中学受験で渋幕・渋渋の帰国子女枠ほぼ独占!する謎の塾「KA」の実態…親4名にインタビューしてわかった“真の強み”

中学受験には、一般にはあまり知られていない「超勝ち組ルート」が存在する。それが、帰国子女専門塾である「KIKOKUSHIJO ACADEMY(帰国子女アカデミー)」(通称KA)に入塾するルートである。
実はこのルートを通る受験生たちこそが、中学受験で帰国子女枠を導入している名門校の合格をほぼ独占しているというのだ。教育投資ジャーナリストの戦記氏が、卒業生の親4名へのインタビューとともに、KAの“本当の強み”を分析する。なぜこんなにもKAは強いのかーー。みんかぶプレミアム特集「一発逆転の中学受験」第3回。
目次
中学受験で名門校の帰国子女枠をほぼ独占する謎の塾
教育投資ジャーナリストの戦記(@SenkiWork)と申します。
2025年中学受験シーズンが幕を開けようとしています。一般受験の前、すなわち2024年11月から帰国子女枠受験が開始しておりますが、今年も「KIKOKUSHIJO ACADEMY(帰国子女アカデミー)」(以下KA)という帰国子女枠特化の中学受験塾の生徒たちが主要校の合格実績をほぼ独占することが予想されています。
まずは、2024年帰国子女枠中学受験において、いかにKAが一強であったのか、ファクトとしての数字を確認したいと思います。
学校名:KA合格者数/総合格者数(占有比率)
(五十音順)
・市川中学校:41名/51名(80%)
・海城中学校(B方式):13名/16名(81%)
・渋谷教育学園渋谷中学校:23名/24名(95%)
・渋谷教育学園幕張中学校:32名/34名(94%)
・洗足学園中学校(A&B方式):64名/86名(74%)
・広尾学園中学校(12月):49名/53名(92%)
・広尾学園中学校(2月):21名/22名(95%)
・広尾学園小石川中学校(11月・12月):83名/99名(83%)
・広尾学園小石川中学校(2月):21名/21名(100%)
上記の通り、帰国子女枠受験の最難関とされる渋幕渋渋で約95%、海外大学入試に強みを持つ広尾学園(特に「インターナショナルコースアドバンストグループ」(通称AG)が有名)においても約90%を占有していることから、ほぼ独占状態にあるといっても過言では無いと思います。
なぜ、KAがこのような特異なポジションを構築することができたのか。2024年現在、首都圏にAll English環境の10教室を展開し、一学年でざっくり600名程度(正確な統計は無いが、帰国生が8割程度、それ以外が2割程度と推計)、全学年合計で約3000名が在籍するKAを深堀りしてみたいと思います。
KAの書籍である『帰国子女 帰国する前に親子で読む本』の内容…KAは渋幕・渋渋の影響下にある
KAは積極的に情報公開をしている会社ではありません。
一般向けに出版された書籍として唯一存在するのが、『帰国子女 帰国する前に親子で読む本』(チャールズ・カヌーセン著、南雲堂、2018年1月31日発売)です。これは、KAの創立者及びCEOであるチャールズ・カヌーセン氏が、自らの渋谷教育学園渋谷(渋渋)や中央大学高等学校での英語指導、及びそこでの反省を踏まえてKAを創立した道筋が語られています。
241ページある書籍ですが、KAの宣伝的要素を極力排除し、帰国子女の英語教育方針について経験豊富な事例が記載されています。P.107にある「学校生活 1.いじめについて」は、日本の学校システムに順応できない帰国子女生の苦悩が語られており、読んでいて胸が痛くなりました。同書は発売されてから6年が経過してますが、2024年現在の視点で考えても通用する良質な内容ですので、帰国子女の英語教育や早期英語に関心がある方は、是非手に取って頂きたいと思います。
尚、表紙をめくると登場する謝辞に、「帰国子女教育の先駆者で素晴らしい教育者でもある田村哲夫先生にも心からの感謝を捧げます。田村先生は私をはじめ多くの人たちに、志を高く持つきっかけを与えて下さいました」とある通り、KAの源流は渋幕・渋渋の立役者である田村哲夫氏にあることが分かります。
KAを、「渋渋の英語教育手法を帰国子女小学生向けにアレンジして発展した塾」と捉える大局観を持つことが、KAを理解する上で重要な鍵になると考えます。
一般公開情報から分かるKAの財務体質
さて、まずはKAの運営会社の基礎的な情報を見てみましょう。KAのウェブページに記載があるのですが、KAの運営会社は「KA INTERNATIONAL株式会社」です。歴史的には、2004年10月に合名会社として発足し、2006年5月に株式会社化しています。つまり今年2024年は、KAの設立20周年目にあたります。本社は東京都目黒区中根。
特筆すべきは、現時点の資本金がわずか300万円ということだと思います。つまり、設立当初からおそらく増資されることなく成長し、現在の規模に成長した優良企業なのです。尚、増資有無については同社の商業登記簿謄本を取得すれば確認できますが、そこまでの調査はしていません。
売上規模はどうなのでしょうか。KAは売上情報を公表はしていませんが、過去にネット上で求人情報を出していたことがあり、その付属情報として売上高を開示しています。私による調査によれば、以下の通りです。
(売上高)
・2015年12月期:4億7000万円
・2016年12月期:5億8000万円
・2018年7月期:6億3000万円(※決算期変更をした模様)
・2019年7月期:9億415万円
・2020年7月期:11億3551万円
・2021年7月期:15億2495万円
残念ながら2021年までしか情報がありませんでしたが、素晴らしい成長を遂げています。このペースで成長を継続しているとすると、直近の2024年7月期の売上高は18億円前後と推測可能です。
それでは、利益水準はどうなのでしょうか。株式会社を調査する際には、官報データベースを調べるという方法があります。官報にて決算公告をしている可能性があり、損益計算書(P/L)の開示は無くても、貸借対照表(B/S)の開示があり、その中の利益剰余金の増減を見ることで当期純利益を把握することが可能なことがあります。
実際に、「KA INTERNATIONAL株式会社 官報」で検索してみると、令和2年(2020年)5月28日付で、同社による「KAIS INTERNATIONAL株式会社」の合併公告が見つかりました。両社の代表取締役が同じであることから、同一株主(おそらく代表取締役)の兄弟会社を吸収合併したと考えるのが自然です。
この公告で判明することは、KAは令和元年(2019年)年7月期において当期純利益1億2611万円を計上していることが分かります。つまり、売上高と照合させると、
・2019年7月期:売上高 9億415万円、当期純利益1億2611万円
となります。つまり、売上高純利益率は13.9%。2019年7月期にたまたま利益が上振れしたとしても、塾のビジネスモデル的に大きく変わるものではないでしょうから、最低でも10%の利益率を確保していると考えられます。ちなみに、上場会社である株式会社早稲田アカデミーの2024年3月期の売上高純利益率は6.4%(=純利益2,132百万円/売上高32,867百万円)ですが、早稲田アカデミーは人件費(1,339百万円)とほぼ同額の広告宣伝費(1,298百万円)を投資していますので、この影響を除去すると10%に近づきます。よって、積極的に広告宣伝費に投資する必要が無いKAの純利益率が10%を超えている、という仮説は正しいように思います。
2024年現在で約3000名が在籍していることから、2019年当時は2000~2500名が在籍していたと推測するのが自然です。当時、仮に2000名が在籍していたとするならば、一人当たりの売上高は45.2万円/年(=3.7万円/月)、当期純利益は6.3万円/年となります。2024年現在の月謝は学年により異なりますが、「月謝3万9270円+年会費2万2000円」を基本と考えると、ざっくり約50万円/年が小6以外の標準と考えると、おおむね計算が合います。実際には小6の塾代は100万円/年近くに到達するものと思われますが。
貸借対照表に目を向けると、2019年7月期は資産合計1,217百万円に対して、固定資産1,052百万円でした。固定資産が占める割合が大きいことに気が付きます。展開している教室数を考えると、自己所有物件であることは金額的にあり得ないことから、教室は賃貸契約に基づくものであることが分かります。また、固定資産の大半は、敷金や教室の造作、そして各種什器と考えるのが自然です。固定負債が624百万円と予想外に大きいのですが、銀行から長期借入にて融資を受けて、敷金や造作をファイナンスしていると考えるべきでしょう。
インターネット上の公開情報では、KAは第13期(令和元年7月31日現在)以降の決算公告は見当たりませんが、その後も帰国子女受験の盟主として君臨し続けていることから、売上高と当期純利益は更に成長している可能性が高いと考えるのが自然です。
第13期においては利益剰余金が391百万円と当期純利益126百万円の約3年分しかありませんので、積極的に株主に対して配当を行っている可能性があります。上記の通り、2024年7月期の売上高は20億円と考えるのが自然ですから、売上高純利益率が10%と仮定して、配当原資となる当期純利益は2億円。資本金が300万円であることから、株主は少数の個人オーナーと考えられますが、非上場企業としては極めて順調な経営成績です。
上記が一般公開情報から推測できることですが、20年に亘って成長を続けてきた極めて良質な経営が行われていると考えるのが素直な見方だと思います。