中学受験と小学受験、どっちが地獄なのか…タワマン文学作家・窓際三等兵「名門小の高校実績、中央値はMARCH未満」

首都圏では「中学受験をするか、それとも小学校受験をするか」で頭を悩ませる家庭も少なくない。小学校受験事情にも詳しいタワマン文学作家の窓際三等兵氏に結局どちらが正解なのか、当事者たちのルポも交えて論じていただいたーー。みんかぶプレミアム特集「天才の育て方」第一回。
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「こんな遅くまで勉強する必要、あるんですかね。子どもが夜に寝られないなんて、異常ですよ」
「こんな時間に小学生を一人で出歩かせて、一体、何を考えているんですか!」
東京都目黒区に住む40代女性の携帯に電話がかかってきたのは、昨年の暮れのことだった。中学受験のための塾に通っていた12歳の息子が帰宅途中、警察官に補導されたというのだ。慌てて時計を見ると、時計の針は10時を超えていた。息子が通っていた学習塾は体育会系の気質で知られ、手厚いサポートで知られる。授業の終了時刻は午後9時だったが、受験前の追い込み時期でもあり、先生への質問のために遅くまで残っていたのだ。
もちろん、普段であれば迎えに行く時間帯だったという。しかし、その日は夫が残業で家におらず、そして間が悪いことに小学校2年生の妹が風邪を引いて目を離せない状態だったため、息子を一人で帰らせたという事情があった。警察官からの電話を受け、慌ててタクシーで迎えに行った母親だったが、そこでかけられた言葉が忘れられないという。
「こんな遅くまで勉強する必要、あるんですかね。子どもが夜に寝られないなんて、異常ですよ」
警察官に悪気はなかったのだろう。しかし、この言葉は女性をひどく傷つけた。9時まで塾で勉強することも、遅いときは帰宅が10時になることも、風呂に入って復習をして就寝時間が11時を過ぎることも、受験生としては当たり前だと思っていた。クラスメイトの大多数が中学受験するという環境でもあり、違和感を覚えることはなかった。しかし、それが世間では「異常」と指摘される行為だと知り、平常心を保てなくなったという。
その後、息子は努力の甲斐あって受験本番で東大合格者ランキング上位に入る名門中学校に合格した。今は晴れて4月の入学を待つ身だが、身長は小6男子の平均身長145センチを大きく下回っており、目下の最大の関心事になりつつあるという。
9時間以上の睡眠時間を取っている中学受験生はわずか5%
四当五落――。睡眠時間を4時間に抑えれば合格し、5時間寝ると落ちるという、昭和時代に大学受験界隈で流行った造語だ。科学的な知見が普及した現代では記憶の定着には適度な睡眠が必要だということが知られるようになり、こうした無茶な手法が推奨されることはない。
しかし、こと中学受験の世界においてはこうした常識は通用しない。中学受験の情報ポータルサイト「かしこい塾の使い方」が2022年10月に小学4〜6年生の受験生の親向けに実施したアンケート調査によると、1日の平均睡眠時間は「7〜8時間」が最多の43%で、「8〜9時間」が34%で続いた。ちなみに、睡眠を専門とする米睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)は2016年、「6〜12歳の子どもが最適な健康を維持するために、1日9️〜12時間の睡眠を取る必要がある」という声明を発表している。前述のアンケート調査では、9時間以上の睡眠を取っていると回答したのは、わずかに5%だった。回答者数が91人とサンプルが少ないため参考程度でしかないが、中学受験をさせている多くの親にとって、耳の痛い話だろう。
1月に入ると受験対策のため6年生の大半が小学校を休むようになるという光景も東京では珍しくない
なぜ、育ち盛りの小学生が睡眠時間を削ってまで勉強に取り組むのか。それは、より難しい問題を出そうとする学校側と、その攻略法を受験生に共有する塾のイタチごっこが続いているからだ。20年以上前に開成や灘で出されていたような難問が、いまや「中学受験をするなら解けて当たり前」というレベルになっていることは受験界隈では常識だ。
難関校に合格するためにはより広い知識と、より深い思考力が求められるようになった。難問に挑むために、夜寝る時間を1時間後ろにし、朝起きる時間を1時間早くするといった努力が欠かせなくなる。港区や文京区の小学校では、1月に入ると受験対策のため6年生の大半が学校を休むようになるという光景も珍しくない。