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インスタで“子育て大変アピール”するママはなぜ嫌われるのか 愛される人間と嫌われる人間の境界線は「マウントの質」で決まる

(c) AdobeStock

 SNSや日常に溢れる、無意識の「マウント」。誰もが平等や多様性を口にする一方で、なぜ私たちは優劣を競う格付けゲームから逃れられないのか。『「マウント消費」の経済学』(小学館新書)などの著書もある著作家の勝木健太氏は、世の中に溢れるマウンティングの根源は、正解のない時代を生きる私たちの潜在的な「不安」にあると喝破する。

 現代社会の経済を動かしている「マウント消費」の正体から、息苦しいマウント社会を賢く心穏やかに生き抜くための超現実的な処方箋まで、同氏にわかりやすく語ってもらった。全3回の第2回。

 みんかぶプレミアム特集「格差社会サバイバル」第7回。

目次

“健康意識の高い私”を演出するためにわざわざ高級パジャマを買う人たち

 最近のヒット商品に、数万円する高級な疲労回復パジャマ「BAKUNE」があります。メーカー側は当然、その特殊な繊維がもたらす血行促進効果や睡眠の質の向上といった「機能」を前面に押し出して販売しています。

 しかし、この商品がなぜ、この会社を株式上場させるほどのヒットを記録したのか。その裏には、マウント消費のメカニズムが隠されています。消費者が本当に買っているのは、機能だけではありません。「パジャマに数万円もかける、健康意識と経済力を兼ね備えた俺(私)」という、自己満足のストーリーです。

「これを着ればマウントできますよ」とは、どこにも書かれていません。それがミソです。あからさまなマウントは野暮というもの。しかし、これを着てSNSに投稿したり、友人に話したりすることで、「私は自分の身体を大切にする、質の高い生活を送っている人間です」というメッセージを、さりげなく発信できる。この「ステルスマウント」の体験こそが、消費者の心を掴んだのではないでしょうか。

「素敵な夫アピール」から「子育て大変アピール」まで…インスタグラムの底知れぬ闇

 マウント消費がもっとも洗練された形で現れるのが、Instagram(インスタグラム)のようなSNS空間です。ここでのマウントは、もはや高級車やブランド品といった分かりやすい記号ではありません。

「うちの夫、料理が好きで。今夜もパエリア作ってくれるんだよね #夫に感謝」

「子育てが大変すぎて、最近おしゃれなんてしてる暇もないよ~(泣)」

 一見すると、何気ない日常の投稿です。しかし、感受性の鋭い人なら、その裏に隠されたメッセージを敏感に察知するでしょう。前者は「私には家事に協力的で素敵なパートナーがいる」というマウント。後者は「私はおしゃれもできないほど、子育てという尊い営みに身を捧げている」という、自己犠牲をアピールする逆説的なマウントです。

 こうした、ぱっと見では気付けないほど巧妙化されたマウント(いわゆるステルスマウント)は、私たちの心を静かに、しかし確実に蝕んでいきます。

アルゴリズムと欲望の「悪魔合体」が生み出すマウントの無限ループ

 さらに厄介なのは、こうした人間の「自己正当化したい」「さりげなく優位に立ちたい」という根源的な欲求が、SNSのアルゴリズムと「悪魔合体」してしまっていることです。

 SNSのアルゴリズムは、エンゲージメント(いいね、リポスト、コメントなど)が高い投稿をより多くの人に見せようとします。そして、人々の感情を強く揺さぶるマウンティング的な投稿は、嫉妬や羨望、賞賛や反発といった強い反応を引き起こしやすいため、結果的に拡散されやすいのです。

私たちは“マウントの奴隷”になるしかないのか…承認欲求と嫉妬が燃料に

 発信者は、承認欲求を満たし、自分の選択を正当化するためにマウント的な投稿を続ける。受け手は、それを見てモヤモヤし、自分もまた別の形でマウントし返すか、あるいは彼らを痛烈に断罪してくれるインフルエンサーに救いを求める。この構造そのものが、現代社会に「マウントの嵐」を吹き荒れさせているのです。

 私たちは、社会構造とテクノロジーによって、知らず知らずのうちにマウントし、マウントさせられる巨大なゲーム盤の上に立たされている。今ほど、マウントから自由になるのが難しい時代はないのかもしれません。

マウントは絶対悪か?「マウンティング・リテラシー」という新しい教養のすすめ

 ここまでマウントの負の側面を強調してきましたが、物事には必ず光と影があります。実は、マウントは必ずしもネガティブなものではなく、局面によっては、私たちの人生を豊かにし、社会を円滑にするための「武器」や「潤滑油」にもなり得るのです。

 このマウントの持つ二面性を理解し、自在に使いこなす能力。私はこれを「マウンティング・リテラシー」と名付け、これからの時代に必須の教養だと考えています。

愛される人間と嫌われる人間の境界線は「マウントの質」で決まる

 たとえば、ビジネスの現場。新規の取引先から信頼を勝ち取り、大きな案件を獲得するためには、ある程度の「戦略的マウント」は不可欠です。

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この記事の著者
勝木健太

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティングおよび監査法人トーマツを経て、経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたって国内大手消費財メーカー向けに新規事業・デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、2019年6月に株式会社And Technologiesを創業。2021年12月に株式会社みらいワークス(東証グロース:6563)に会社売却(M&A)し、執行役員・リード獲得DX事業部 部長に就任。2年間の任期満了後、退任。執筆協力実績として『未来市場 2019-2028』(日経BP社)『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)、企画・プロデュース実績として『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)がある。

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