に2階のエントランスに脱出。かかった時間は25分だった。

 フード配達員の仕事だけで生計を立てるマモルさんにとって、この時間ロスは生活を脅かす大きな痛手となる。言うまでもなくすべてタワマンのせいだ。タワマンに住みながらフードデリバリーを注文する際は、配達員たちの苦労を理解したうえで、補足情報をしっかりと記載してもらいたい。

  次回は利用者たちの雑な住所登録の仕方にマモルさんが吠(ほ)える。(つづく)

この記事の著者
國友公司

1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。東南アジアでの「沈没生活」などを経て、7年間かけて大学を卒業し、フリーライターに。日本有数の日雇い労働者街での人々との交流を描いた著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)は社会派のルポルタージュとしては異例の累計7万部のヒットとなる。

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