彼女がお笑い芸人と浮気をしていたので1対1の相席居酒屋へ行ってみると、保険会社勤めの女性(38)と意気投合した私は後日…

恋愛をテーマに執筆を続ける作家・山下素童氏が、1対1の相席居酒屋へ足を踏み入れた。「誰も相手にしてくれないよね! こんな糞ババァッ!」と自分を卑下する38歳の女性サナに山下氏は「今日会ったなかで、一番好きです!」と咄嗟に答えていた――。みんかぶプレミアム特集「最強モテ術大全」第2回。
目次
この前までいた彼女がお笑い芸人と浮気していた
年を取ると出会いが少なくなる。なんて言ったりするけれど、実際にはそんなことはない。出会いを供給してくれるところなんて、世の中にはいくらでもあるのだ。そんなことを、相席居酒屋というところに行ってみて思った。
独り身でフラフラしている僕のことを心配してくれてか、先日、『THE SINGLE』という1対1の相席居酒屋を友人が教えてきた。相席居酒屋と言えば、友達と行って男女2対2のような形で飲む場所というイメージがあったが、ホームページを見てみると、『THE SINGLE』は1対1の相席を提供しているのが売りのようだった。
僕は1対1がとにかく好きだ。反対に、多人数で喋らなければならない飲み会やキャバクラが苦手だ。というのも、僕がひどく劣等感を抱きやすい人間だからだ。
自己紹介をしておくと、僕は今年で33歳になる。この前まで彼女がいたが、芸人と浮気してたことが判明したから別れた。今の時代、男で一番モテる職業といえば芸人だ。芸人がよぉ~~~!クソがよぉ~~~!
それに比べて、僕はこんな記事を書いてるしょうもないライターだ。人を笑顔にさせることもできなければ、お金も稼げない。おまけにオシャレとかもよくわからないし、残念なことに顔もよくない。それでも夢さえあれば人は輝くこともできるが、驚くべきことに夢すらもない!
僕のようにスペックが低く劣等感を抱きやすい人間は、多人数の空間になんかいかない方がいいに決まっている。周囲の人間と比べて自分が劣っていることを自覚させられ、嫌な気持ちになることの方が圧倒的に多いからだ。
この前も、知り合いに歌舞伎町のキャバクラに連れていってもらったら、YouTubeチャンネル『令和の虎』に出演している某経営者が店にやってきて、一緒に飲んでいたキャバ嬢がそっちに持ってかれてしまった!キャバクラで一番モテる職業と言えば、経営者だ。経営者がよぉ~~~!クソがよぉ~~~!
とにかく、僕は多人数の空間が苦手なのだ。もちろん、この世の誰しもが他人のことを他の誰かと比較していることはわかっている。しかし1対1でいる間は、比較されていることを感じなくて済むことが多い。1対1の相席居酒屋は、僕のような劣等感まみれの人間にうってつけの場所だと思った。
調べてみると『THE SINGLE』は、都内では新宿、池袋、渋谷、恵比寿、銀座、上野などにあるらしかった。新宿はなんとなく怖いし、渋谷は若者が多そうだし、恵比寿や銀座はおしゃれな人が多そうだし、上野は単純に家から遠いから、池袋の店舗に行くことにした。僕は社会人になってから、池袋に5年ほど住んでいたことがあるのだが、その経験に基づく池袋の印象は、「繁華街の中で最も努力できない人間を受け入れてくれる街」である。
「1対1」を売りにしている相席居酒屋へ行ってみた
とある金曜日の夜。『THE SINGLE』池袋店を訪れると、スタッフの若い女性が快く迎えてくれた。まずは公式アプリのダウンロードを求められ、アプリ上で写真付きの身分証明書を提出した。
ダウンロードした公式アプリを見ると、店内の状況が見れるようになっていた。席数は16席あるようで、男性も女性も店内に16人いることが表示されていた。つまりは満席ということだった。そして予約人数のところには40人と表示されていた。金曜の夜だったので、かなり繁盛しているようだった。40人も予約が控えているのなら、もしかしたら今日の利用は難しいかもしれないと思っていると、よくわからないが10分ほどですんなりと案内された。
カーテンで仕切られた個室の席に通され待っていると、スタッフの人が若い女性を連れてやってきた。
「それではアプリで互いのプロフィールをご確認ください」
スタッフの人に言われるがままにアプリを確認すると、目の前の女性のプロフィールが見れるようになっていた。「23歳 看護師」と書いてある。
「プロフィールの確認はお済みですか?」
スタッフの人はそれだけ確認すると個室から出ていき、23歳の看護師と2人きりになった。
「若い人が多いですね!20代とか!」「あっ、30代も!」
それぞれお酒を頼んだあと「じゃあ、とりあえず乾杯」とグラスを合わせると、「乾杯する人なんていないですよ(笑)」と苦笑された。その口ぶりからするに、彼女は何度か『THE SINGLE』を利用したことがありそうだった。「この店ってどんな人が多いですか?」と聞いてみると、
「若い人が多いですね!20代とか!」
と彼女は応えた。それから慌てて、「あっ、30代も!」と付け加えた。
僕は瞬時に察知した。おそらく彼女は「20代とか!」と言ったあとに、僕のプロフィールに書かれていた「32歳」の文字が脳裏をよぎり、気を遣って「30代も!」と付け足してくれたのだろう。
正直に言って、ショックだった。自分はもう若くないことはわかっている。しかし、それが他人の口から、しかも気を遣った結果として知らされるのは、辛いものがある。23歳の彼女からしたら僕は「急に乾杯とかしてくる意味わからないおじ」に見えているに違いなかった。