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“あの出版社”がまたもファンを裏切る…「表現の自由」、信用失墜の「末路」(前)

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日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

 他者の人権を侵す媒体

 結局、この記事に「GO」が出る会社なのだと思う。

 編集部の「GO」はもちろん、雑誌はおおよそ会社として(それは編集制作部だったり、編集局のさらに上のチェック部署であったり、後述)最終的なチェックが入る。

 この「GO」とは企画が通り、原稿が通り、それを掲載することを決定する意味の「GO」である。担当編集、編集長、そして後述するが社の大なり小なりのチェック(後述)を以て「GO」となる。

 もちろん出版社やその雑誌の社における優先度、ジャンルによっても違うのだが、編集部が単純に雑誌を編んでそのまま書店やコンビニに並ぶのではないことは確かである。あたりまえの話だ。出版社によっては先に企画内容や台割(どこにどんな記事が入るかのリストのようなもの)のチェックが入る場合もあるが、いずれにしろ雑誌が編集部のイケイケで書店に並ぶという出版社を舞台にしたドラマや漫画のような単純な構図でない。

 私は以前、編集部によってその対応はさまざまであり、たとえば同じ会社のある雑誌が「叩き」(特定の対象のネガティブな記事を出すこと)に走れば、同じ会社の別の雑誌が「上げ」の称賛特集を出すことがあることを書いた。それぞれの権利、これは憲法で保障されている著者の「表現の自由」(21条)および、その21条に基づき社によって独自の見解を以て設定している「編集権」によるものである。

【第二十一条】 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2、検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 表現の自由はかけがえのないものだ。自由権は何人もそれを侵してはならない。しかしそれを悪用し、あるいはフリーライドして他者の人権を侵す媒体(それも捏造によって)がある。そうした内容の記事に「GO」を出す出版社がある。

叩いたほうが売れる、という判断

 これは私の実例で以前も少し触れたが編集長時代、同じ出版社のある雑誌がアニメ「機動戦士ガンダム」シリーズについての「叩き」特集を表紙にした号を出した。私はアニメやゲームといった雑誌の編集長をしていたので「なんでこんなものを」と怒ったが各編集部それぞれに「編集権」があり、書き手の「表現の自由」がある。

 当時のサンライズ(ガンダムの版権を持つアニメ制作会社、現在はバンダイナムコホールディングスに吸収されてブランド名のみ)との話し合いで「ガンダムは貴社では扱わせない」と通告された。それでもガンダム以外のサンライズ作品は問題なしとなったが、こういった編集部間の問題は私の会社以外でも総合出版社なら「よくある話」と言っていい。そのジャンル以外の雑誌を出していないような専門出版社ならともかく、雑多に様々なジャンルの雑誌を出している総合出版社では編集部同士の利害関係が一致しなかったりする。もちろん最終的にその調整をするのが編集制作部やそれに類する部署であり、会社の上層部ということになる。

 ちなみに編集制作部(出版社によって名称は異なる)とは各編集部を統括、調整する部署である。雑誌に使う紙はどうするか、印刷所との価格交渉や配本そのものの進行を取り仕切る出版社全体の司令部のような役割を果たす。多くに馴染みのない部署だろうが重要なポジションである。独立したライツの部署がない出版社では雑誌の権利関係や版権展開、対外的な問題にも対応する。編集部よりも上層部に近いポジションと言っていい。

 つまり結局のところ、これで問題なしとしたその編集制作部とさらに上の経営陣、つまり社が決めたことになる。私の雑誌よりその雑誌の売れ行きを取った、といっても構わない。これが『ニュータイプ』や『コンプティーク』(私のころは角川書店、現・KADOKAWA)といった日本を代表するアニメ誌、ゲーム誌を抱えたコンテンツ事業も手掛ける出版社なら編集制作部どころかもっと上から「そんな特集はやめろ」となっただろう(というか、まずしない)。私の主戦場は『コンプティーク』だったが『ニュータイプ』関連(増刊、ムックなど)の記事も書いていたのでよくわかる。

 アニメやゲームが主力の角川ならガンダムは大切なコンテンツなので叩かないが、そうでない出版社なら叩いたほうが売れると判断する、というわけである。繰り返すがその判断は編集制作部といった統括する部署であり結局のところその会社の経営陣である。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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