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「命」とは何か。「わたし」とは何か…心が震える。その唯一無二、全身全霊の滑り、ふたたび。羽生結弦『Echoes of Life』

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

歴史を創り上げる一員として『Echoes of Life』を綴る旅に出る

〈「命」とは何か。「わたし」とは何か〉

 羽生結弦にとっては、まさしく〈東日本大震災を経て〉なのだろう。

 時代を、歴史を刻んだ栄光と苦悩の日々もまた、そうなのだろう。

 もちろん経験しているから、していないからという短絡的な話ではなく、そうした生と死=「命」という存在を広く伝える、それをフィギュアスケートで、という命題こそ『Echoes of Life』(以下『echoesoflife』)と、私は端緒に理解する。

〈「私たち」にしかできないこと〉

 この「私たち」は当然、羽生結弦と共にある人々もそうだ。

〈創り上げていくチームと、公演を観てくださる皆さんと一緒なら〉

 私たちも羽生結弦と共に、再び羽生結弦という歴史を創り上げる一員として『echoesoflife』を綴る旅に出る。こんなにうれしいことはない。

羽生結弦の高志を、矜持を見て、そういう自分こそが恥ずかしいと思った

 あらためて「広島」に戻る。

 今回のツアーの「命」の象徴的な場所と思う。この場合「ヒロシマ」としようか。同じ読みでも「ヒロシマ」には強いメッセージ性が込められる。

 私語りで申し訳ないが、私は被爆二世なので羽生結弦がこうして、いまや被爆者のほとんど生存していない、それでもこの国に確かにあった命のことにも心を寄せてくれていることもまた、うれしい。

 私が「被爆二世」と明かしたことは被爆者である原爆孤児の父が死んでからのことである。「被爆二世を自己アピールに使っている」「二世だから何なんだ」という世間の声が怖い、実際に被爆二世、三世の有名人も、そういう声が怖かった。

 正直に言う、祖父も祖母も叔父もみな死んで私の父だけが残った中、そうした身でそこまで言われるなら言うこともないか――とくに若い頃は自分ごととして向き合わずにいた。

 しかしそうした声に負けなかった羽生結弦の高志を、矜持を見て、そういう自分が恥ずかしいと思った。

羽生結弦は自身の矜持を曲げたりはしなかった

 羽生結弦と共にある人々の中にもそうした「羽生結弦という存在に教えてもらった」「羽生結弦という存在と出会って変わった」があると思う。もちろん、別になくなって構わない。かっこいい、凄い、尊敬できる、それだけでもまったく問題ない。

 しかし羽生結弦を通して自分の中の何かが変わるという、カール・ヤスパースが言うところの「超越」(いずれも能力の度合いを指す「超越」でなく、哲学で言うところの「超越」)を経験した人はきっといることだろうと思う。私もそれだ。

 被害者やその家族がその被害を語ることは大切だが、現実はとても難しい。

 以前から「被爆二世」を公言して活動している歌手の福山雅治もそうした違和感にあったと語っている。いまだにそれを揶揄する人も多い。

 羽生結弦もまた自身が東日本大震災の被災者であることを公言し、その祈りと希望のために活動することに悩んだことを幾度となく告白している。それに対する心ない言葉もまた、彼を苦悩させた。いまもそうか。

 それでも、羽生結弦は自身の矜持を曲げたりはしなかった。それも10代のころから。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、昭和史における人物評伝およびフィギュアスケートなどの舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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