ああ、どうすればよいのだろう。野村萬斎だ。もう、空気が明らかに変わった…『羽生結弦notte stellata2025』紀行(2)

目次
羽生結弦によく似合う風
みんなでドライバーの方にお礼を言って、シャトルバスを降りる。
風が強い。
晴れているのに、寒い。
利府、宮城県総合運動公園、セキスイハイムスーパーアリーナ。
この風だ。
これが東北の風だ。
どうだろう、青空と冷たい風。ああ「冷たい」という言葉はなんだか嫌だ。こういうときは、そう、凛とした風と言おう。凛然、いや凛凛の風、かな。とにかく東北のこの風は「凛」だ。羽生結弦によく似合う風だ。彼を育てた東北の「凛」の風だ。
あの日、遺体安置所には涙しかなかった
ちなみに凛凛は「勇気凛凛」としても使われる。冷たい風に立ち向かうことだ。これもまた羽生結弦だ。
『notte stellata』(以下、notte)も今年で3年目、もうみなさん慣れたもので寒さをしのぐ場所もよく知っている。東北の地元物産展の方々も張り切って地元のPRをしている。
みんな笑顔であふれている。そうか、14年か。あの日、遺体安置所には涙しかなかった。遺体の特徴が書かれた張り紙を見つめる人と泣き崩れる人ばかりであった。
セキスイハイムスーパーアリーナも無傷ではなかった。宮城県『教育施設等の被害状況と復旧』によれば、
〈総合体育館(セキスイハイムスーパーアリーナ)では天井材の落下、壁の破損、サービスヤード柱脚の破損、電動ブラインドの破損等〉※604頁
とある。確かにあった。「あの日」はあった。
羽生結弦の「僕を利用してください」
こうして訪れるだけでもあの日を想うことが叶う。そのきっかけとしての『notte stellata』――羽生結弦の「僕を利用してください」は3.11の話ではないがすべての被災者、いや厳しい状況にある世界中の人々へのメッセージだろう。
会場に入ると早くも熱気に包まれていた。静寂という熱気、これは決して相反するものではない。むしろ熱気とは静寂にこそある。人々の心の中にある。それが会場にあふれる。「いま」「ここ」という場(アウラ)の一体感を生む。すでに会場は一体だ。
BTSなど数々の曲が流れる中、私はいつもSuperflyの『Beautiful』に胸を打たれる。世界で一つの輝く光になれ、という言葉の力。「世界で一番の」でないのがいい。