何度でも語りたいAIPS「今世紀最高のアスリート」選出の快挙…羽生結弦、そしてモハメド・アリとその時代(2)

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アリも羽生結弦も「ファイター」
2024年、国際スポーツプレス協会(以下・AIPS)の選ぶ今世紀最高の男性・女性アスリート20人の中に選ばれた、羽生結弦。
羽生結弦は現在進行系で「世代を超え、人々に数え切れないほどのインスピレーションを与え続け、夢を追い続ける動機を人々に与え続けている」というモハメド・アリに対する称賛そのままの存在にある。
モハメド・アリ。
そうだ、アリだ。
アリはあまりに大きな伝説。すでに神話と化している。
それでも、羽生結弦が選ばれた中に、アリがいる。
もちろん羽生結弦とアリは違う。むしろ真逆のようにも見える。
しかし、私はそう思わない。
アリも羽生結弦も「ファイター」だから。
羽生結弦という闘争者の魂とその熱量は多くの羽生結弦と共にある人の知るところだろう。穏やかで礼儀正しく、心優しい彼は闘争本能をたぎらせたファイターでもある。それも自分自身と命を懸けた闘いを続ける、一切の妥協なきファイターである。
そして社会に対する、人に対する慈しみの姿勢もアリと羽生結弦、それぞれのかたちで妥協なく尽くした、これもまたファイターだった。
最も激しい論争を呼んだスーパースター
アリと親しかったニューヨーク・タイムズのスポーツライター、ロバート・リップサイトはアリの死をこう述べている。アリという存在とその価値をわかりやすくまとめているので少し長いが引く。 ※1
〈アリは、かつてスポーツ界に存在した人物のなかでも、最も激しい論争を呼んだスーパースターであった〉
〈ベトナム戦争での徴兵を拒否したこと、公民権運動の只中にあって人種統合を否定したこと、キリスト教からイスラーム教へ改宗したこと、「奴隷名」のカシアス・クレイからネイション・オヴ・イスラーム(彼が入会した黒人分離主義のセクト)が授けたものへ改名したこと、これらは、保守的エスタブリッシュメントからは深刻な脅威だと、そして、そのリベラルな対抗勢力からは叛逆的精神を示す高潔な行為だと考えられた〉
〈彼は、この50 年間、この地球に存在する最も目立った人物のひとりであり続けた〉
〈だが、その晩年、アリは、俗世に生きる聖人のような何者か、軟焦点で浮かび上がる伝説になっていった。リングから追い出されたあとには、ボクサーとして最良の時期の3 年余の時間、反戦という正義のために数百万ドルにのぼる私財を犠牲に供したとして、尊敬されるようになった。不治の病に直面しながらも、人目を気にしようともせず勇敢に振る舞っているとして絶賛された。公の場で示す妥協を知らない優しさが敬愛を集めるようになったのである〉
奴隷としての名
モハメド・アリの生まれた時代、アメリカの黒人に現代のようなまともな人権はなかった。 ※2