ルポライター・國友公司「大阪・西成の暮らしは何も変わってない」 インバウンド客が増えても変わらない街の本質…闇市で売られている超人気商品

國友公司氏はルポライター・編集者として活躍する一方、自ら現場に飛び込み、その生々しい体験を本にまとめてきたことで知られる。代表作『ルポ西成』は7万部を超えるベストセラーとなった。街の暮らしに溶け込み、その内側から社会の課題を浮き彫りにする國友氏の視点とは——。
西成、歌舞伎町、そして現在取材を進める横浜・寿町。日本社会の「影」の部分を丁寧に取材し続ける國友氏に、その現場で見てきたものを聞いた。短期連載全3回の第1回。
目次
大阪・西成の変化…インバウンド観光客が増えている
——國友さんが有名になったきっかけの『ルポ西成』、今はどれくらい売れているんですか?
今は紙で7万部ぐらいですね。電子はちょっとよくわかってないんですけど。10万部ぐらいは行きたいですけどね。
——取材していたときと今で西成に変化はありましたか。
僕は2018年に実際に3ヶ月ほど住んでいたんですけど、今とだいぶ変わっていますね。今はインバウンドの客やYouTuberの影響で観光客がいっぱい入ってきています。現地の人からすると迷惑なんじゃないかと思うかもしれませんが、実際に西成の人たちと話すと、むしろ喜んでいる様子です。経済も回っているし、違う人が入ってきて交流ができて楽しいと言っています。
——外国人観光客が西成に来る目的は?
インバウンドの人は西成を観光するというよりも、西成に泊まってUSJなど他の場所に行くという感じです。外国人を受け入れているドヤ(簡易宿泊所)がいくつかあって、そちらに客を切っているところもあります。一方、日本人の方は西成に観光に来るという感じですね。
西成でもコンプライアンスが問われる時代に…現地住人「綺麗なところで生きられないから西成に来たのに」
——西成で暮らす人たちの拠点「飯場(はんば)」とは何ですか?
飯場は肉体労働者の人たちが集まって生活をして、寝泊まりし、堺や建設現場に行くための場所です。会社の寮みたいなものですね。もともとは行き場のない人が入ることが多かったので、家賃が払えない、初期費用が払えない、家がないといった人がとりあえずその日に入って、そこで生活していくということが多いです。
——身分証明書などは必要なんですか?
今はだいぶ厳しくなりましたよ。僕がいた頃と比べても。当時は身分証明書などなくても、誰でもOKという感じでした。名前も適当に書いておけばいいみたいな。だから「佐藤さん」が一番多かったですね(笑)。
——そういった面でも西成が変わってきているということですか?
そうですね。今も西成には通っていますが、昔働いた人と会うと「コンプライアンスも厳しくなってきている」と言います。パワハラやモラハラに対する意識も変わってきています。昔は命を落とす人もいましたし、事故にあって死んでも「なかったこと」にされることもあったようですが、今はそういったことも少なくなっています。
それは労働者にとっていいことなのかなと思う一方で、あまりにもクリーンさを求めすぎると、せっかくの逃げ場を求めてきた人たちにとっては息苦しい環境になってしまうという側面もありますね。
——そうした変化を具体的に感じるところはありますか?
「あいりん総合センター」という元ハローワークだった大きな建物があるんですけど、そこは労働者の拠点でした。2019年頃に閉鎖してからはずっとホームレスが占拠していたんですが、この前ついに解体が始まるということでホームレスの荷物が強制撤去され、綺麗な建物に変わろうとしています。今は仮に高架下に移転していますが、どんどん変わっていくと思います。
そこの労働者の方とも話したんですが、「自分たちは綺麗なところでは生きられないからここに来ていたのに、これからどうなるんだろう」「建物だって勝手に崩壊するまで待てばいいじゃないか、それが西成じゃないか」と言っていましたね。
西成のヤバい場所「闇市」の実態…一番人気の商材は
——西成のヤバい場所「闇市」についても教えてください。
闇市というのは違法に道路で勝手に物を売っている場所です。日本の物も売っていたり、ガラクタを売っていたりします。勝手に路上で物を売るのは違法なんですが、それをやっているところがあります。
売っているのは処方せん薬が多いですね。生活保護の人たちが物を売っていたりするんですが、彼らは医療費がタダなので、薬局で仕入れるだけ仕入れて、それを安価に流すわけです。
——それを買うのはどういう人なんですか?