中国人はなぜ「豊洲」を選ぶのか……タワマンに住む中国人“2つのパターン”

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 日本に移住する中国人富裕層が増えている。その実態を丁寧に追い、つまびらかにしたのが中国・東南アジア専門ジャーナリストの舛友雄大氏だ。なぜ中国人富裕層は日本を選ぶのか、また「タワマン」や「豊洲」に人気が集まる理由について、舛友氏が描く。全3回中の第1回。

※本稿は舛友雄大著「潤日(ルンリィー) 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う」(東洋経済新報社)から抜粋、再構成したものです。

第2回:中国人が「100億の物件を購入」「エリアの不動産所有率50%」…いま日本の不動産に何が起きているのか

第3回:日本の受験に中国人が参戦……「SAPIXの4分の1が中国人」の光景も

目次

5年間で5割以上の伸びも…都心に集まる中国人

 東京湾を囲むより広い湾岸エリア全体のタワマンで中国を脱出してきた富裕層の存在感が増している。

「そうしたニューリッチが多いエリアは東京・江東区の有明、豊洲、中央区の晴海、品川区の品川、港区の芝浦、港南などです」

 自身も有明のタワマンに住む中国人不動産コンサルタントは、中国人が多く住むタワマンがあるエリアを名指しする。

 東京都のデータで都内23区の在留中国人の数をチェックすると、トップは有明・豊洲がある江東区だ。2018年から2023年の5年間で、東京区部の中国人数は14.8%増だったが、江東区は17.9%増と伸び率も高い。タワマンが多い中央区、品川区、港区もそろって20%以上の伸びを示す。

 一時期「西川口チャイナタウン」が話題となった埼玉県川口市の中国人数は、2023年時点で2万2355人。5年前と比べて14.8%増で、東京区部と同程度の伸びだ。突出した勢いは感じられない。

 対照的に文京区、中央区、千代田区などは5割以上の伸びを示しており、東京では特に都心部で中国人の増加ぶりが鮮明だ。

タワマンを選ぶ中国人、2つの属性

 中国人に特に注目されているのが江東区の豊洲エリア。東京に土地勘がない人でも、築地魚市場の移転先と言えばわかるかもしれない。なかでも、特に人気のあるのが「ブランズタワー豊洲」だ。ブランズタワー豊洲は地下1階地上48階、総戸数1152戸。2021年にできたばかりで、豊洲駅から歩いて4分と好立地。敷地内の外周は木々が生い茂り、心地いい空間を形成している。屋内は重厚な作りで、廊下などは高級ホテルと見紛うほどの意匠をこらしている。

 4階のコモンスペースも立派だ。巨大なエントランスホールが広がり、壁には大理石や御影石が使われている。ビリヤード台のあるレクリエーションルームや、仕事や作業ができるコワーキングルーム、さらには、フィットネスルームにパーティールームと至れり尽くせりだ。

 ブランズタワー豊洲に住む中国人男性住民によると、ここを選ぶ中国人は主に2種類に分けられる。第1に、カップルの両方が日本または外資の大手企業で働いているパターン。

 そして、第2が自分で会社を経営しているパターンだ。この男性自身も都内で中国人向けの大学進学塾を経営している。中国人住民の主な年齢層は30代後半から40代前半だそうだ。そのほとんどがここ数年で日本にやってきた「新移民」である。その中にはすでに永住権を取った人もいる。

 前出の中国人不動産コンサルタントは、「パークタワー晴海もブランズタワー豊洲に匹敵するほどの人気を集めており、児童室やキッズルームといった施設が充実しているのが子育て世代に注目されています」と話す。

 日本のディズニーランドの運営主体であるオリエンタルランドがデザインを手がけていることも大きいようだ。そのほかに中国人に人気のタワマンとして、勝どきのザ・東京タワーズ、2つのスパを備えた晴海のドゥ・トゥールを名指しする。

 湾岸のあるタワマンに住む30代の中国人女性は、その物件に住む同胞のみで構成されるWeChatのチャットグループのメンバー数から逆算して、「少なくともうちのマンションの住民の15%は中国人です」と推測する。

 さらにこの不動産コンサルタントは、「物件によっては住民の2割以上が中国人でしょう」と話す。

北京の街並みを思い出させる豊洲

 そもそも、中国人ニューリッチはなぜこの一帯を選ぶのか。

 最大の要因はコスパのよさだ。日本人不動産業者は、「タワマンがまとまって建っているエリアはほかにも港区の港南や芝浦などがありますが、同じグレードで安く住めるのが豊洲」と解説する。

 周辺には、商業施設の「ららぽーと豊洲」がある以外にも、イオンがあるなど日用品の買い物も少しずつ便利になってきている。

 豊洲周辺のタワマンには、東京タワー、東京スカイツリー、レインボーブリッジなど「東京の顔」を眺望できる部屋もある。これは中国人からすると間違いなくプラス材料だろう。

 夫・子供と一緒にブランズタワー豊洲に住む30代の中国人女性は、「夫が不動産の仕事をやっていて、ここは値が上がると思った。都心から近くて生活にも便利。小学校も道を挟んですぐだから子供の教育環境もいい」と、2022年3月に引っ越してきた理由を話す。「中国人は広いところが好きだし、新しい環境が好きです」とも。

 豊洲地区のタワマンは格別に目の前が開けているのが特徴で、これは確かに都心部では珍しい。中国版Instagramの小紅書に投稿された不動産仲介会社の投稿動画で、紹介者の女性は、「開放感が格別です。外の景色が本当に素晴らしい。ちょっと見て、豊洲の景色が一望できますよ!」 と、興奮気味にブランズタワー豊洲を紹介している。

 港区のタワマンと比べ、この周辺には建物が密集していないので、窓の外の景色が開けているのだ。また、都内の他のエリアに比べて豊洲は道が格段に広い。北京の街並みを思い出させるほどだ。小紅書とは、中国の若年層に人気のSNSプラットフォームで、写真や動画、テキストなどを投稿することができる。またECサイトとしての側面も強く、インフルエンサーによるプロモーションも盛んだ。

 中国の大都市では高層マンションに住むことが一般的なので、日本でもタワマンに住みたがる新移民がいることは自然なことではある。

「受験の4大塾」も大きなポイント

 中国人は新築を好む傾向が強い。ブランズタワー豊洲は中国人富裕層の海外脱出が本格化してきた2021年後半に竣工したというタイミングも、人気の理由かもしれない。ブランズタワー豊洲に住む別の30代中国人女性は、北京でもタワマンに住んだことがあり、ここはコモンスペースが充実していることや警備が行き届いているところが気に入ったと説明する。

「北京と比べるとコスパがいいです。北京で同じ地理的条件で同クラスのマンションを買うには1平米10万元(約200万円)は必要です」

 ブランズタワー豊洲の売り出し価格が1平米が約120万円程度とされるので、単純計算で4割ほど安くなる計算だ。

 さらに付け足すと、目と鼻の先にある銀座は中国で知らない人がいないほど有名な街だ。「銀座の近くに住んでいる」というだけで鼻高々なのは容易に想像できる。最寄り駅は地下鉄有楽町線と新交通ゆりかもめの豊洲駅。

「交通は少し不便ですね。でも、私も夫もコロナ後はずっとリモートだし、銀座駅や東京駅にタクシーですぐ行けるので、今のところOKって感じです」と前出の女性住民。

 ただ、豊洲周辺にクリニックが少ないのは困っていると話す。

 豊洲では日中、自転車で子供を連れたママが行き来している。週末になると、付近にあるベイフロントの公園は子供連れでごった返す。都心近くでこれほど多くの子供を見ることはまずないと感じるほどだ。

「受験の4大塾(SAPIX、日能研、四谷大塚、早稲田アカデミー)の教室が、全部このエリアには揃っています」

 前出の中国人男性が解説してくれた。教育を格別に重視する中国新移民にとってはもってこいである。

 こうしてみると中国人ニューリッチが豊洲エリアを中心とする湾岸のタワマンを選ぶのは必然に思える。そして、それは日中の都市生活者のライフスタイルが驚くほどに似通ってきたことの結果とも言えるのだ。

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この記事の著者
舛友雄大

中国・東南アジア専門ジャーナリスト 1985年福岡県生まれ。カリフォルニア大学国際関係修士。2010年中国の経済メディアに入社後、日本を中心に国際報道を担当。2014年から2016年までシンガポール国立大学で研究員。2022年よりNHKラジオのニュース番組「マイあさ!」でアジア情勢の解説を担当。2023年にはポッドキャスト番組「Asia Frontline」を始動。寄稿媒体は、東洋経済オンライン、西日本新聞、NewsPicks、Nikkei Asia、The Japan Times、South China Morning Post、The Straits Times、The Jakarta Post、Kompas、Tempoなど。アジアの現在を、日本語、英語、中国語、インドネシア語の4カ国語で発信中。

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