ロス現地の広告代理店「大谷翔平の経済効果『1168億円予測』でも過小評価」…ショーヘイ首振り人形に狂喜するアメリカ人

 日本人で大谷翔平の活躍を知らない人はいない。在米35年のマーケター、岩瀬昌美氏は、「アメリカの広告・マーケティング業界に身を置く者としても、大谷は全く無視のできない存在となった」と話す。大谷の持つ“力”について、実際に球場を訪れた筆者が語る。

※本稿は岩瀬昌美著「大谷マーケティング 大谷翔平はなぜ世界的現象になったのか? 」(星海社新書)から抜粋、再構成したものです。

第1回:なぜ大谷翔平は全米のママに愛されるのか…東洋人でも「トム・クルーズっぽさ」にメロメロ「在ロス広告大店社長が語る“異次元”のすごさ」

第3回:在米35年のマーケターが語る、大谷の妻・真美子さんが米国人女性から憧れられない理由

目次

高速道路が大渋滞、大谷人気を実感

 ドジャースに移った大谷の人気っぷりは実際にどんなものなのか。それを肌で実感するために、私は大谷の首振り人形が配られるボブルヘッドデーに行ってみることにしました。

 2024年5月17日、米大リーグのドジャースの本拠地があるロサンゼルス市が大谷の実績や日系住民として与えた影響を考慮し、この日を「Shohei Ohtani Day(大谷翔平の日)」に制定しました。5月は米国では、アジア系および太平洋諸島系アメリカ人の功績に敬意を表す「Asian & Pacific American Heritage Month」(アジア・太平洋諸島系米国人の文化遺産継承月間)であり、大谷選手の背番号17にちなみ、5月17日になったと言われています。

 その前日、16日のホームゲームで来場者先着4万名に大谷選手のボブルヘッドドール(首振り人形)が配られました。

 当日は午後7時10分からプレイボール。通常、私の家からドジャー・スタジアムがあるダウンタウンまでは高速道路の有料レーンを使って40分ほど。今回はお土産屋さんもゆっくり見たいし、球場の中の様子も写真に撮りたいと思い、早めの午後4時に出発しました。ある程度の混雑は予測していましたが、すごい渋滞でも午後5時半には着くだろうと楽観視していました。

 しかし、球場に向かう高速道路「I‐110」に乗ったらそれが最後、車が全然動きません。この時間帯は通常、ダウンタウンから郊外へ帰る人が多いので逆方面が混むのですが、この日は有料レーンも大渋滞です。たらたら運転していたらあっという間に2時間が経過し、やっと球場最寄りの降り口の近くまで来たと思ったら、ここからも長かった。結局球場についたのは午後7時で、もう少しで試合が始まるところでした。

 パンパン状態の駐車場になんとか停められる場所を見つけ、すでに疲労困憊の状態で何とか球場にたどりついたわけですが、私にはもう一つ大きな不安がありました。大谷選手の首振り人形をもらえるのか、ということです。もらえるのは先着4万名までです。スタジアムの収容人数は5万6000人なので、満員御礼でなくても全員分はありません。ドキドキしながら走って入場口まで行くと……。

「首振り人形は6時前にはなくなったよ」

 と球場スタッフに言われました。エンゼルスではもらえなかったことはなかったのに……。

 あまりの悔しさからオークションサイトを覗いてみると、首振り人形が250ドル(当時3万8000円)ほどで転売されているではありませんか。本当に悔しかったのでしばらくサイトを見ていたのですが、やがて1500ドル(当時23万4000円)で売っている強気の人も現れました。

報道ヘリが飛び交うほどの注目試合

 そんな中で2024年8月28日、ドジャースが再び大谷の首振り人形を配布するということで、「今度こそは」と満を持して球場へ向かいました。しかも今回の首振り人形は、大谷が愛犬「デコピン」を抱っこしているものです。

 首振り人形の配布数は4万個、対してドジャー・スタジアムの定員は5万6000人ということで、定員の約71%しか人形は用意されていません。その上、金色バージョンの「ゴールデン・オータニ・ボブルヘッド」も数量限定でランダムに配られるといいます。ABCによると金色バージョンは全体の5%、2000個ほどだったそうです。

 配布日である8月28日の一番安いチケットは、ロサンゼルス・タイムズによると131ドル(当時2万円)、翌29日は同じチームとの対戦なのに最安は36ドル(当時約5400円)でした。配布日のチケット代が凄まじくインフレしていることから、大変多くの人がスタジアムに押し寄せることが想定されます。

 これは大変なことになる……そう察知した私は前回の反省から、午後1時前には早くも家を出発しました。

 なんとかスタジアム周辺に到着した午後2時、上空にはメディアの報道ヘリが何台も飛んでいました。8月の終わりにはパリ五輪も閉幕し、NBAもNFLもシーズン前です。全国的にスポーツニュースが薄いので、スタジアム周辺のあまりの混雑っぷりを空撮しにきたのですね。そして選手も球場に入れないというハプニングもあり、通常よりも数時間早く駐車場がオープンしました。

131ドルのチケットでもらえる人形が数千ドルで転売

 そんなこんなで、今回は念願の大谷首振り人形を手に入れられました。そしてなんと、私は金色バージョンを引き当てました。一緒に来場した家族がもらった通常バージョンとあわせて2種類の大谷デコピンドールが我が家を飾りました。

 ちなみに試合の前から大谷の首振り人形は転売価格がつけられており、金色バージョンは転売価格で数千ドルまで跳ね上がっていました。

 ただこの日のあまりの混雑っぷりに、一言文句を言いたいです。

「何故来場者全員でなく4万個しか配布しないのか」

 球団のスタン・カステン社長は地元メディアに対して「スポンサーによっては全員分配布する予算がない」などと話しています。ちなみに今回のスポンサーはダイソーです。予算の詳細は知り得ませんが、広告代理店経営者である私の過去の経験からして、同じ予算内であと1万個くらい人形は作れると思うのですが……。

 5万6000人の球場が一杯になることはロサンゼルス市のGRP(地域総生産)向上にもつながります。このようにオータニ・エフェクトをここロスでは随所に感じる次第です。

 ちなみに、4月2日のANA協賛のボブルヘッドも朝早くから長蛇の列でしたが、当日になって今回のボブルヘッドは全員分あるとアナウンスがされました。このボブルヘッドも2025年5月現在、200ドル以上の値段で売られています。

経済効果1168億円予想でも「過小評価」

 そんなオータニ・エフェクトについて、関西大学の宮本勝浩名誉教授は2024年10月7日、2024年大谷翔平の経済効果は1168億1181万円にものぼると発表しました。当時まだドジャースは2024年ワールドシリーズの出場を決める前で、ワールドシリーズに出場することを仮定して導出された試算です。ちなみにエンゼルス在籍時の2023年の経済効果504億1008万円と比べると約2・3倍になったと言います。

 この経済効果の予想は、むしろ過小評価しているように思います。実はロサンゼルスの最大産業は観光業ですが、大谷の活躍以降、彼を生で観戦するためにロサンゼルスを訪れる日本人ファンが急増しています。スポーツメディアSportsProによると、2024年7月、日本人観光客の訪問数が91.7%増加し、その80%が滞在中にドジャー・スタジアムを少なくとも1回訪問したそうです。

 これを受けて、ドジャーズは日本語ガイド付きのスタジアムツアーを導入し、ゲームデーのメニューに人気の日本食アイテムを組み込むなど、日本向けの観光振興策を強化しています。私はボブルヘッドデーで数時間並ぶのに辟易して後日、並ばずに入れるスタジアムツアーに参加したのですが、これは入場チケットとは別に120ドル(約1万7000円)かかりました。

 また、コロナでホームレスが増えて荒れたロサンゼルスのダウンタウン、リトルトーキョーに大谷翔平の壁画が登場しました。私もロサンゼルスに住んでいながらリトルトーキョーには何年も足を運んでいなかったのですが、大谷の壁画があるとなれば行くしかないといざリトルトーキョーを訪れました。すると、日本人のみならず色々な人が写真を撮りに来ているではないですか。偶然に壁画の作者に会って写真も撮りました。さらに偶然会ったリトルトーキョーの日系ホテルの方に「ホテルの稼働率はどうですか?」と聞くと、毎日が満室だそうで驚きました。これもオータニ・エフェクトです。

岩瀬昌美著「大谷マーケティング 大谷翔平はなぜ世界的現象になったのか 」(星海社新書)

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この記事の著者
岩瀬昌美

ロサンジェルスで日本企業の海外進出のサポートを行うマルチカルチュラル広告代理店「MIW Marketing and Consulting Group, Inc」 CEO/PRESIDENT。今年で創業20周年を迎える。在米30年。名古屋出身。カリフォルニア大学サンディエゴ校で学芸修士、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で経営学修士を取得。2017年 できるアメリカ人11の「仕事の習慣」 日経プレミアシリーズ 日本経済新聞出版社より出版。 2019年Shoku-Iku USA (非営利団体)設立。2012年より米国にて子ども向けクッキングクラスや記事の執筆で食育プロジェクトを推進。

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