中国人が「100億の物件を購入」「エリアの不動産所有率50%」いま日本の不動産に何が起きているのか

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 中国・東南アジア専門ジャーナリストの舛友雄大氏によると、いま中国で「さまざまな理由からより良い暮らしを求めて中国を脱出する人々」を指す「潤」という言葉が流行っているという。「潤」により日本へやってきた中国人富裕層の“不動産爆買い”事情を、舛友氏が明らかにする。全3回中の第2回。

※本稿は舛友雄大著「潤日(ルンリィー) 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う」(東洋経済新報社)から抜粋、再構成したものです。

第1回:中国人はなぜ「豊洲」を選ぶのか……タワマンに住む中国人“2つのパターン”

第3回:日本の受験に中国人が参戦……「SAPIXの4分の1が中国人」の光景も

目次

中国人による不動産爆買いはまだ続く

 中国人による不動産爆買い現象を見てみよう。

 中国人顧客向けの不動産会社フューチャーリーディングで売買を担当する聞楷澧営業一部長は、2011年から業界に身を置くベテランだ。やはり、2022年の上海ロックダウン期にアプリや微博を通じて問い合わせが急増したと語る。主には、上海在住者からだった。もともと同市には、お金持ちも多いという理由もあるだろうと推測する。

「すでにコロナ禍は終わったという感じですけど、これからまだどんどん入ってくると思いますよ」

 住居用というよりは投資目的の割合のほうが高いとみる。

「今は円安の効果がありますから、バーゲンみたいな感覚がありますね」

 日本の不動産業界だと都心3区(千代田区、中央区、港区)とか5区(3区と新宿区、渋谷区)という言い方が定着しているが、中国では文京区を加えた6区が特に注目されているのだという。

 聞氏の感覚では、顧客は自分のビジネスを中国でしている人も多く、日本に実際に住んでいるのは4分の1ほどで、残りは中国に住みながら不動産に投資しているそうだ。

 日中でビジネスを展開するある日本人男性は、「部屋の大部分が売却済みのある都内のマンションが、夜になると真っ暗になると、ひと昔前は噂されていた」と言っていたが、そういう遠隔投資的な側面は今でも根強いと考えたほうが良さそうだ。

 その瞬間ハッとした。私が住む新宿区のワンルームのマンションは、中国でしばしばそうであるように、家具付きだった。そして、ハンガーには「Shangyue」といういかにも中国風のブランド名が刻まれていた。それどころか、家主の所在地も中国浙江省となっていた。私も知らず知らずのうちに「潤」に巻き込まれていたのだ。

「100億円の物件」が中国人に売れた

 聞氏はさらに続ける。

「投資目的で買うので一番多いのがタワマンです。区分として買いやすいとか、場所と眺めがいいからですね。もうちょっと金額が大きくなるとマンションやレジデンスを丸ごと買う人もいます。10戸とか20戸とかのちっちゃいやつですけど。そういうのを買うと民泊の登録ができて、経営・管理ビザの(投資)内容として使えますから」

 都内で働く、匿名を希望する別の中国人不動産業者も、住居目的で買う中国人は少ないと証言する。投資目的だと、やはり10〜20戸のマンションを3億〜5億円で買うパターンが多いという。中国では、土地に所有権はなく、70年の使用権を買えるのみ。その点日本では、土地にも100%所有権がある。家賃収入に期待するより、物件自体の価格上昇をメインで狙う。家賃収入にはほとんど税金がかからないのも魅力的に映っているのだという。ただ、利回りは低下している。マンション丸ごと投資というパターンだと、コロナ前は5〜6%ほどあった利回りが3〜4%にまで下がったという。

 湾岸エリアのタワマンが人気となっている背景について、聞氏はさらに解説してくれた。

「海景房(海が見える家)っていう言葉があるんです。風水では海はお金が入ってくるという意味があるんです。水は財になるという意味です」

 聞氏が売った一番高い物件は銀座の100億円のビジネスホテルだという。またマンション系だと、港区南青山の低層レジデンスで9億円の物件を売った。マンション丸ごと系だと同僚が渋谷区の物件を30億円で売ったと話す。

 感覚としては、平均を取ると、この会社の営業担当が1人毎月1億円くらいの物件を売っているほどの売上げになる。さらに都内には中国系不動産会社が500軒くらいあるのではと推定する。いったいどれだけの中国人不動産マネーが動いているのかと気が遠くなるほどだ。

 中国経済に詳しい日本国際問題研究所の津上俊哉客員研究員は現状をこう分析する。

「小金持ちなら、房子 (家)を見に行くというのがかなり出てきていて、でもちょっと旅行に来ただけじゃ申し込みができないので、中国人から買ったり、あとはこっちに住んで網を張って、物件が無茶苦茶値上がりするというようなことが起きているんでしょう。マンションの一室だけでなく、一軒家を改装して民泊風のホテルにするとか。物件を持っていて、普段は何回も日本に行かないから、友人に泊まりなよっていうようなところとか」

 局地的に、新築物件などでは中国人購買力による価格上昇が起きているという見方だ。

 確かに、条件の良いエリアで新築となると、倍率が激しくなっているという話はあちこちで聞く。オリンピック村にできた晴海フラッグの最上階の多くの部屋が中国人バイヤーによって買われたとの週刊誌報道があったのも記憶に新しい。一方、多くの中国人不動産コンサルタントは、中国人「爆買い」の不動産価格上昇への寄与度は大きくないと強調する。

中国人の爆買いは大阪にも

 中国人によるタワマン席巻は、日本第二の都市圏にも波及しつつある。

 値ごろ感や人々の親切さを理由に大阪を選ぶ人も少なくないのだ。マカオの不動産コンサルタント会社、アナザー・ワールドのセールス・ディレクター、シオ・イン・ング氏は、家賃の安い大阪でのシンプルな生活を好む人もいると語る。

「投資家は、大阪で計画されているカジノや万博に注目しています。チャイナタウンを作るという話もありますし」

 このチャイナタウンとは西成中華街構想のことで、典型的な一世代前の新華僑である林伝竜氏が2019年に提唱した。日雇い労働者の街、あいりん地区東側に位置するアーケード街に活気を取り戻すのが目的だったが、現地社会では唐突な計画に戸惑いの声も上がった。ご本人に話を聞きに行くと、福建訛りの中国語で、「チャイナタウンじゃなくてもいい。発展するなら何タウンでもいい」との言葉があった。

 結局、構想は頓挫し、2023年12月に商店街から少し離れたところに三国志の英雄・関羽を祀まつる「関帝廟」が建立されたのみ。林氏によると、アーケード街の一部エリアでは中国人による不動産所有率が50%を超えており、近年周辺では土地価格の上昇が続いているという。もとよりこのエリアは超高層ビル「あべのハルカス」から1キロもないほどの好立地なのだ。

「大阪なら誰でも買える」タワマン事情

 大阪における最新の動向を把握するために、大阪で行政書士事務所を営む澤嘉氏に話を聞いた。

—―最近、大阪に移ってくる中国人の人たちはどういうところに住んでいますか?

「半分以上はタワマンですね」

 やっぱり……。

「大阪だったら、(大阪市)中央区とか北区とかにタワマンが多くあります。新しいタワマンも建ってきています。先週お客さんと一緒に見に行きました。70平米ぐらいの部屋で、1億5000万円とかで、すぐにみんな現金で一気に買います。東京のタワマンはもっと高いですね。誰でも買えるわけじゃないし、抽選とかエントリーしないといけない。大阪ならまだ誰でも買えます」

 申し込みが目立つのが、シティタワー大阪本町だという。最寄駅の大阪メトロ本町駅は、南北の中心である梅田駅となんば駅から地下鉄でそれぞれたったの4分と3分という好立地で、まさに大阪のど真ん中に位置する。地上48階建てで、総戸数は855戸。

 47階にはスカイラウンジが、2階にはラウンジやフィットネスルームが備えられており、さらにはホテルのようなゲストルームやコンシェルジュサービスがあるなど、とにかく豪華の限り。2019年から段階的に販売が始まっている。やはりここでも新築タワマンが人気なのだ。

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この記事の著者
舛友雄大

中国・東南アジア専門ジャーナリスト 1985年福岡県生まれ。カリフォルニア大学国際関係修士。2010年中国の経済メディアに入社後、日本を中心に国際報道を担当。2014年から2016年までシンガポール国立大学で研究員。2022年よりNHKラジオのニュース番組「マイあさ!」でアジア情勢の解説を担当。2023年にはポッドキャスト番組「Asia Frontline」を始動。寄稿媒体は、東洋経済オンライン、西日本新聞、NewsPicks、Nikkei Asia、The Japan Times、South China Morning Post、The Straits Times、The Jakarta Post、Kompas、Tempoなど。アジアの現在を、日本語、英語、中国語、インドネシア語の4カ国語で発信中。

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