東大卒の親はやっぱり高学歴……東大卒業生調査が明らかにした「高学歴再生産」の実態

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「東大生は、その親も(やはり)高学歴」。東京大学大学院博士課程の近藤千洋氏は、両親がいずれも大卒ではない中で東大に入学した「大学第一世代」に焦点を当てた調査によって、その事実をつまびらかにした。東大生の“親”の学歴やその属性とはどのようなものなのか。近藤氏が解説する。全3回中の2回目。

※本稿は本田由紀編『「東大卒」の研究——データからみる学歴エリート』(ちくま新書)から抜粋、再構成しています。

第1回:「親と不仲&友達が少ない人が多い」地方女性、「専業主婦の母親&教育熱心な家庭が多い」東京女性――東大女性の中にも大きな差

第3回:「東大を出ればバラ色の未来」ではない……“東大の満足度”に差をもたらすジェンダーと職業

目次

「四大卒の親」が増えている

 まず、そもそも東大に大学第一世代はどのくらいいて、どんな生まれや育ちを有する人々なのかを確認します。

 図表2-1は両親がどちらも四年制大学を出ていない学生を「大学第一世代」、片方または両方の親が四年制大学を出ている学生を「親大卒」と見なした上で、それぞれの比率の世代ごとの推移を示したものです。

 一見してわかる通り、第一世代比率は世代を追って低くなる傾向にあり、最も若い1991年以降生まれでは、わずか13%しか占めていません。この減少傾向が現在まで続くなら、現役東大生に占める第一世代の比率は10%を割り込む可能性が高いでしょう。

 読者の中には、「親世代の大学進学率が上昇しているのだから「第一世代」が減るのは当たり前ではないか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、日本で四年制大学進学率が50 %を超えたのは2009年のことです。1991年以降生まれの東大生の親世代(1961年~70年生まれ)が18歳を迎えた1980年代に至っても、依然25%程度に過ぎませんでした(当時は現在より男女差が大きく、男性で約35%、女性で約13%でした)。

 要するに、この図表中で最も若い世代でも、日本全体では親が四年制大学を出ている方が少数派、第一世代の方が多数派だったのです。それなのに、東大生に第一世代が13%しかいない状況は相当に偏っていると言えます。

 参考までに、2020年に全国の大学の現役大学生約1000人を対象として実施された調査では、両親非大卒すなわち大学第一世代の比率は、国立下位大学では約52%、私立下位大学では約41%、国立上位大学では約35%、私立上位大学では約29%でした。このように、上位大学になるほど第一世代は少なくなる傾向にありますが、とりわけ「国立最上位大学」である東大の第一世代の少なさには目を見張るものがあります。

東大生の親もやっぱり高学歴

 東大生の親の出身校も気になるところです。彼らもやはりエリート大学出身者が多いのでしょうか。

 図表2-1には、一人以上の親の出身校が旧帝国大学(東京大学・京都大学・北海道大学・東北大学・名古屋大学・大阪大学・九州大学)と一橋大学・東京工業大学・神戸大学の銘柄国立大学、早稲田大学・慶應義塾大学の銘柄私立大学、医学部医学科、海外大学のいずれかに該当するケースを、「親銘柄大卒」として計上しました。

 驚くべきことに、東大生の親はこれらの銘柄大学出身者が42%、なかでも東大出身者が15%近く(!)を占めています。「高学歴再生産」の一端が窺える衝撃的な結果です。

 このように、「親も大卒の東大生」は親もエリート大学出身である場合が多く、「第一世代の東大生」との生まれや育ちのギャップは非常に大きそうです。

 ところで、一国全体では第一世代の方が多くてもエリート大学には第一世代が極端に少ない傾向は、米国も同じです。米国の代表的なエリート大学の第一世代比率は、プリンストン大学では約17%、イエール大学では約18%、ハーバード大学では約20%、スタンフォード大学では約21%となっています。

 これらの大学は、大学自らが第一世代比率を集計・公表していることからもわかる通り、学内の多様性(Diversity)や公正性(Equity)を推進する上で、ジェンダー、出身地、障害、人種等と併せて大学第一世代の比率を重視し、第一世代に関する啓発事業や支援プログラムに力を入れています。

図表2-2 ハーバード大学の“First―GenVisibility Week”(=大学第一世代可視化週間)
出典:ハーバード大学ホームページ「Celebrating National First-Generation College Celebration Day at Harvard」(https://college.harvard.edu/student-life/student-stories/celebrating-nationalfirst-generation-college-celebration-day-harvard[2024年10 月18日取得])
註)画像は筆者が一部加工を加えた。

 こうした米国のエリート大学より、実は東大の方が第一世代は少ないというショッキングな事実。にもかかわらず、私たちの「東大卒業生調査」以前にはこの事実がきちんと調査されてきませんでした。そのせいで、東大がD&Iを声高に唱え始めた現在に至ってもなお、学生の親学歴の偏りについては、ほとんど問題視されることがないままなのです。

 もちろん同世代の半数を占める女性が東大に約20%しかいないことも偏っていますが、同世代の多数派を占めるはずの第一世代は東大に約10%しかいないのですから、東大生の親学歴の偏りもまた、著しいものだと言わねばなりません。

親が「非大卒」の東大生は地方・共学出身が多い

 次に、大学第一世代にはどんなジェンダー(女性/男性)、出身地(東京圏の一都三県/その他の地方)、出身高校の種別(共学/別学)および設置者(公立/国立/私立)の人が多いかについて、クロス集計を行いました。

 ジェンダーについては、全世代をまとめて集計すると、第一世代は男性に多く女性に少ない傾向がありました。具体的には、男性で28%、女性で14%が第一世代です。教育社会学者の河野銀子による地方国立大学教育学部生を対象とした調査でも、第一世代は男性に多く女性に少ない傾向が検出されており、今回の結果と符合します。

 ただし、今回の調査では、世代ごとに集計した場合には、最も若い世代(1991年以降生まれ)で男女差がなくなっていました。つまり、かつては非大卒家庭出身の女性が東大に到達するための障壁は同じく非大卒家庭出身の男性よりも高かったものの、最近ではそうしたジェンダー差はなくなっていると言えます。

 出身地については、第一世代は東京圏(一都三県)よりもその他の地方出身の場合が多い傾向が、全世代を通じて確認されました。具体的には、東京圏出身者で17%、地方出身者で32%が第一世代です。

 出身高校の種別については、世代ごとに異なる傾向が見られました。年長世代(1970年以前生まれと1971~80年生まれ)では男女共学出身者と別学(男子校・女子校)出身者との間で第一世代の比率に差がなかった一方、若年世代(1981~90年生まれと年以降生まれ)では第一世代は男女共学出身者が多く別学出身者が少ない結果が見られました。

 現在、東大合格者数ランキングの上位を占める別学(男子校・女子校)の超進学校には中学入試のみの完全中高一貫校が多いのに対して、同ランキングに登場する男女共学の進学校のほとんどが高校入試を実施する高校であることを踏まえれば、近年ただでさえ減少傾向にある第一世代の東大生は、中学受験組より高校受験組が相対的に多いのではないかとも推察できます。

 教育社会学者の井上義和は、京都大学年生を対象に行った調査結果から、難易度の高い大学では、私立中高一貫校に中学から入っていたグループほど両親の学歴が高いこと、反対に公立高校出身のグループや私立中高一貫校に高校から編入したグループほど両親の歴が低いことを指摘していました。つまり、第一世代の京大生には中学受験組より高校受験組の方が相対的に多かったということです。第一世代の東大生にも同様の傾向がありそうです。

 他方、東大(卒業)生を対象とした今回の調査では、出身高校の設置者(公立/国立/私立)と親学歴の間には、全世代を通じて関連は見出されませんでした。

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この記事の著者
近藤千洋

1996年香川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士後期課程。JST次世代研究者挑戦的プログラム・東京大学「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成(SPRING GX)」プロジェクト生。

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