定年後は宝塚に移住したい!2年間一切働かず「推し活」を夢見るシニア女性。いくらお金が必要になるのか…?

 好きなものを隠さずに思い切り愛でて楽しめる時代になり、「推し活」という言葉も聞かれるようになりました。それはシニア女性にも広がっています。今回、長年宝塚を推している58歳の佐山さん(仮称)の老後資産ケースをご紹介しましょう。なお、佐山さんのご相談はメール等のやりとりで行ったことを最初に記しておきます。

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目次

定年後に「宝塚三昧」の夢を叶えたい

 物価の上昇により節約を強いられている家計が多いものの、好きな俳優やアイドル、あるいはアニメや鉄道などを応援する「推し活」費用は関係ないと考えている方は多いようです。宝塚が大好きな佐山さんもそんな1人に数えることができるおひとりさま女性です。

 筆者の娘もアニメオタクであることから推し活の気持ちやお金のかけ方は理解しているつもりです。ただ、佐山さんは宝塚三昧のために兵庫県宝塚市に移住して推し活を満喫したいと考えられている筋金入りのファンでした。そんな佐山さんのリタイアメントプランを今回ご紹介しましょう。

 佐山さんは親の介護や孫の世話が始まる前に、「2年ほど兵庫県宝塚市に移住」し、宝塚三昧したいというリタイアメントプランの実現可能性ついて相談にきました。2024年9月に定年退職される予定なので、その後に移住にしたいと考えています。

 佐山さんは相談時は58歳。60歳の定年退職までに約760万円の貯蓄を積み増す予定です。現在保有する金融資産額は約2450万円、ここに2年間の貯蓄760万円がプラスされると3210万円になります。さらに60歳の定年退職時には約2000万円の退職金が支給される予定です。

2年間、今の住まいを離れ宝塚に移住することを希望

 佐山さんは大学卒業後に今の職場に就職しました。ですので、退職所得控除の範囲内に退職金が収まるため支給額=手取額となり2000万円がそのまま金融資産にプラスされることになります。60歳の定年退職までの2年間で貯めることができる貯蓄を加えた3210万円に退職金の2000万円を加えると、佐山さんが定年退職時点で保有する金融資産額は5210万円になります。

 宝塚での移住先については、ご相談時には「住みたいシェアハウスがある」と言っていました。そこは家賃・生活費込みで、月間支出は11万円程度に抑えられるとのことです。

 推し活である宝塚三昧を楽しむための費用ははっきりと決めていませんでしたが、期間限定ではあるものの移住してまで推し活を楽しもうと佐山さんは考えているのですから、その費用を年間で200万円として試算しました。生活費は毎月11万円、年間では132万円、宝塚三昧の費用を200万円としたので、1年間で使用する金額は332万円になります。

 2年間では662万円になります。

仕事は一切しない。推しのためだけに時間を使いたい

 移住後の2年間は佐山さんに勤労収入はないとしていたので、662万円は保有する金融資産額から取り崩すことになります。60歳時点の金融資産5210万円から662万円を取り崩すと4548万円が残ります。移住に際しては佐山さんシェアハウス暮らしなので大々的な引っ越しはないと思われますが、一応150万円の予備費も考えておきました。残りの金融資産額4548万円から予備費150万円を差し引くと4398万円が残ることになります。

 2年間の宝塚三昧が終了すると再び今の住まいに戻ることになります。戻った時点では62歳ですが、佐山さんには特別支給の厚生年金の支給が月約13万円あるので勤労収入は得ないとして試算を続けました。公的年金は年間では156万円になりますが、手取額は130万円として試算しました。

問題は「夢の2年間」を終えたあと

 次に支出です。現在働いている佐山さんの支出は現在月に約36万円、年間では432万円でした。このうち月12万円、年間144万円が小遣い・交際費・習い事などです。この項目の中から佐山さんの宝塚の費用が充当されています。62歳以降は働かないことにしたので、先の小遣い・交際費・習い事などの費用は2年間の宝塚三昧で楽しまれたことから半減の月6万円に減額することにしました。現役時代の生活費は月36万円、ここから小遣い・交際費・習い事などの費用月12万円を差し引くと月24万円になります。

 62歳以降は勤労収入を得ないため生活費は約2割減額して月20万円とします。生活費は月20万円、小遣い・交際費・習い事などの費用は月6万円ですから、62歳以降の月間の支出は26万円、年間では312万円になります。公的年金を満額受け取ることができる65歳までの3年間の収支は手取収入130万円、支出が312万円なので年間では182万円の赤字になります。

 3年間では546万円になり、手持ちの金融資産から取り崩されることになります。佐山さん62歳時点の金融資産額は4398万円、ここから3年間の赤字額546万円を差し引くと3852万円になり、これが65歳時点の金融資産額になります。

75歳から「支出を減らす」作戦を取るべき

 佐山さんが65歳になると公的年金額は満額支給になり月約20万円、年間240万円になります。手取額を年間は200万円とする一方、年間の生活費は年間312万円で変えません。手取収入200万円、年間支出は312万円になることから年間の赤字額は112万円になります。65歳時点での金融資産額は3852万円ですから、年間112万円ずつ取り崩していくと34年強でなくなる計算です。

 100歳弱で金融資産額は底を尽くことになるため、概ね人生100年時代に対応することができるでしょう。ただ、この試算では勤労収入を得ない、言い換えれば宝塚三昧になる60歳で佐山さんは完全リタイアする形になっています。ここで支出を75歳から減額することにしてみましょう。支出を約10%減額して年間280万円にすれば、手取収入は年200万円、年間支出は280万円になるので年間赤字額は80万円に減額となります。

生活費をコントロールできれば安心して推し活が可能

 65歳から毎年112万円の取り崩しがあるので、75歳までの10年間では10年間で1120万円が金融資産額から取り崩されることになります。佐山さんが65歳時点で保有する金融資産額は3852万円から10年間の赤字額である1120万円を取り崩すと75歳時点の金融資産額は2732万円になります。

 75歳以降は生活費を約10%減額したことから赤字額は年80万円です。75歳時点で保有する2732万円から毎年80万円を取り崩して行くと約34年。109歳強まで金融資産は持つことになるため、佐山さんもかなり安心が得られるでしょう。

 試算は佐山さんが60歳で定年退職後は勤労収入を得ない形で行いました。相談時には「私は資格があり、定年後も働き口はありそうなので、移住を延期して65歳頃まで働くことも視野に入れています」と述べていました。ですので、仮に60歳以降も働けば収支は試算と大幅に異なる点はご承知おきくださいとお伝えしました。

 ただ、勤労収入を得ない簡易な試算でも佐山さんが生活費を上手にコントロールすれば、老後の生活を過度に心配する必要はないと思われます。健康に留意して無理しない程度に推し活を頑張って欲しい、と述べておいたことも記憶しています。

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この記事の著者
深野康彦

ファイナンシャルプランナー。ファイナンシャルリサーチ代表。1962年生まれ。クレジット会社を経て独立系FP会社に入社、96年に独立。30年以上の実績を持つ日本のFPの草分けの一人。さまざまなメディアやセミナーを通じて家計管理の重要性や投資のあり方を発信するとともに相談業務も行っている。

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