「かなりのグレーゾーン案件」なぜ、広末涼子は逮捕されたか「常軌を逸した異常行動や錯乱状態の衝撃」弁護士の怒り

俳優の広末涼子氏が逮捕されたのは4月8日の未明。新東名高速で大型トレーナーに追突後、搬送先の静岡県掛川市の病院で看護師に暴行を働いたとする傷害容疑だった。16日には警察署から釈放されたが、その後都内の病院に入院し、双極性感情障害と甲状腺機能亢進症と診断されたという。この事件を巡ってはウェブメディアなどで広末氏の不起訴の可能性について言及している。一体何が起きているのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
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現在も自宅療養を続け、芸能活動は当面休止する方針
俳優の広末涼子容疑者(44)が傷害容疑で逮捕された一件は、今なお波紋を広げ続けている。2025年4月8日未明、静岡県島田市内の病院で、搬送先の女性看護師に暴行を加えたとして現行犯逮捕されたが、その直前には新東名高速道路で大型トレーラーに追突する重大事故を起こしていた。事故当時の異常行動や錯乱状態が報じられる中、警察は薬物使用の可能性を念頭に捜査を開始し、4月10日には危険運転致傷の疑いで広末容疑者の東京都内の自宅に家宅捜索が入った。
逮捕の背景には、事故直後の異常言動があるとされる。浜松市のサービスエリアで通行人に「広末でーす」と声をかけるなど不可解な行動を取った後、掛川市の粟ヶ岳トンネルでトレーラーに追突。車両はその前後に左右両側の壁にも数度衝突しており、最終的に計5回の衝突を繰り返したという。ブレーキ痕がなかったとの指摘もあり、広末容疑者の運転行動が常軌を逸していたことがうかがえる。
搬送先の病院では、精神的に錯乱した広末容疑者が看護師に足蹴りし、腕をひっかくなどの暴行を加えたと報じられている。事件後、警察は飲酒の影響を否定した上で、薬物の使用を疑い尿検査を求めたが、広末容疑者はこれを拒否。錯乱状態が続いたため、警察は一時的に保護室へ移送した(週刊文春・4月23日報道)。その後、任意提出に応じさせるのではなく、捜査上の必要性から逮捕・勾留に踏み切った背景には、薬物犯罪摘発における確実な証拠収集の意図があったとみられている。
だが、尿や血液の本鑑定では違法薬物は検出されなかった。捜査関係者の一部は、当初から精神疾患の影響を疑っていたとされる。実際、4月16日に広末容疑者は釈放され、その後入院した。
重い法定刑の適用が検討された点には疑問も
そして5月2日、個人事務所が公表したところによると、広末容疑者は「双極性感情障害」と「甲状腺機能亢進症」と診断されていた。現在も自宅療養を続け、芸能活動は当面休止する方針だ。
今回の事件における罪状の整理をすると、第一に逮捕容疑である「傷害罪」(刑法204条)は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性がある。第二に、事故に関して警察が視野に入れているのは「危険運転致傷罪」(自動車運転処罰法第2・3条)であり、薬物や精神疾患の影響下にあったかどうかが立件の成否を左右する。トレーラー運転手に怪我はなく、同乗者と広末容疑者の怪我も軽傷であるにもかかわらず、重い法定刑の適用が検討された点には疑問も呈されている。
所属事務所「R.H」は、事故後に公式サイト上で「本人が運転する車による交通事故を起こし、一時的にパニック状態に陥った結果、医療関係者の方に怪我を負わせてしまいました」と説明し、「病気による責任回避の意図は一切ない」とも明言している。
事件発生前、広末容疑者はライブ活動の再開や主演映画の撮影など芸能活動を再構築しつつあったが、元夫との離婚、個人事務所の設立、育児との両立といった重圧も重なっていた。前事務所「フラーム」時代から精神的な不安定さを危惧する声が周囲には存在しており、実際に過去には「精神科の受診を促されていた」との報道もある。そうした背景を踏まえると、今回の事件は「異常行動」単独では評価できず、心身の限界に近い状態が引き起こした複合的事態として捉える必要がある。
警察サイドに立てば逮捕・勾留の必要性は十分にあったといえるが
この事件の捜査方法、特に逮捕・勾留の妥当性について、地元の蒲田地区の刑事案件なども手掛ける城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士は、次のとおり疑問を投げかける。
「事故前後の広末さん(被疑者)の言動をふまえ、警察が飲酒運転のみならず薬物使用を疑っていたのは間違いないと思われます。特に大麻・覚せい剤といった薬物は、暴力団を中心とした組織犯罪にも関連する可能性が高い重大犯罪で、一番確実な証拠は尿検査によって得られることが多く、アルコールの呼気検査と違って被疑者側が任意提出に猛抵抗する可能性が高い以上、警察サイドに立てば逮捕・勾留の必要性は十分にあったといえます」
「かなりグレーゾーン案件」弁護士が指摘する疑問
「しかしながら、被疑者サイドから見た捜査方法の妥当性の問題、『傷害事件を口実にした別件逮捕・勾留、そして家宅捜索だったのでは』といった疑問は残ったままです。かつてのような露骨な別件逮捕・勾留は捜査実務で減ったとはいえ、今回の件はかなりのグレーゾーン案件であり、注目度の高い有名人であったことを考慮し警察が厳格に対応した、場合によっては薬物犯罪摘発で警察組織としての成果をアピールしようとしていた、と考察している業界関係者は相当数いるはずです」
「法律のルールでは、本来、傷害事件で逮捕や勾留をするかどうかは、本人に逃げるおそれや証拠を隠すおそれがあるかどうかで判断しなければなりません。日本国憲法の第14条には『法の下の平等』が定められており、人種や性別だけでなく、『社会的な立場』などを理由にして不公平な扱いをすることも禁じられています。つまり、たとえ有名人であっても、特別に厳しく対応することは、本来あってはならないのです」
捜査は極めて異例な展開を見せた
事件発覚から逮捕・釈放、そして診断に至る一連の流れを振り返ると、広末涼子容疑者に対する捜査は極めて異例な展開を見せた。薬物使用の可能性を捜査当初から重視し、家宅捜索や勾留を実施したが、結果として違法薬物の検出には至らなかった。代わりに明らかになったのは、「双極性感情障害」という診断と、精神的混乱が長年にわたって蓄積していたと見られる背景である。
逮捕当初、警察は広末容疑者の異常言動や逃走の可能性を理由に勾留を請求したが、4月16日に早期釈放へと方針転換されたのは、看護師との示談が成立したことも大きかった。報道によれば、示談金は一般的な水準を超える金額が支払われ、勾留請求を取り下げる形となった。
退所後の個人事務所設立、シェフ・鳥羽周作氏との交際、3人の子どもを抱える母親としての責任、そして精神的な不調――そうした複数の負荷が重なり、今回の事件に至ったとすれば、「刑事責任」とは異なる次元での配慮が必要となるだろう。事実、本人および周囲も「これまで不調を『体調不良』としか捉えられなかったことへの反省」を表明しており、芸能活動の再開についても現時点では未定とされている。
現代的な「法の不均衡」ではないだろうか
このような状況下で、警察が捜査を継続するにあたり重要なのは、「罪を裁く」という視点だけでなく、精神疾患を抱える被疑者に対して、どのような手続きが適正なのか、という観点での検証である。仮に、捜査の主目的が当初から薬物犯罪の立証にあり、傷害事件がその手段にすぎなかったのであれば、適法性・比例性の観点から批判を免れ得ない。
著名人が引き起こした突発的な事件は、社会的注目を集めやすく、そのぶん捜査機関が「過剰対応」へと傾斜することもある。法の下の平等を掲げる日本国憲法第14条は、社会的地位や職業にかかわらず、誰もが同一の手続きと権利を保障されるべきであることを明確にしている。今回のように、被疑者が女優であり社会的影響力を持つからこそ、逆に過剰な監視や捜査の正当化が行われる構造があったとすれば、それこそが現代的な「法の不均衡」ではないだろうか。